城まであと1日で着くかと言った距離になり、モモは馬車を更に加速させたが、アシノに止められてしまう。
「モモ、ダメだ。馬が潰れちまう。それに夜の行軍は危険だ」
「アシノ殿、ですが……」
「私達がフラフラの状態でムツヤの下にたどり着いたら、二次災害になっちまう。ムツヤを助けたいなら、今は休め」
「……、はい」
イタヤ達の馬車に連絡をとって、今日は道中の街で泊まることにした。
勇者達の来訪とあって、野次馬が現れたが、街の権力者が
そして、宿屋で疲れを癒そうとした、その時だった。
空から街に青い火の玉が降り注ぐ。一瞬で住民たちはパニックになった。
「アシノ殿!! 空から火の玉が!!」
「向こうからおいでなすったか!!」
外に飛び出ると空には人が浮かんでいた。紛れもない、魔人だ。
「勇者のみなさーん。ダーリンは、私のダーリンになりましたー!!! 無駄な抵抗はやめて出てきてくださ―い!!!」
魔力で音を増幅させているのだろう。ふざけた口調がビリビリと全身に響く。
「ダーリンとは誰のことだよ」
アシノが叫ぶと、魔人からの返事が来る。
「ダーリンはダーリンだよ?」
「お前、頭悪いのか? ムツヤのことか?」
「そうだよー?」
それを聞いて全員に緊張が走った。ムツヤが魔人の仲間にと。
だが、アシノ達はムツヤがそんな事をするはずが無いと固く信じていた。
「ふざけるな!! ムツヤ殿はそんな方じゃない!!」
「キスしたらすぐ仲間になってくれたよ?」
一瞬、皆がポカーンとしたが、ここで、それぞれどう反応したか見てみる。
ユモトはキスと聞いて顔を赤くしていた。ムツヤさんがキスで仲間に……、いや、まさかそんな……
アシノは思った、ムツヤの事は信じているが、ハニートラップを前にされたら……、いや、まさか……
ルーは修羅場キター!!! っと目を輝かせていた。
ヨ―リィは何を考えているか分からない!!
最後にモモは……
「嘘だッ!!!!」
「嘘だ嘘だ嘘だ!!!!」
何らかの症候群を発症したかのように嘘だと言い続けていた。
「嘘じゃないよー?」
不思議そうな顔をして魔人は言う。その隙きを逃さずにイタヤが光の刃を魔人に向けて飛ばした。
片手で軽々しくそれを弾かれ、流石に冷や汗が流れ落ちる。
「なぁ、可愛いお嬢さん。俺にもキスの1つでもしてくれないか?」
焦りを隠すように軽口を叩いてニヤリと笑う。
「おじさん、くさそうだからヤダ」
おじさん
くさそう
「グボアッ!!!」
イタヤは心に9999のダメージを負った。
「なに固まってんだい、行くよ!!」
ウリハの声でイタヤはハッと我に返る。その後ろではサワとユモトが魔法の詠唱を始めていた。
「貫け、雷よ!!!」
二本の雷が地上から空へ昇ってゆく。サワの雷はユモトが打った物の数倍太かったが、それらは混じり合い一本の雷になった。
ウリハはラメルの足元まで走ると、両足に魔力を込め、高く飛んでから地面を踏み抜いた。
ブワッと風が舞い上がり、ウリハの体は天高く飛んでいく。
それと同時に雷がラメルを貫き、ウリハが下から追撃で真っ二つにした。
ラメルの体は光と共に消えていき、街からは歓声が上がるが、勇者と仲間たちはその光景に疑問を抱く。
そして、確信していた。
魔人がこれぐらいで死ぬはずが無いと。
「分身体か、撤退したか、ですかね」
イタヤが言うとアシノは「えぇ、おそらくは」と答えた。
「分身だとして、分身体でここまでの攻撃が出来るのか……」
街中に振り注いだ火の玉を思い出してイタヤは言った。今は街の衛兵が主導して、住民と共に消火活動をしている。
しばらくして、街は鎮火し終えたと衛兵から報告があった。建物が数件燃え、けが人も出たが、死者は出なかったらしい。
「私達が訪れたことで街を危険に巻き込んでしまいました。申し訳ありません」
アシノが街の議員に謝罪をする。
「いえいえ、勇者様方は魔人から街をお守り下さいました」
再度一礼してアシノ達は街を出た。自分たちが居れば、また魔人が来るかもしれない。
ムツヤの裏の道具である馬はまだまだ元気そうだが、イタヤ達の馬車を引く馬は限界が近そうだった。
なので、馬を借り、また月明かりの中ムツヤが囚われているであろう貴族の城を目指す。
裏の道具の反応である赤い点はずっと動いていない。
しばらく馬車を走らせると、人気のない草原に出た。
ムツヤの持っている家の出る本を使えれば楽なのだろうが、持ち合わせていないので、テントを設営する。
「地図を見るに、あの山の
ルーが遠くを見つめて言う。サワが千里眼を使うと、確かに城が見えた。
「何だってこんな辺鄙な場所に城を建てるかね。金持ちの考えることはわからんわ」
イタヤはため息をついて言う。
「サワ、城の様子はどうだ?」
ウリハが言うとサワが答えた。
「明かりは付いているし、人の気配もしますね」
「城の人間が魔人に脅されて使われてるのか?」
イタヤが言うとアシノが腕を組んで話した。
「そうかも知れませんね」
イタヤは何か相槌を打つ代わりに拳を固く握って城の方角を見る。
夜が