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第281話 進化と種族




「……サラスヴァ計画、それは生物の進化を促し、新たな種族を生み出すための計画なのだよ」


 青の魔人ことクローズは真っすぐな目でとんでもないことを言い始めた。いくらクローズ個人が凄い知能を持っていても大陸の生態系に関与したり、新しい種族を生み出せるとは思えない。


 だが、不思議とクローズなら成し遂げてしまいそうな怖さがある。それにサラスヴァ計画の内容に俺はどこか聞き覚えがあった。俺はこれまでの旅を振り返りながら記憶を探り、それが何かを思い出した。


 自分の勘が正しいかどうか確かめる為に1度記憶の水晶を停止してもらい、現代のシリウスに質問することにした。


「教えてくれ、シリウスさん。もしかして現代のクローズの魂はワンに宿っているんじゃないか?」


「ぶっ飛んだ計画だけに気づいたようだな。ゼロにとってはショッキングな事実かもしれないが、ゼロの父親ワンはずっと前からクローズに肉体を奪われている、つまり本人の意思はとっくの昔に消え去っているわけだ。ワンの常軌を逸した行動も全てクローズの意思で行われていたことになる」


「僕の父さんが……クローズ? そんな……」


 ゼロは瞬きを忘れるぐらいに目を開き続けて驚いている。ある意味アスタロト以上に危険な男が自身の父親なのだから無理はない。長年に渡って恐ろしい計画を進めていたと知ったゼロの痛みを想うと辛い。


 きっとアスタロトが父親と分かった俺以上のショックを受けているのではないだろうか? 俺はなんて言葉を掛ければいいのか分からず何も言えなかったがゼロはすぐさま冷静になり、自分の考えを語る。


「サウザンドお爺ちゃんは善意の塊みたいな人だった。だからどうしてワンみたいな息子が生まれたんだと常々疑問に思っていたのだけど、そういうことだったんだね。むしろ納得できてスッキリしたぐらいだよ。僕の本当の父親の魂が乗っ取られて消えてしまったのは残念だけど、父親が悪人じゃないと分かっただけでも収穫だ。これで迷いなくワンを倒す事ができる」


 俺とゼロは衝撃の事実を知った者同士ではあるが、俺なんかとは違いパニックにならずすぐに立ち直ることができるゼロは強い人間だ。改めてゼロを尊敬するとともに仲間にすることができて本当に良かった。


 シリウスから真実を伝えられたゼロは頭に手を当て何かを考えた後、シリウスに問いかけた。


「シリウスさんに聞きたいことがある。クローズは何千年も人間には転生していなかったはずだよね、なのにどうして現代の一学者でしかないワンに転生したんだ? どこかの王族に転生したり、もっと肉体的に強い人間に転生しても良かった気がするけど」


「スキル 転生リインカーネーションは死の瞬間に相手に触れていなければいけない条件がある、だから偉い人間に触れながら死ぬのが難しいという点もあると思うが、クローズはしっかりとワンにメリットを見出したうえで転生しているんだ。それに関しては記憶の水晶でも後々語られているから続きを見てほしい」


 そう告げるとシリウスは記憶の水晶を再開した。





 クローズは記録帳を指差しながらサラスヴァ計画について詳細に語り始める。


「まずはこのページを見てほしい。過去の私がオークに転生しているだろう? 私はこの段階からある疑問を持ち始めた。それは『オークとハイオークのような似た種族に転生できるのか?』という点だ。私のスキル 転生リインカーネーションは自分の見つめている相手が転生可能かどうか一目で判断できるのだけど当然オークになる前の種族ではオークとハイオークどちらにも転生できるから疑問を解消する事はできない。だから私は1度オークに転生したんだ」


「文字通り『一生をかけた』検証という訳か。履歴を見る限りだとハイオークへの転生は出来なかったようだな」


「ああ、駄目だったよ。他にも間に別種族を挟んでみたり、上位種のオークロードも確かめてみたが、それも駄目だった。だが、それから暫くして私に転機が訪れてね、次のページを見てほしい」


「……なんだと!? エルフからハイエルフに転生しているじゃないか。種族詳細を見る限りだと似た種族に見えるが適応外なのか?」


 俺は机の上に広がっている記録帳をじっくりと眺めてみた。どうやらエルフ・ハイエルフ共に魔術に長けた長命の種族のようで透き通るような白い肌と尖った耳が特徴らしい。


 強いて違いを挙げるならばハイエルフの方がより魔術に長けていて、羽が生えている事ぐらいだろうか。これならオークとオークロードの方が生物的によっぽど乖離しているような気がする。


 ディザールから指摘されたクローズはこみ上げる笑いを必死に抑えながら転生リインカーネーションの不思議な特性について語る。


「不思議だろう? 正直、今でも2つのケースの差異は解明できていないんだ。それを調べるのが私はとても楽しくてね、気がつけば1000年以上調べていたよ。そして私は1つの仮説に至ったのさ、種族の変わり目は進化によってもたらされるのではないかとね」


「進化によってもたらされる? どういうことだ? もっと分かりやすく言え」


「その前にディザールに質問させてくれ。君は進化とはどういうものだと捉えている?」


「進化か……やはり環境に適応する為に何世代にも渡って肉体を強くしたりサイズを変えたりしていくことだと思うぞ。つまり種を途絶えさせないように変わっていくことなんじゃないか?」


「私と同じ考えのようだね。そう、適応する為の変化・前進こそが進化だ。だから人間で言えば体格・肌の色・目の色などが違うのは単なる個性に過ぎなくて進化とは言えない。だからオークもオークロードも根っこの部分では同じ種族だ」


「じゃあ、逆にほぼ同じ種族に見えるハイエルフはエルフよりもあらゆる点で優れているから進化を経て別種族に定義されたと言いたい訳だな。クローズの言いたいことは分かったが、結局お前はどうやって『生物の進化を促し、あらたな種族を生み出す』つもりなんだ?」


「生物の進化を促し、あらたな種族を生み出す方法、それは至ってシンプル。刺激を与えてやる事さ」





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