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26話 お出かけ2 2

「...ただそれだけなの...」


「おおーー」


俺は勢いよく拍手する。

カスタネットを手に付けているせいで、部屋にカンカンと音が響く。


「いい加減にあんたも歌いなさいよ」


「だって現役アイドルの生歌聞ける機会なんてなかなかないじゃん。それに俺歌得意じゃないし」


「ほんっと。お金取るわよ」


カラオケの画面には98点とかなりの高得点が表示されている。


「アンコール。アンコール」


「はぁ、しょうがないわね」


ため息をつきながらも、次の曲を入れてくれる。

スピーカーから軽快な音楽流れ、画面に歌詞が表示される。


「君が...」


先ほどまでため息を吐いていた日奈だが、歌い始めたら一転、凄く楽しそうである。

こうなってくると俺のカスタネットを叩く手も乗ってきてしまう。


「ほら、健吾も歌って」


そう言って日奈は俺の手を引っ張り、立ち上がらせる。

そして余っていたもう一つのマイクを無理やり持たせてきた。


カンッと一回、カスタネットの音がマイクで部屋内に響く。


「いやいやいや俺まじで歌下手だから」


「いーよいーよ。思いっきり歌っちゃって」


「そこまでいうなら....」


===


画面に俺の点数が表示される。


「40点...」


しかも最初の部分を日奈が歌っていてである。最初から歌っていたらもっと酷かった事だろう。


「ま、まぁこういう日もあるよ!...うん。練習すればいくらでも歌なんて上手くなるんだから」


「1年間週に5回」


「え?」


「一年間週に五回通い続けてこのまんまなんだが...どうすればいい?」


「ま、まぁ歌なんて楽しければなんでもいいよ。ね?」


励まそうとしている日奈を見るのがが、なんだか辛い。


「まぁアイドルにも歌下手な子もいるよ!下手すぎて滅茶苦茶加工してCD出してるグループあるし。例えばね」


「ストップストップ。流石にそれ以上はまずい」


何か日奈の口から爆弾発言が飛び出そうとしていたような気もするが、まぁ聞かなかったことにしよう。

人の口に戸は立てられぬだぞ。こいつどっかで炎上しそうだな。配信とかしちゃいけないタイプだ。


「ていうかよく一年間全く上手くならなかったのに続けられたわね」


「歌上手かったらモテると思ったんだよぉ。修学旅行のバスで歌披露したらみんなビックリするかなって...


「逆の意味でビックリされそうね。ていうか別に暗い話したいわけじゃないのよ!私こんな暗い雰囲気のカラオケ初めてだよ」


「俺が歌上手かったらなぁ」


「まぁ過去のことは忘れて未来に向かいお?ね!きっと練習方法が悪かったのよ。私グループの中で一番歌うまキャラで売ってるからね!こんな私が直々に指導してやるわ」


日奈が大きく胸を張る。なぜだろうか。凄く大きく見える。だがこの提案は俺にとっても凄く嬉しい提案だ。


「あぁ...神よ...」


俺は手を組み拝む。


「ふふっ、なんかこういうのも気分が良いわね。私宗教始めようかしら」


あっだめだ。悪い方向に行っちゃった。俺が拝んでしまったばかりに。


「私の指導受けられるなんて光栄なことよ?超有料級よ」


「まぁお手柔らかにお願いします」


「ふふっ、任せなさい」


自信満々に笑った日奈とは正反対に、俺の歌声は上手くならなかった。


===


「うぅ...ごめん....うぅ」


「いいからいいから。あっ、アイス食べる?」


「食べる!」


「はいこれ。バニラね」


「私そっちのチョコが良い!」


「さっきバニラって言ったのに!絶対にあげん!」


「ちぇっ。けち」


日奈が明らかに不機嫌そうな顔をしながらそっぽを向く。


「はぁ、しょうがないなぁ。ほら、チョコ上げるよ」


「え?ほんと?やったぁ」


日奈は勢いよく俺の手からアイスを奪い取り、美味しそうに舐め始める。

さっきまでの悲しそうな雰囲気はどこに行ったのだろうか。まぁいいか。


「ていうかあんたほんとに歌の才能ないわね!私の指導受けてこんなに歌上手くならないんだからよっぽどよ」


やっぱチョコ....あげなきゃ良かったなぁ。


===


「ねぇ、一つ言いたかったことがあったんだけど言っていい?」


「俺が傷つかないならいいよ」


「あんたの服装ダサすぎじゃない?」


「俺の話聞いてた?」


「服ダサすぎて話入ってこないわ」


「そんなに!?」


俺は自分の服装を確認してみる。至っていつも通りの服装だ。ていうかお洒落してきたというぐらいの気持ちだ。


「だから買いに行くわよ」


「え?何買うの?」


「そんなの決まってるじゃない。服よ服。そんな服装じゃ流石に美咲ちゃんも引くわ」


「俺の服装って引かれるほどダサいの!?」


===


「これと....これね。ほらサイズ見てみて」


「ホントに俺にこんな派手な感じの服装似合うのかなぁ。やっぱ俺は今ぐらいの服装がちょうどいいんじゃ」


「しょうもないプライド持ってんじゃないわよ。ほら試着してきなさい。ほらほら」


俺は日奈に背中を押される形で強制的に試着室に入れられる。

試着室にあるのは俺と持っている服、それに前にある鏡だけだ。


日奈に酷い評価を受けた服装を再度見てみる。


ダサいダサいと言われすぎて自分でもダサく見えてみた。


「まぁ...一応着替えてみるか」


===


俺はそ~っとカーテンを開けて顔だけ出してみる。

前にはスマホをいじって待っている日奈が待機していた。


「着替え終わった?」


「一応ね」


「じゃあ早く見せなさいよ」


そう言われ、俺はゆっくりとカーテンを開けた。


「ど...どうかな?」


「う~~ん。あんまりね」


「あんまりなんかい」


「健吾にはもうちょっと地味そうな恰好が良かったわね」


「じゃあ次、これとこれ」


日奈に次の服を手渡される。

俺は受け取ってカーテンを閉める。


次はちゃんと似合うかなぁ。


===


「ど...どうかな?」


「おーー。いいじゃない!それよ!それ買いなさい」


「本当に似合ってる?」


「似合ってるわよ。あんた素材は良いのよ素材は」


「俺初めてだ。そんなこと言われたの」


俺はカーテンを閉める。俺の心臓の鼓動は少し早くなっていた。

あの、アイドルの日奈に素材が良いと言われたのだ。そりゃテンションも上がる。


俺はウキウキで着替えを済ませ、カーテンを勢いよく開けて外に出る。


「あと健吾」


「ん?どうしたの?」


「ダサいダサくないに関わらず...チャックは閉めよっか」


俺は試着室に戻りたくなった。

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