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第256話 久々の感覚 成長していた幼馴染




 リーファの先天スキル『イントラ』の説明を受けた俺達は停止していた記憶の水晶を再開させた。


 イントラによって左目が見えるようになったディザールは長年見えていなかった景色、そして初めて見るリーファの顔を見つめて言葉を失っている。そんなディザールをリーファは持ち前の明るさで揶揄った。


「あれ? もしかして初めて見るリーファお姉ちゃんに見惚れちゃった?」


「ば、馬鹿! そんな訳ないだろ! 思った以上にアホ面でビックリしただけだ!」


「な! 酷い! 折角、私の視力をプレゼントしたのに。ディザールだっていつも目のクマが凄くて人の事を言える顔じゃないんだから」


 小言を言い合えるぐらいならもうディザールがカッツを殺す事はなさそうだ。今のディザールは今まで見てきた中で1番の笑顔を浮かべている。


 ディザールが久々に光を得て、視覚を慣らしている間にグラドとシリウスが遅れて駆け付ける。ディザールが2人の目を見つめると先にグラドがディザールの変化に気がついた。


「ハァハァ……大丈夫かディザール、シルフィ! ん? あれ? ディザールと俺の視線が合っているぞ……もしかしてお前、視力が……」


「ああ、どこかのお人好しが自分の左目の視力を分け与えてくれてな。そのせいで僕はカッツを殺すに殺せなくなったんだ」


「なるほど、リーファがスキルを使ってくれたんだな。それと家を燃やしてディザールを追い詰めたのはカッツだったんだな。ちょっと色々なことがありすぎて頭がパンクしてしまいそうだぜ。リーファにゆっくりとお礼したいところだが、まずは火を止めてカッツ達を拘束するぞ!」


「ああ、そのつもりだ。行くぞ!」


 そこからはグラドとディザールの圧倒的な強さによってカッツ達10人の戦士は一瞬で拘束される。続けて家の火はシリウスの水魔術によって瞬く間に鎮火された。


 ロープでカッツ達を縛り上げたグラドはリーファの前に立ち、深々と頭を下げる。


「リーファ、我が身を差し出してまでディザールの復讐を止めてくれて本当にありがとう。俺にとってディザールは1番の親友であり兄弟みたいな存在だから人殺しにならなくて本当によかったよ。ほら、ディザールもお礼を言え、お前は俺の100倍頭を下げなきゃいけないぞ!」


「わ、分かってるさ。リ、リーファ、僕の為にイントラを使ってくれてありがとう。僕は新たに得た光を一生大事にするし、僕の代わりに左目が使えなくなったリーファをいつか必ず治してみせる。だ、だから、その時を待っていてほしい」




 ディザールは言葉を詰まらせつつ、リーファから目線を逸らして宣言する。ディザールのおどおどした様子を見て俺は確信した。ディザールは罪悪感で目線を逸らしたのではなく、照れて視線を逸らしたのだ。


 あまり認めたくはないがリーファもリリスも凄く綺麗な女性だ。久々に見えた目でずっと優しくしてくれていた女性を視認し、更に気高くて綺麗だったならドギマギしてしまうのも無理はないだろう。


 グラドもディザールの様子に気付いたようで早速揶揄い始める。


「なんだ? もしかして照れてるのかディザール? まぁリーファは綺麗だし、久々に見たシルフィも大人になって美人になったもんな。仕方ねぇよ、うんうん」


「勝手に決めるな! まぁ最後に見たシルフィは6歳だったし、あの頃からずっと大人っぽく綺麗になったことは認めるさ。グラドは想像以上にむさくるしい奴だったがな!」


「なにをぉぉ! 久々に俺を見た感想がそれか? お前にはイイ男ってのが、どういうものなのかをこれからみっちりと――――」


 いつも以上に仲良くじゃれ合うグラドとディザールを他の3人が見つめていた。


 ディザール本人が気づいているかは分からないが彼はじゃれ合ってる時も薄っすらと目に涙を溜めていた。


 激しいやりとりによって得た視界とリーファによって守られた日常が目を潤ませたのだろう。涙を拭おうとしないのも嬉し涙という感覚に慣れていないせいかもしれない。


 こうしてカッツ達の襲撃を乗り切ったディザール達は拘束した戦士達を村長のところまで連行した。村長は「夜とはいえ、内容が内容だ。鐘を鳴らして村人を集めて事件を伝えておこう」と言い、村の中心にある鐘を鳴らした。


 村人が集まってきたところで村長は拘束したカッツ達を前に出し、事のあらましを伝えるとカッツ達への罰を発表する。


「カッツ達は人の道を大きく外れた。よって村の牢に3年間閉じ込め、反省しているかどうかを事細かく記録する。そして、その記録と共に身柄をイグノーラ国へ渡す。そこで改めて2度目の裁きを受けてもらう事とする。村の皆、それでよろしいか?」


 人殺しをしようとしたうえに同情の余地がないから、もっと厳しい罰になるかと思ったが村長の考えは慎重なようだ。牢屋での生活後の処遇はより大きな街で決めてもらおうという判断は良いかもしれない。


 村人も特に反対する者はおらず、スムーズに決定する事となった。


 カッツ達への処遇を伝え終えた村長は続けてディザールの左目についても触れる。


「カッツ達のことは残念だが、今晩は1つ良い知らせがある。優しいリーファ殿のおかげでディザールの左目に視力が戻ったのだ。片目とはいえ目の見えるようになったディザールは今後益々ペッコ村の役に立ってくれることだろう。さあ、皆でディザールとリーファ殿に拍手を贈ろうではないか」


 村長が拍手を促すと、最初は驚いて固まっていた村人がまばらながらも徐々に拍手を増やしていき、最後には声が聞こえないぐらいの音になっていた。


 これだけ祝ってもらえて良かったなぁ、と俺はディザールの方を見てみたが、その時何故かディザールは険しい顔をしていた。リーファから左目の視力を貰う形になった事実を気にしているのだろうか、それとも別の理由だろうか?


 この時点で夜も更けていたから結局ディザールの言葉を聞くことは出来ず、記憶の水晶は翌日のペッコ村を映し出した。





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