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第279話 魔人の過去




 魔人の力を得たディザールは魔力の羽を作り出し、青の魔人と一緒にアジトへと向かっていた。2人はイグノーラ南の平原から死の山の北東エリアまで僅か2時間ほどで移動し、死の山の上空で停止する。


 青の魔人は死の山の渓谷を指差すとアジトについての説明を始める。


「ディザール、あそこを見てくれ。マグマが煮えたぎっている死の山からは想像もつかないかもしれないが、かつてあの場所には冷たい水の流れる綺麗な川があった。4000年ほど前に死の山の形状がガラッと変わってしまうような事件があったんだ。もう私も当時の記憶が曖昧になっているけどね。あの川跡を上流側へ辿っていけばアジトがあるから行くとしよう」


「ちょっと待ってくれ、魔人という種族はそんなにも長命なのか?」


「いいや、個人差はあるけど精々人間の3倍前後だと思うよ。私が4000年前の記憶を持っている理由はアジトに着いたら説明するさ。さあ、行こう」


 そして、2人は川跡を上流側へと進んでいった。ある程度上へと進むと川跡の外れに巨大なマグマの滝が流れていた。青の魔人が今まさに落下中のマグマの裏側へと回りこむと、そこには隠された洞窟があった。


 滝の中に洞窟や宝が隠されているのは定番といえば定番だけれど、まさかマグマ滝の裏側にあるとは……。これでは仮に人間が大々的に死の山の調査をしても見つけることが出来なさそうだ。


 2人が一本道の洞窟を進み続けると奥には金属の扉があった。まるで今俺達がいる湖の洞窟のような作りだ。青の魔人が扉を開けると、そこにはウィッチズケトルを彷彿とさせるような沢山の実験器具と書籍が並んでいた。


「ここは一体……お前はこんな場所で何をしているんだ?」


 ディザールに尋ねられた青の魔人は本棚から数冊の本を取り出し、無造作に机の上へ広げて語りだす。


「私は『サラスヴァ計画』を抜きにしても普通の人間とは比べものにならないほど好奇心旺盛でね。モンストル大陸で700年以上研究を重ねて得た知識が書籍に詰まっている。興味があるならディザールも読んでみるといい」


「…………! これはイグノーラの学者が見たら卒倒するレベルの知識が詰まっているな。植物学、古代学、魔術学、生物学、ジャンルを問わず凄いものだ。中には目を背けたくなるような非人道的な研究もあるようだが……」


「ハハ、褒めてもらえて光栄だよ」


「褒めてはいないが、まぁいい。ところで1つ気になったんだが、お前は今『700年以上研究してきて』と言っていたな? 4000年前から生きていたような素振りをみせていたが研究に手を出し始めたのは遅かったのか? そもそもお前は何歳なんだ?」


「年齢に関しては少し言及するのが難しいから後に回させておくれ。次に研究歴についてだが、私は物心がついた頃から知的好奇心が旺盛だった。だから研究の真似事はその頃からずっと続けているよ。私が700年と言ったのはあくまでモンストル大陸にいた期間が700年という話なのだよ」


「なっ……お前はモンストル大陸の外で暮らしていたことがあったのか? まぁ、いくら外海が危険でも魔人の羽があれば関係ないか……」


 まさか青の魔人が大陸外にいたとは驚きだ。ディザールは俺と同じように青の魔人が羽を使って大陸外から来たと予想したようだが、青の魔人は首を横に振って否定する。


「いいや、その頃の私は魔人じゃなかったから羽で外海を超えることは不可能だったよ。私は約4000年前にモンストル大陸で生まれ、訳あって1度大陸の外に出たのだよ。それから色々あって3300年後にモンストル大陸に戻ってきたというわけさ」


「4000年という規模でも馬鹿げているのに、かつては別の種族だっただと? おまけに大陸を往復していただなんて……。お前は突拍子もないことを言って僕を揶揄っているだけじゃないだろうな?」


「まぁ、いくらディザールが賢くても狭い世界でしか暮らしてこなかったのだから信じられないだろうね。でも、今から訪れる『保管庫』にいけば、きっとディザールは私の言っていることを信じてくれると思うよ。そこで改めてサラスヴァ計画について語る事にするよ、付いてきてくれ」


 青の魔人は自信満々に言い切ると奥にある扉から廊下へ出て、先へ先へと進んでいった。途中には小部屋や大部屋が沢山あり、そのどれもが研究色の強い部屋になっており青の魔人の知識欲が伺える。


 青の魔人は1番奥にある一際分厚い鉄の扉を開けて部屋の灯りを点ける。そして部屋の隅に怪しく被せてある縦横10メードはあるであろう大きな布の端を掴んだ。


「今からディザールに見てもらう布の中にサラスヴァ計画の軌跡が入っている。心して見てくれ。それじゃあ捲るよ!」


 青の魔人は声を張って勢いよく布を捲った。すると、布が被さっていた場所には人1人は余裕で入れるような円柱状のガラス容器があった。中には薄緑の液体と見たことのない人型の生き物たちが入れられていて、ずらりと10体以上並んでいる。


 ディザールは目を皿にしてガラス容器を見つめ、中身について言及する。


「なんだこの生き物たちは……人間より色素が薄くて耳の尖っている生き物がいたかと思えば、身長が半分ぐらいに縮んだ、ずんぐりむっくりで髭の生えた男もいるぞ。いや、人間だけじゃなくてドラゴンと人間を足したような生き物もいるな……。こいつら全員まるで眠っているようだが生きているのか? こいつらは何なんだ?」


「彼らはそれぞれエルフ、ドワーフ、竜人と呼ばれる種族でね。肉体的には一応生きているが魂が無いから死んでいると思ってくれていい。今から私が言う事は荒唐無稽だと思うかもしれないが信じて欲しい。彼らは全て私が過去に魂を宿していた肉体なのだよ」





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