目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

囚われの田舎者 4

 城の北にはどこからやって来たのか子供達が集まっていた。それを城の私兵が見つける。


「なんだ……、あれは?」


「紙芝居はじまるよー」


 アシノが紙芝居を持って子供達の前に居た。


「おい貴様、こんな所で何をしている」


「何って……、紙芝居だ」


 不思議そうな顔でアシノが答える。


「それは見れば分かる! だが、何故ここで……」


「だめか?」


「いや、別にダメとかじゃないけど……」


 そう言われてアシノは気を取り直して紙芝居を始める事にした。


「それじゃあ始めるぞ―。良い子のみんなwith悪い子まさし君!!!」


「ハーイ!!!」


 掛け声をかけると子供達の無邪気な返事が返ってくる。


「おいィ! まさし君可哀想だろ!!」


 私兵がツッコミを入れるが、アシノはスルーして紙芝居のタイトルを読み上げた。


「今日の紙芝居は『みっちゃんと物知りおばあちゃんと熟年離婚』だ」


「待て待て待て! 内容重すぎだろーがぁ!!」


 そう言われてアシノは別の紙芝居を取り出す。


「それじゃ、『三人の勇者と熟年離婚』だ」


「おいィ! どうやって話に熟年離婚絡めんだよ!!」


 うーんと唸って、アシノはそうだと別の紙芝居を取り出す。


「じゃあ『百人の小人と熟年離婚』は?」


「だからなんでそこまで熟年離婚にこだわるんだよ!! 定年を迎えた夫の妻か!?」


「社会問題だからこそ取り上げてるんだ」


「そうやってメディアが煽るから状況が悪化するんだよ!」


 怒る私兵に、アシノはため息を付いて言う。


「まったく、いい歳越えた大人が子供の見るものにグチグチ口出すなよ」


「だからこれ子供に見せる内容じゃねーだろ!!」


 次の瞬間私兵の顔に石が投げつけられた。


「って痛っ!! 誰だ今石投げたの!!」


「まさし君だ」


「チクショー! まさし君本当に悪い子じゃね―か! 庇ってやって損した!!」


「いいから、ほれ。水飴やるから帰れ」


 アシノは私兵に水飴を渡そうとするが、それを受け取らずに言う。


「とにかく、こんな所でそんな紙芝居など認めん」


「ほら、遠慮せず食っておけよっと」


 アシノは水飴を無理やり私兵の口に押し込んだ。


「うぐっ!! こっ、これは…… 甘いっ!!」


 そして、次の瞬間には私兵は眠りについてしまった。


 それを見届けた後、子供達に普通の水飴を配って、隠れて見ていたモモと一緒に城を目指す。



「さぁ、みんな寄ってらっしゃーい。見てらっしゃーい!!!」


 城の西側で大きな声がしている。


「なんだ?」


 見回りに来た私兵が気付いてその声のする方へ向かった。


「ほらほら、良い子のみんなー! 幸せ屋さんだよー!」


 ルーが道端に物を広げて商売をしていた。


「貴様、何をしている」


「私は幸せ屋さん。皆が幸せになれる物を売っているよ!!」


「お姉ちゃん、このひよこなーにー?」


 子供が指をさしてルーに尋ねる。


「おぉ、良いものを見つけたね。このひよこは幸せの青いひよこだよ」


「青いひよこ?」


 聞き返されると頷いてルーは答えた。


「そう、青い鳥は幸せを呼ぶのよ」


「ちょっと待てお前…… これ、カラーひよこじゃ……」

 ※知らない人は大人の人に聞いてみてね!


 私兵が言うのをスルーしてルーは商品説明を続ける。


「お次はこれよ!! この小さなおもちゃはお湯に入れるとあら不思議!! 20倍に膨らんじゃうわ!!」


「ほんとにー?」


「えぇ、そうよ。これが膨らむと共に幸せも膨らむのよ。お魚やカニ、こっちはドラゴンの奴もあるわよ!!」


「幸せ関係なくね?」


 私兵の言葉にルーはため息を付く。


「お客さん、営業妨害はやめてくれませんかね?」


「何が営業妨害だ!! っていうかお前の売ってるものなんか妙に懐かしいんだよ!!」


 私兵が言うと、ルーはゆっくりと言葉を返した。


「お客さん、あなた大人になるにつれて『小さな幸せ』を見付けることが出来なくなったんじゃないのかしら?」


「何だと!?」


「小さな頃は光る石も、道路の動くアリも、全てが不思議に見えた。そこら辺の木の枝も落ち葉も宝物だった」


 ルーは続けて言う。


「大人になるにつれ、小さな宝物を無くしていくのは仕方がないわ」


 ルーは手を広げて話し続ける。


「だけど、心の小さな宝物まで無くしちゃうのは悲しいと思わない? 私は、そんな大人たちに小さな宝物を」


「これくださーい!!」


 子供が言うとルーは笑顔になって近くまで駆け寄った。


「はいはい、ありがとー!! 20バレシだよー!!」


「わーい!!」


 咳払いをしてまた私兵の方を向いてルーは言う。


「私はそんな大人たちに小さな……」


「これってなにー?」


「はいはい、これは下の棒を持って振ると紙が伸びちゃうのよ!!」


「すごーい!!」


 また咳払いをしてルーは私兵を見据えて言う。


「私は、そんな大人たちに小さ」


「これちょうだい!!」


「はいはいはい、ありがとう!! 20バレシね!!」


「わーい!!」


 またまた咳払いをして私兵を見てルーは言う。


「私は、そんな大人たちに」


「もういいわ!! 何回おなじ所繰り返してるんだよ!!」


 私兵は、それはもうブチギレていた。


「何回もおなじ所を繰り返すなんて、まるで壊れかけのレデ」


「黙れ、とにかくここから立ち去れ!!」


「仕方ないわね、眠ってもらうわ!!」


 ルーは売り物に紛れ込ませておいた吹き矢を咥えて私兵を打った。


「いてっ!! なにす……」


 私兵は眠りに付く。


「さーて、ムツヤっちは無事かしらね―?」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?