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第280話 サラスヴァ計画




「彼らはそれぞれエルフ、ドワーフ、竜人と呼ばれる種族でね。肉体的には一応生きているが魂が無いから死んでいると思ってくれていい。今から私が言う事は荒唐無稽だと思うかもしれないが信じて欲しい。彼らは全て私が過去に魂を宿していた肉体なのだよ」


 不気味なガラス容器と眠る人型生物たちを目の前にして、青の魔人はとんでもない事実を打ち明ける。


 もし、青の魔人の言っている事が本当なら奴は人間以外の種族の肉体を10体以上渡り歩いてきたことになる。それだけでも十分すぎるぐらい衝撃だが、俺はガラス容器に入っている生き物に度肝を抜かれた。


 エルフやドワーフなんて生き物は絵本もしくは神話を記した書籍にしか出てこないような存在であり、空想・幻想の類と扱われてきた生物だ。そんな存在がまるで博物館の展示物のように並べられている光景はハッキリ言って異常だ。


 凄まじい光景に言葉を失っていたディザールを尻目に青の魔人は淡々とエルフ達について語り始める。


「私は今でこそ人語を扱えているけど私の魂が最初に宿った種族は狼と人間が混ざった種族ウェアウルフでね。その頃から他のウェアウルフとは脳の作りが違ったらしく、人間の幼児のように何にでも手を出してしまう好奇心旺盛な奴だった」


「ウェアウルフは今も時々大陸で見かけるな。確か高い身体能力を活かしてシンプルに集団で狩りをするだけの存在だったはずだ。だから本来なら好奇心旺盛な個体なんていないだろうな。お前は特別だったのだな」


「生きていく為の最低限の狩りはしていたものの、ひたすら知的好奇心を満たしていたよ。その性格が災いして、とある事件が起きてしまったんだ。狩りをさぼっていた影響で他のウェアウルフより弱かった私が強いゴブリンに集団で襲われたんだ。私はあっという間にゴブリンにやられて動けなくなってしまった」


「集団とはいえウェアウルフがゴブリンにやられるなんてな。狩りでちゃんと自分を鍛えなかったツケが回ってきたようだな」


「ハハハ、何も言い返せないよ。だがね、それこそが4000年生きてきた私にとって最大の幸運だったのさ。まだ死にたくないと強く願った私の脳内に突然声が響いたんだ『死の瞬間に乗り移りたい種族に触れるのだ、そうすることでお前は新たな肉体を手に入れられる』とね。その時は分からなかったが、これこそが私にとっての先天スキル『転生リインカーネション』だったんだとね」


 先天スキルにしても後天スキルにしても発現するのは絶体絶命の状況もしくは極限まで集中している状況であることが多い。個人差はあれど天啓が降ってくるような感覚に襲われるから、青の魔人が言っていることもおかしくはないだろう。


 それから青の魔人はガラス容器に入った種族を端から順番に指差しながら語る。


「基本的に端の肉体から順番に私が転生していったんだ。流石に最初の頃の肉体は残っていないが、肉体保存の技術を得てからは大体の肉体は保存してあるよ」


「それは何とも恐ろしいスキルだな……だが、今の説明だと疑問が湧いてくるぞ。歴代の肉体を見る限り、お前は1度も種族が重複していないじゃないか。優秀な種族に何度も転生すれば、それだけで楽に暮らせるはずだろ?」


「流石はディザール、鋭いね。君の言う通り私のスキル『転生リインカーネーション』は1度宿った種族に再度魂を入れる事が出来ないんだ。エルフや竜人は歴代の中でもかなり優秀な種族だったから制限がなければ何度も転生したかったところさ」


「ある種最強の生存スキルではあるものの、万能ではないというわけか。だとしたら今後のお前が気の毒だな。いくら世界が広いと言っても種族の数には限りがある。人語を介せるとなれば一層少なくなるだろう。知識の譲渡はどういう仕組みになっているのか分からないが、いずれは人の言葉も話せなくなり、まともに暮らせる種族も無くなるわけだ、いい気味だな」


 ディザールの言っている事はもっともだ。現に歴代の肉体は半数以上が人語を喋れなさそうな種族だ。俺の浅い知識の中でも人語を話せる人型の種族は神話的・幻想的種族のエルフなどを含めてもさほど多くはない。


 もし、最後には人語を話せなくなり、まともな種族にも転生できなくなって転生先が無くなり死んでいくことになったら、長年生きてきた反動で死が一層怖くなりそうだ。想像するだけでゾッとする。


 ディザールから『いい気味だ』と煽られた青の魔人は流石に苦い表情を浮かべているかと思ったが、奴は不気味に笑い、今後の事を語りだす。


「私はそんな最期を迎えるつもりはない。私はこれから何千年、何万年と生きていき、この星を堪能しなければいけないのだからね。そんな野望を叶えるのがサラスヴァ計画でね、今からサラスヴァ計画がどれほど優れたものなのかを教えてあげよう」


 自信ありげに言い切った青の魔人は棚から何かの記録帳を取り出して近くの机の上に広げた。その記録帳にはガラス容器に入っている種族と入っていない種族の両方の情報が書かれており、種族名の横には名前が書かれている。


 1番最初の体であるウェアウルフには名前がついていないようだが、4番目に記されているインプという種族の横には『クローズ』と記されている。


「なるほど、このノートは保存できなかった肉体の情報も書かれているようだな。横には名前が書かれているようだが生まれて初めて付けた名前はクローズっていうのか?」


「ああ、確かそんな名前だったね。もう昔過ぎてあまり覚えてはいないけれどね」


「そういえばお前の名前を聞いていなかったな。ずっとお前とか青の魔人と言い続けるのも何だから教えてくれよ」


「私にとって名前なんてどうでもいいのだよ。転生する度に変えているし、転生先の体に名前が付いていたりもするからね。好きなように呼んでくれ」


「じゃあ、とりあえずクローズと呼ばせてもらおう。話を遮って悪かったな、サラスヴァ計画とやらを教えてくれ」


 ディザールに催促されるとクローズは意味深に遠くを見つめ、計画の内容を語り始める。


「……サラスヴァ計画、それは生物の進化を促し、新たな種族を生み出すための計画なのだよ」





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