「フィルも一通り話したいことを話せたはずだから次は私の番だな。私が今日シンバードに来た理由は至ってシンプル。戦争に勝つ為の具体的な方法を伝えに来たのだ」
そう語るとシリウスは幅3メードはありそうな大きな地図を広げ、駒を用いながら説明を始めた。
「まず同盟陣営の戦力を死の山へぶつける作戦を実行する際に注意してもらいたい事がある。それは戦力分布だ。私は死の山で行われる戦争において最悪魔獣群に押されて撤退する事態になっても構わないと思ってる。何故なら優先すべきは『戦力を失わない事とシンバードを守る事』だと思っているからだ。特に同盟陣営の核となるシンバードは何としても死守しなければならない」
俺自身シンとシンバードが倒されない事は絶対条件に含まれていると思う。多少身内贔屓かもしれないが、それでも同盟陣営にとってシンは象徴と言ってもいい存在になっていると思うからだ。
そんなシンは大国の王として易々と国から離れられないから戦争時はシンバードに残ることになる。一方で帝国陣営が突然裏切り行為に出たとしたら、その時に攻撃対象となるのは中心国シンバードになるはずだ。
そう考えると戦力をどれぐらいの割合で分布して、誰をどこに配置するべきだろうか? 俺が無い頭を必死に捻っているとサーシャが前に出て自身の意見を発表する。
「少し考えてみたのでサーシャの案を聞いてください。まず、シンバードに馴染み深くて、地形の把握もできている四聖を中心とした精鋭はシンバードに待機した方がいいと思います。帝国への牽制になりますし、自国民の士気にも関わってきます。次にリリスちゃんはシンさんを傍で守った方がいいと考えてます。アイ・テレポートほど要人を守るのに適したスキルはないですから。リリスちゃんもそれでいいよね?」
「はい、私は異論ありません。サーシャちゃんがわざわざ聞いてきたということはガラルドさん達は死の山に行くってことですよね?」
「うん、ガラルド君、グラッジ君、サーシャ、そして一部ガーランド団は死の山に行くのがいいと思ってる。サーシャはともかく他の人達は個の力が優れていて機動力にも長けているからシンバードに残って防衛戦を担当するよりも魔獣集落へ攻撃を仕掛ける側の方がいいと思う。それにガラルド君を筆頭にガーランド団はイグノーラの戦争で顔が売れているから複数の国が混ざり合う同盟戦において士気をあげる存在になれると思うの。それにシンバードで何か予期せぬ事態があってもグラッジ君がいればリヴァイアサンに乗って素早くシンバードに帰れるメリットもあるからね」
相変わらずサーシャは頭が回る奴だ、ただただ感心するばかりだ。サーシャの作戦に異論を唱える者はおらず、話し合いの段階ではあるが俺達の戦争の基本型は決まったようだ。
サーシャの意見によってスムーズに話し合いが進んだところで続いてシリウスが戦争の勝利条件について話し始める。
「それじゃあ次は戦争における同盟陣営の最終目標について話をしよう。我々が死の山の魔獣集落を潰すのと同じぐらい大事な事がある。それが何かガラルド君は分かっているね?」
「ああ、アスタロトとクローズを倒す事だろう? あいつらさえ倒せば魔獣群を使役する者がいなくなる、つまり元を断てることになるはずだ」
「その通りだ。より正確に言えばアスタロト達だけでなくモードレッドも止めなければいけないがな。アスタロト陣営に意識を割き過ぎてシンバードを滅ぼされたら本末転倒だからな。この条件を踏まえた上で私から戦争を仕掛ける日を提案させてくれ。次に
シリウスが魔日の重なるタイミングを提案した理由を自分なりに考えることにした。恐らくアスタロト陣営が多くの魔獣を魔獣集落から引っ張り出している状況で死の山を襲い、戦力比を優位に持っていくのが狙いだろう。
このやり方なら死の山に出向いている同盟陣営がアスタロト達と遭遇する可能性が低くなる。ただでさえ数が多くて厄介な魔獣群だ、そこに圧倒的な個の力を持つアスタロトが助勢すれば勝率が下がってしまうだろう。
最強の存在がいない隙に拠点を破壊する作戦は理にかなっていると思う。使われているだけの魔獣達には生活拠点・生活能力を奪う戦術は有効なはずだ。
流れとしては帝国の一部戦力と手を組めるうちに魔獣集落を潰し、魔獣群を失って軍事力を失ったアスタロト達を倒し、残りが帝国だけの状態を作り出してから防備をガッチリと固めることが理想だ。
だが、俺が望んでいるより理想的な展開がある。魔日に従って遠征していたアスタロト達が死の山に戻ると既に死の山の魔獣集落が壊滅しているのを目にして戦意を失くし、降参する流れだ。まぁ、アスタロト達が降参する姿なんて全く想像がつかないわけだが。
「――――という訳だ。アスタロト達と接触する前に魔獣集落を壊滅出来たらベストだな。魔日が重なるのはだいぶ先の話ではあるが、諸君らには心構えをしていて欲しい」
俺が色々な事を考えている内にシリウスは予想通りの理由を語ってくれた。2つの魔日が重なる日がいつになるのか気になった俺は手帳を開いて確認してみる事にした。
俺とリリスがヘカトンケイルでオーガを追い払った日が
そう考えると
具体的な事が次々と決まっていく中、常に落ち着いた表情を見せていたシリウスが突然険しい表情を浮かべた。そして対アスタロトについての話を始める。
「それじゃあ最後に1番重要で1番シビアな話をさせて欲しい。それはアスタロトとの直接対決についてだ」