翌朝、テントから出ると清々しいほどの快晴であった。すぐ近くに魔人が居るとは思えないほどだ。
朝食を軽く済ませると、アシノが言った。
「皆、準備は大丈夫か?」
それに全員が返事をする。アシノが頷くと馬車に乗り込んだ。
貴族の城を目指して走っていると、途中で私兵らしき者が道を塞いでいた。
「止まれ、この先は通行止めだ」
「私は勇者アシノと勇者イタヤです。この先の城が魔人に占拠された可能性があります。通してもらいたいのですが」
「ダメだと言ったらダメだ!!」
アシノはユモトに目で合図を送った。
「スリープ!!」
兵士たちはカクンと気を失って倒れる。
「やはり、城の者たちは催眠に掛かっているようですね」
「そうですか、それじゃどうしますか?」
「少人数に別れて、城に侵入できないか試してみましょう。騒ぎにならないように、です」
「わかりました」
馬車をここで置いて、皆はそれぞれ四方から城へ近づくことにした。
「何だお前は!!」
まず、南から向かったユモトとヨーリィ、サワが私兵に見つかっていた。
「こんにちはー、カスタードプディング屋ですぅ」
ユモトは満面の笑みで言う。
「なんだ、ただのプリン屋か」
私兵は騙され、納得していた。催眠が掛かっている者は思考能力が低下してしまう欠点もある。
「違います、カスタードプディング屋です!!」
ここで、サワがプリン屋と言われた事に対して訂正を入れる。
「……カスタードプディング屋が何のようだ?」
怪しげな視線を投げかけながら私兵は言う。それに対してユモトは答えた。
「カスタードプディング屋ですから、カスタードプディング売ってます!」
面倒くさくなったのか私兵はイラついている。
「あぁ、もううるさい!! どこか別の場所でやれ、殺すぞ!!」
「なんですか? 営業妨害ですか?」
サワが言うととうとう私兵はキレた。
「貴様ふざけるな!!」
「カスタードプディング一筋10年、ふざけた事など一度もありゃせんぜ旦那!!」
サワはノリノリになって言っている。ユモトも内心「サワさんってこんな感じの人だったっけ」と思っていた。
「口調をコロコロ変えるな!!」
「まぁまぁ、1個タダでサービスしますから見逃して下さいよ」
そう言ってユモトはカスタードプディングを取り出す。
「当店はお客様のお口に直接カスタードプディングを流し込むサービスを行っておりまーす」
サワが言うと私兵は大声を上げる。
「それサービスじゃねーよ!! ただの嫌がらせじゃねーか!!」
「つべこべ言わず食べて下さい!!」
「うぐっ!!」
ユモトは私兵に近づいて手に持ったカスタードプディングを無理やり食べさせた。
「こ、これは!! 美味い!! 美味い!!」
その言葉を最後に私兵は眠りについてしまう。
「なお睡眠魔法のトッピングもサービスとなっておりまーす」
サワがふふっと笑いながら言った。
「こ、これで大丈夫なんでしょうか?」
「きっと大丈夫ですよ、ユモトさん!!」
その頃、東からやって来たイタヤとウリハも私兵に見つかっていた。
「おい、貴様たち何をうろついている!!」
「あーいえ、すみません。私は詩人でして、ここら辺を歩いていたら、何か良いポエムが思い浮かびそうで……」
イタヤがヘラヘラと言うと当然私兵は疑いの目を向ける。
「胡散臭いな……、ならば何かポエムを読んでみろ」
咳払いを一つしてイタヤは答えた。
「わかりました」
―僕の愛はあんころ餅―
僕の愛は甘いあんころ餅
きなこ餅とはちょっと違う
ズッキーニとはだいぶ違う
おはぎとはかなり似ているけれど
僕の愛は甘いあんころ餅
だけれど現実は厳しいのさ
僕の愛が伝わる頃には
それはしょっぱい塩辛になってしまうのさ
そうさ君に甘い気持ちは伝わらない
僕の愛は甘いあんころ餅
君に伝えたこの心
そして前科一犯
「前科一犯って何したんだよ!! ってか、お前、絶対詩人じゃないだろ!?」
私兵がイタヤにツッコミを入れる後ろでウリハはまた、ため息をついている。
「次は、とっておきのポエムを読みましょう」
「話を聞けよ!!」
―愛はバタークリーム―
愛はバタークリームと似ている
おいしくても食べすぎると気持ち悪くなる
愛も深すぎると胸焼けをしてしまう
愛はバタークリームと似ている
マーガリンの偽バタークリームはまずいのさ
愛だって偽物だったらまずいんだ
愛はバタークリームと似ている
バターを使ったバタークリームはおいしいのさ
愛だって本物なら相手に伝わるのさ
愛はバタークリームと似ている
僕の愛も君に伝わるかな
そして前科二犯
「全然伝わってねーじゃねーか!! だから何をしたんだよお前は!! 前科増えてるだろうが!!」
「黙れ、お前は白滝でも食ってろ!!」
ポエムを馬鹿にされたイタヤは懐から取り出した白滝を私兵の口に押し込んだ。
「うぐっ!! こ、これは…… ダシが効いて……」
そのまま私兵は眠りにつく。
「お前の心はさしずめ、がんもどきと言ったところだな」
ハッハッハと笑うイタヤを放って置いてウリハは城へと向かっていった。