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第103話 フリーバード




 高ランク魔獣オークロードの攻撃を難なく防いだシルバーは続けてフリーバードの羽2枚を地面に付けて低姿勢の構えをとった。羽と足に魔力を込めたシルバーはやたらと大きい声で必殺技の名を叫ぶ。


2枚跳躍にまいちょうやく!」


 そのまま過ぎるネーミングが口から発せられると同時にシルバーの足と羽が地面を蹴った。力強い踏み込みは土を大きく跳ね上げ、シルバーの体は瞬時にオークロードの左斜め後ろへ移動する。


 反応の遅れたオークロードへ羽を光らせたシルバーが連撃を叩き込む。


「いくぞぉぉ、4枚殴打よんまいおうだ!」


 またもや直球なネーミングと共に跳躍に使わなかった残り4枚の羽がオークロードの横腹に叩き込まれた。


「グギャッギャァァッ!」


 4発の打撃で肉がめり込み、骨は軋む音をたて、うめき声をあげながらオークロードの体は大きく吹き飛ぶ。


 シルバーの攻撃は1枚1枚がかなりの威力だった。痙攣しているオークロードを尻目にシルバーが感想を話し始める。


「いやぁ、とどめを刺すつもりで4枚攻撃を使ったんだが無理だったな。この辺りでは見た事がない魔獣なだけはある。オークロードは相当強いぞガラルド。これが魔獣活性化ってやつか?」


「魔獣活性化の恐ろしさは俺もつくづく身に染みているさ。だが、そんなオークロードを1撃で瀕死に追い込んだシルバーは大したもんだよ。俺は過去にオークロードよりも弱いハイオークと戦ったが、それですら死闘だったぞ」


「いやいや、謙遜するなよガラルド。さっき1撃でハイオークを倒したお前を遠くから見ていたが、俺よりも1枚2枚上手だったぜ、俺の羽は6枚だがな、フッハッハ」


 シルバーはよく分からないギャグを挟みながら俺を褒めてくれた。お互いの強さを褒め合っていると倒れていたオークロードが突然起き上がり、こちらに背を向けたまま勢いよく逃げ出した。


 このまま逃げられて別のところを襲われたらまずい……急いで追いかけなければと足に回転砂を溜めているとシルバーが俺の肩を掴み制止させる。


「ちょっと待ってくれガラルド、オークロードは俺の獲物だって言っただろ?」


「そうしてやりたいのは山々だが、サッサと追いかけないと他の人が襲われるぞ! 追いかけるなら機動力がある俺かリリスが追った方がいい」


「大丈夫大丈夫、俺のフリーバードは一瞬の跳躍だけじゃなくて、長めの移動だって速いんだぜ、見てろよ」


 そう言うとシルバーは6枚の羽を全て地面に着ける。羽は大きいから全ての羽をつけると当然シルバーの体は浮いた状態になる。ややシュールな見た目からシルバーは再び技を叫ぶ。


6枚疾走ろくまいしっそう!」


 シルバーが叫ぶと今度は6枚の羽が蜘蛛の手足のようにカサカサと動き出し、馬よりも遥かに速いスピードでオークロードを追いかけはじめた……正直少し気持ち悪い。


 6枚の羽がせわしなく動いている間、シルバーは仰向けの姿勢で移動しているから、まるで担架で運ばれているような絵面となっていて少し笑える。


 オークロードとの距離をみるみる縮めたシルバーは残り10メード程まで近づいたところで4枚の羽を畳み、再び2枚跳躍にまいちょうやくでオークロードの側面へ回り込む。そして……


「今度こそとどめだ! 4枚殴打よんまいおうだ!」


 既に傷ついているオークロードの横腹に4枚の羽で追撃を叩き込む。


「ウゴアアァァッッ!」


 大ダメージを2度も受けたオークロードは断末魔をあげ、今度こそ息絶えたようだ。シルバーの圧倒的勝利である。シルバーの元まで駆け寄った俺はシルバーの勝利を称える。


「よくやったシルバー、まさかあんな動きまで出来るなんてな。そのスキルに弱点なんかないんじゃないか?」


「いやいや、そんな事ないぞ。羽は1枚1枚力を持っているが打撃や跳躍のような瞬間でエネルギーを使う行動に利用すると、一呼吸置かないと再使用できないからな。だから何度も拳撃と防御を繰り返すような殴り合いには向いてないんだ」


 シルバーは頭を掻きながら謙遜しているが、それでも一撃必殺級の破壊力があるから充分強力なスキルだと思うのだがどうなんだろうか? きっとフリーバードがあったからこそ危険な冒険を続けることが出来てアーティファクトを見つけられたんじゃないかと個人的には思っている。


 エナジーストーンの戦闘員だけでも相当強いのに俺達やシルバーがいれば鬼に金棒だ。このままいけば圧倒的に勝利する事が出来るだろう。俺は残りの魔獣を迅速かつ安全に討伐できるよう皆に気合を入れることにした。


「この調子で残りの魔獣もガンガン倒していこう。ただしいくら勝てそうな魔獣でも油断はするな。皆の健闘を祈る、いくぞ!」


「おうよ! 任しとけ!」


「はい! 私も2人ほどの攻撃力はありませんが、頑張りますよ、ムンッ!」


 そして、俺達は魔獣がいなくなるまで討伐を続けた。最初に魔獣を発見してから2時間ぐらい経った頃だろうか。ようやく魔獣が全ていなくなって俺達の戦いは終わった。


 戦闘員の優秀さと地の利を活かした戦術で危なげなく魔獣の大群を退ける事ができたものの、正直シンバードが襲われた時よりも魔獣が手強く、数も2倍以上いたと思う。このまま活性化の歯止めが効かなくなったら襲われる周期が分かっていても対応できない日が来るかもしれない。







 八十魔日はちじゅうまじつから一夜明け、俺達ドライアド組は町長の家を訪れていた。ドライアドに戻る前にお世話になったお礼を言う為だ。


 家の入口まで来てくれた町長に対し俺達は一斉に頭を下げ、代表で俺がお礼を言った。


「町長さん、今日まで色々よくしてくれて本当にありがとうございました。また暫くしたら死の海の渡航準備の為にエナジーストーンへ戻ってくることにはなりますが、それまでお元気で」


「お礼を言いたいのはこちらの方ですぞ。八十魔日はちじゅうまじつを最小限の被害に抑えることが出来たのもガラルドさん達のおかげです。それに腕の立つガラルドさんが来てくれたことで戦闘員達にも良い刺激になりました。次に会える時を楽しみにしておりますぞ。それまでアイコリー……じゃなかったシルバーの事をよろしく頼みますぞ」


「はい! それではお元気で」





 そして、俺達は成果報告とシルバーをサーシャに会わせる要望を叶える為に一旦ドライアドへ戻る事になった。往路と同様に馬を休ませながら少しずつ進み、10日かけてドライアドへ帰還した。




 シルバーはアイアンとの接触を避けたがっているから、ひとまずドライアドにアイアンがいないかどうかを確認してからシルバーを復興本部へ連れて行かなければならない。シルバーには一旦町の外で待機してもらい、アイアンの不在が確認でき次第呼ぶ流れとなった。


 俺達が復興本部の扉を開けると直ぐに笑顔のサーシャが出迎えてくれた。


「ガラルド君! それに皆! おかえりなさい。旅はどうだった?」


 俺は周りを見渡してアイアンがいないことを確認してからサーシャに返事をする。


「ああ、それなりに収穫はあったよ。それより質問があるんだが、アイアンさんは今ドライアドにはいないのか?」


「おじいちゃんは9日前にドライアドからシンバードへ行ったよ。そして、そのまま一旦ジークフリートへ帰るからしばらく会えないと思う。何か用事があったの?」


 どうやら運よくアイアンは不在のようだ。俺はシルバーという男がサーシャに会いたがっている事実を伝える事にした。





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