城の北にはどこからやって来たのか子供達が集まっていた。それを城の私兵が見つける。
「なんだ……、あれは?」
「紙芝居はじまるよー」
アシノが紙芝居を持って子供達の前に居た。
「おい貴様、こんな所で何をしている」
「何って……、紙芝居だ」
不思議そうな顔でアシノが答える。
「それは見れば分かる! だが、何故ここで……」
「だめか?」
「いや、別にダメとかじゃないけど……」
そう言われてアシノは気を取り直して紙芝居を始める事にした。
「それじゃあ始めるぞ―。良い子のみんなwith悪い子まさし君!!!」
「ハーイ!!!」
掛け声をかけると子供達の無邪気な返事が返ってくる。
「おいィ! まさし君可哀想だろ!!」
私兵がツッコミを入れるが、アシノはスルーして紙芝居のタイトルを読み上げた。
「今日の紙芝居は『みっちゃんと物知りおばあちゃんと熟年離婚』だ」
「待て待て待て! 内容重すぎだろーがぁ!!」
そう言われてアシノは別の紙芝居を取り出す。
「それじゃ、『三人の勇者と熟年離婚』だ」
「おいィ! どうやって話に熟年離婚絡めんだよ!!」
うーんと唸って、アシノはそうだと別の紙芝居を取り出す。
「じゃあ『百人の小人と熟年離婚』は?」
「だからなんでそこまで熟年離婚にこだわるんだよ!! 定年を迎えた夫の妻か!?」
「社会問題だからこそ取り上げてるんだ」
「そうやってメディアが煽るから状況が悪化するんだよ!」
怒る私兵に、アシノはため息を付いて言う。
「まったく、いい歳越えた大人が子供の見るものにグチグチ口出すなよ」
「だからこれ子供に見せる内容じゃねーだろ!!」
次の瞬間私兵の顔に石が投げつけられた。
「って痛っ!! 誰だ今石投げたの!!」
「まさし君だ」
「チクショー! まさし君本当に悪い子じゃね―か! 庇ってやって損した!!」
「いいから、ほれ。水飴やるから帰れ」
アシノは私兵に水飴を渡そうとするが、それを受け取らずに言う。
「とにかく、こんな所でそんな紙芝居など認めん」
「ほら、遠慮せず食っておけよっと」
アシノは水飴を無理やり私兵の口に押し込んだ。
「うぐっ!! こっ、これは…… 甘いっ!!」
そして、次の瞬間には私兵は眠りについてしまった。
それを見届けた後、子供達に普通の水飴を配って、隠れて見ていたモモと一緒に城を目指す。
「さぁ、みんな寄ってらっしゃーい。見てらっしゃーい!!!」
城の西側で大きな声がしている。
「なんだ?」
見回りに来た私兵が気付いてその声のする方へ向かった。
「ほらほら、良い子のみんなー! 幸せ屋さんだよー!」
ルーが道端に物を広げて商売をしていた。
「貴様、何をしている」
「私は幸せ屋さん。皆が幸せになれる物を売っているよ!!」
「お姉ちゃん、このひよこなーにー?」
子供が指をさしてルーに尋ねる。
「おぉ、良いものを見つけたね。このひよこは幸せの青いひよこだよ」
「青いひよこ?」
聞き返されると頷いてルーは答えた。
「そう、青い鳥は幸せを呼ぶのよ」
「ちょっと待てお前…… これ、カラーひよこじゃ……」
※知らない人は大人の人に聞いてみてね!
私兵が言うのをスルーしてルーは商品説明を続ける。
「お次はこれよ!! この小さなおもちゃはお湯に入れるとあら不思議!! 20倍に膨らんじゃうわ!!」
「ほんとにー?」
「えぇ、そうよ。これが膨らむと共に幸せも膨らむのよ。お魚やカニ、こっちはドラゴンの奴もあるわよ!!」
「幸せ関係なくね?」
私兵の言葉にルーはため息を付く。
「お客さん、営業妨害はやめてくれませんかね?」
「何が営業妨害だ!! っていうかお前の売ってるものなんか妙に懐かしいんだよ!!」
私兵が言うと、ルーはゆっくりと言葉を返した。
「お客さん、あなた大人になるにつれて『小さな幸せ』を見付けることが出来なくなったんじゃないのかしら?」
「何だと!?」
「小さな頃は光る石も、道路の動くアリも、全てが不思議に見えた。そこら辺の木の枝も落ち葉も宝物だった」
ルーは続けて言う。
「大人になるにつれ、小さな宝物を無くしていくのは仕方がないわ」
ルーは手を広げて話し続ける。
「だけど、心の小さな宝物まで無くしちゃうのは悲しいと思わない? 私は、そんな大人たちに小さな宝物を」
「これくださーい!!」
子供が言うとルーは笑顔になって近くまで駆け寄った。
「はいはい、ありがとー!! 20バレシだよー!!」
「わーい!!」
咳払いをしてまた私兵の方を向いてルーは言う。
「私はそんな大人たちに小さな……」
「これってなにー?」
「はいはい、これは下の棒を持って振ると紙が伸びちゃうのよ!!」
「すごーい!!」
また咳払いをしてルーは私兵を見据えて言う。
「私は、そんな大人たちに小さ」
「これちょうだい!!」
「はいはいはい、ありがとう!! 20バレシね!!」
「わーい!!」
またまた咳払いをして私兵を見てルーは言う。
「私は、そんな大人たちに」
「もういいわ!! 何回おなじ所繰り返してるんだよ!!」
私兵は、それはもうブチギレていた。
「何回もおなじ所を繰り返すなんて、まるで壊れかけのレデ」
「黙れ、とにかくここから立ち去れ!!」
「仕方ないわね、眠ってもらうわ!!」
ルーは売り物に紛れ込ませておいた吹き矢を咥えて私兵を打った。
「いてっ!! なにす……」
私兵は眠りに付く。
「さーて、ムツヤっちは無事かしらね―?」