「元々、
シルフィは
シルフィはさらに
「リーファちゃん達がペッコ村に来た頃、既にディザールは視覚以外の感覚と魔力による検知によって杖が無くても村の中なら問題なく歩けていたでしょ? だけど、目が見えなくなって間もない頃は苦労の連続だった。私はそれを助けたくて
「優しいシルフィちゃんらしい能力だね……私、ちょっと泣きそうだよ。だから私がペッコ村で働いていた時期は使ってなかったんだね。イグノーラで私達がコルピ王にスキル鑑定された時はグラドの魔獣寄せにしか気が回ってなかったから気付かなかったよ。あれ? でも、
「それは私が前衛で戦えないタイプだったからだね。
同じスキルを持つ同志としてシルフィの言っている事はとても共感できる。離れた位置での精密動作が難しいからこそ俺は手元から押し出すような形でサンド・テンペストを放っているし、サンド・ホイールを放つときも手元で高回転させた砂をそのまま直線的に飛ばしているに過ぎない。
俺はシルフィのように傷口から毒矢を抜くようなコントロールは出来ないが近接で戦う頑丈さだけはあるから
それから2人は暫く子供時代の話と
「ディザールは魔人になってから色々なところで戦闘を繰り返しているんだよね? 今からする質問は決して責めるつもりではないと分かったうえで聞いて欲しいのだけれど、シルフィちゃんはディザールが戦闘で負った怪我を治してあげているの?」
「うん……本当は各地で暴れまわっているディザールを治す事は良くないと分かっているんだけどね……。悪人や罪人のみを殺し回っているから『必要悪に手を貸している』と自分に言い訳しながら治療しちゃっているのが現状かな。それこそ、自分の
「……そっか、言い辛いことを言ってくれてありがとね。これからシルフィちゃんはどうしていくつもりなのかな? このままディザールとクローズに協力……していくのかな?」
リーファが探るような声色と目で尋ねる。するとシルフィは首を横に振ってハッキリと答える。
「私の目標はディザールが人としての幸せを取り戻す事。そしてガラルドちゃんに幸せな人生を歩んでもらう事だから魔人としての夢を手伝いたい訳じゃないよ。今はディザールが大きな怪我をしないようにしつつ、心が孤独にならないように傍にいるけど、近いうちにクローズさんに一矢報いる手を打つつもりだよ」
「一矢報いる…………その話、詳しく聞かせてもらっていい?」
リーファはシルフィの迫力に押され、生唾を飲みながら詳細を尋ねた。シルフィは右手に
「私は死の山のアジトとクローズさんの事をもっと探って情報を集めるつもりなの。そして、得た情報を信頼できる勢力にだけ公表するつもり。その為に記憶の水晶へ過去の情報を詰め込んでいるし、
「え? え? ちょっと待って! 記憶の水晶って確か自分の記憶や他人の記憶を映像として再生できるスキルだよね? でも、他人の記憶は当人が水晶に触れて『提供したい記憶を念じる』ことでようやく情報が入れられる仕組みだったはずだよね?」
「うん、リーファちゃんの言う通りだよ。だけど、記憶の水晶に情報を入れる方法はもう1つあってね。それは私が自分の手や魔力を相手に長時間接触させることなの。この方法だと一個人の記憶を何年分も盗むには何時間も相手に触れ続けなければいけないのだけれどディザールが相手なら可能なの」
「あ! もしかして
「正解! 正直、泥棒をしているみたいであまり気持ちのいいものじゃないけど、これでディザールが味わってきた過去、そして取り組んできた研究の過程が正確な映像として保持・公開できるの。本当はクローズさんにも同じことがしたいけど彼に触れる機会はないし、抜け目もないから難しくてね」
「逆に言えばディザールなら何の疑いも無くシルフィちゃんに治療を任せるし、触れても警戒しないってことだもんね」
シルフィにとって一世一代の裏切りはとてもよく考えられたものだった。彼女にとって大切なものが複数あって、全てを守りたいと思ったからこそ大胆かつ長い計画に身を投じる事が出来るのだろう。
シルフィの愛と行動力はグラドやシリウスとはまた違った強さを感じる。俺はシルフィの血を少しだけとはいえ受け継ぐことが出来て本当に良かったと思う。
シルフィは両手に出していたスキルを引っこめると今度は椅子から立ち上がり、リーファに向かって深々と頭を下げ、拳を握りしめながら懇願する。
「ダリアで活動しているリーファちゃんに大事なお願いがあるの! 私が与えられる全ての情報を提供する代わりにガラルドちゃんをダリアで保護してほしいの!」