イタヤは村があった場所まで行くと、瓦礫に向かって叫んだ。
「誰か、誰か居ないのか!?」
死体の1つでもあれば、まだ現実感が湧くというものなのだろう。生きた人間も、死んだ人間も、そこには居なかった。
「何が、何が起きたんだよ!!!」
イタヤが叫ぶと、ウリハも忘れていた涙がふっと溢れてくる。
その時、思った。俺がもし強かったら、もっともっと強かったら、村を守れた。全部守れた。
冒険者になるにしては遅い年だったが、故郷を失ったイタヤはこうして冒険者になってしまう。
「あっ!!」
イタヤはそんな声を出して飛び起きる。部屋にはウリハが居た。
「どうした?」
「いや、村の、あの時の夢を見ていた……」
そう言うと呆れてウリハが返す。
「アンタ、何度目だい? その夢」
「忘れられるもんじゃねぇさ……」
はーっと息を吐いてイタヤの近くまでウリハはやって来た。
「昼飯でも食うかい? サワの分も作ってやらないとならないし」
今、街は混乱状態で飯屋はやっていない。久しぶりに無駄に美味いウリハの料理を食べる事になりそうだ。
「あぁ、頼んだ!!」
アシノ達の部屋では皆、ソワソワしていた。爆睡するルー以外はだが。
サワもユモトもヨーリィに魔力を送ってみたが、焼け石に水状態だった。
ユモトは一体ムツヤさんはどれ程の魔力を送っていたのだろうと考える。
「ユモト、そろそろ魔力を温存しておけ。戦いになるかもしれないからな」
「あ、はい……。そうですね」
「ヨーリィも戦いは私達に任せて、消耗しない事だけを考えろ」
「わかった」
そんなアシノ達の部屋にウリハが1人で訪ねてきた。
「皆さん、昼飯を作ろうと思うのですが、食べますか?」
「えぇ、ありがとうございます」
アシノが言った後ユモトとモモが立ち上がり「お手伝いします」と言うが、ウリハは断る。
「いえ、今日は1人で村の郷土料理を作ろうと思いますので。大丈夫です。皆さんは休んでいて下さい」
それならばと、ありがたく休ませてもらう事にした。
これならば、アイツに懐かしい料理を食わせてやることが出来るなと、上機嫌で下の階へと向かった。
ウリハは宿の台所を借りて郷土料理『ケンチンスープ』を作ることにする。従業員は自宅に避難しているため、貸し切りだ。
魚の煮干しを水で沸騰させ、出汁を取り、そこに、いちょう切りにしたニンジンと大根、舞茸を入れる。
昨日店で買っておいた油揚げや豆腐、こんにゃくといった東の地域の食材を取り出した。この街で売っているとは思わなかったので少し驚いたが。
薄く切った猪の肉と柵状に切った油揚げ、こんにゃく。さいの目に切った豆腐を入れて味噌を溶かす。沸騰すると香りが消えるので絶妙な加減で煮込む。
最後に煮崩れしやすいじゃがいもを入れ、少し煮て、ネギを散らして完成だ。
一緒に仕掛けておいた米もうまく炊けた。
上の階で腹をすかせた勇者と冒険者を呼ぶと、皆ワラワラとやって来た。
「おっ、見事なケンチンスープじゃねーか!!」
イタヤは開口一番に言った。サワも懐かしい故郷の料理の香りについ顔が緩む。
「私の村の郷土料理、ケンチンスープです。皆さんのお口に合うか分かりませんが……」
「大丈夫大丈夫、美味しいよー」
いつの間にかちゃっかり座り食べているルーの頭をアシノが引っ叩くと「もんじゃ!!」と声を上げて沈んだ。
それぞれ席に着いて、食事の前の祈りやらを済ませると、食べ始めた。
「美味しい、美味しいです!」
「それは良かった」
ユモトが言うとウリハはニッコリと笑った。あまり笑顔を見せない人だなぁと思っていたユモトは思わずドキリとする。
皆、ケンチンスープと米を食べて、心から美味しいと思っていた。
「本当はじゃがいもじゃなくて、サトイモが手に入れば完璧だったのですが」
食事が中ほどまで進んだ時、ふとウリハが口にした。
「あー、サトイモって俺らの村の周りでしか栽培できないからなー」
「そうなんですか?」
ユモトが聞くとサワが答える。
「えぇ、夏暑く、冬寒い地域でよく育つんですよ」
「そうなんですね! イタヤさんの村ってどんな村なんですか?」
そこまでユモトが聞くと、アシノとルーはしまったと思い固まってしまう。
「あー、えっとだなー」
イタヤが気まずそうに言うと、ウリハが急に謝りだした。
「しまった。申し訳ない、食事中にする話題ではありませんでした……」
ユモトやモモが不思議そうにしていると、サワが口を開いた。
「ウリハさん、仕方がないですよ。私達の村は魔物によって滅びました」
「そ、そうだったんですか……。すみません」
「いや、悪いのは私です」
ユモトとウリハは互いに何度も謝っていた。そんな時ルーが突然何かを言い出した。
「まぁ、それはそれとして、イタヤさんとウリハちゃんって恋人なの?」
突然の話題にウリハは固まるが、イタヤは爆笑し始める。
「ハッハッハ、よく間違えられるが、ウリハは幼馴染で妹みたいなモンだな!」
「そう、コイツとは腐れ縁です」
お互いそう否定をしていたが、妙に慣れているし息が合ってるなとも思えた。
昼食からしばらくして、サワから強化した探知盤が出来たと報告があった。
「こんな便利なもんが出来るんならキエーウとの戦いの時に欲しかったな……」
「そうよねー」
アシノとルーがそんな会話をしている前でサワが探知盤を操作する。
「あっ、東の方向に赤い点が見えます!!」
イタヤが地図を取り出して、その場所を照らし合わせた。
「その場所は貴族の城だぞ?」
「恐らく、占領されたのでしょう」
アシノが言うとイタヤがうーんと考えた後に話し始める。
「占領されたって噂は聞かないから、ここ数日で一気に攻められたって感じか……」
「えぇ、そうでしょうね」
「それでしたら、一刻も早く向かいましょう!」
今にも、モモは飛び出して行ってしまいそうだった。
だが、アシノはそれを止めない。
「あぁ、馬車に乗って一気に攻め込むぞ!!」
「はい!!」
部屋を出る前に回復薬の再配布を行った。残る回復薬は18本
前衛を務めるイタヤとウリハが4本づつ持ち、残りは回復薬が効かないヨーリィ以外が2本づつ持った。
馬車に乗り込んで一気に馬を走らせる。1日半あればムツヤの元へとたどり着けるだろう。
モモは無言のままで馬車を走らせる。その後ろでユモトは浮かない顔をしていた。アシノは大きな声で言う。
「心配すんな、アイツはきっと無事だよ」
「えぇ、そうですね…… でも、ムツヤさんが居ない戦いは…… 少し不安です」
「大丈夫よー、勇者が2人も居るんだから問題ないわ」
ルーがケラケラ笑って言うと「そうですね」とユモトも笑った。
「私を人数に入れて貰っては困るんだがな……」
アシノは、はぁーっとため息をつく。それからしばらく無言が続き、またもアシノが話し始めた。
「思えば、私達はムツヤに頼りすぎていたかもな」
「そうよねー、ムツヤっち強いし何でも持ってるし」
ルーが言うとユモトも続く。
「そうですね、それに優しいです」
「それでいて、そこそこ顔も良いでしょ? 常識をもっと身につけたら女の子にモテモテよ!!」
モモがピクッと動いた気がしたが、気のせいだろう。
「何だか、こんな事言ってると、アイツの葬式みたいで縁起でも無いな。やめだやめ」
そう言ってアシノは荷物にもたれ掛かって目を瞑ってしまった。