「あれ...?もしかして私やらかしちゃった...?」
日奈が焦った口調で俺に聞く。
「いや、全部日奈が悪いわけじゃないよ」
そう、日奈が悪いわけじゃない。
どちらかと言えば俺だ。慢心していた俺が悪いのだ。
心の中で美咲さんは実は俺のことを好いてくれてるんじゃないかと思っていた。
そして、俺が美咲さんのことを好きなのも伝わっていると思っていた。
だが、それを俺は言葉にして伝えたことなど一度もなかった。
日奈は他の人との距離が近い。
これは日奈の良い所だ。だが、今回はそれが裏目に出てしまったのだ。
美咲さんが、勘違いしてしまったのだ。
俺と日奈が相思相愛だと、勘違いしてしまったのだ。
「なぁ日奈、念のためなんだが...俺のこと好きか?」
「好きって何急に恥ずかしいこと言って...まぁ友達としては好きなんじゃない?0
日奈が若干照れながらも答えてくれる。嘘は感じられない。嬉し限りだ。
「じゃあ恋愛的な目で見たら?」
「調子乗ってんじゃないわよ!好きじゃないに決まってるじゃない!」
ばしっとかなりの威力の手のひらが俺の頭に飛び込んでくる。
その日奈の言葉にも嘘は感じられない。
「俺、ちょっと美咲さん追いかけてくる!」
「じゃあ私も」
「日奈は話がややこしくなりそうだから来ないで」
俺は走りだそうとしたが、如何せん今日は週末だ。
結構な人混みが俺の前にはあった。
俺はその人混みの間を縫い進みながら前にへと進んだ。
「一体二人...どうしちゃった...?」
取り残された日奈は一人、何が起こったか理解するために頭がパンクしそうになりながら、小さく呟いた。
===
走り出したものの、そもそも美咲さんがどこに行ったのか知らないままだ。
俺はどうしようかと足を止める。
「そうだ」
俺はとあることを思い出し、スマホを取り出す。
そして美咲さんに連絡を送る。
『今どこに居るの?』
メッセージを送り、数秒で既読がつく。
だが、どんだけ待っても一向に返信が返ってこない。
「既読無視...ちょっとメンタル来るな...」
しかも、それが好きな人なんだから笑えない。
俺がメッセージを送ってから十分ほどした頃、ぴこんっと一つの通知音が鳴る。
俺は急いでポケットからスマホを取り出し、通知欄を見る。
『私の初めての場所に居る』
どこだ。美咲さんの初めての場所。
初めて会った学校の掲示板の前か?いや、初めて会ったのは通学路だったか。
じゃあ一体どこだろう。その時、俺はとある日のことを思い出した。
「あそこか」
俺は急いでショッピングモールを出た。
===
「居た...」
「うそ...ほんとに来てくれたの?」
「来ないわけないじゃないか」
俺たちは何の変哲もない道路の上に二人、顔を見合わせながら立っていた。
何の変哲もない道路だが、美咲さんにとっての初めての場所である。
その初めてを貰ったのは、俺だ。
俺は祭りの人のことを思い出す。
足を怪我した美咲さんをおんぶしてこの道を歩いていた日のことを。
目を閉じてと言われ、キスされた日のことを...まぁキスと言っても頬だが、それでも立派な初めてだ。
美咲さんの目元が若干赤い気がするが、気のせいだろうか。
「日奈ちゃん置いてきちゃって良かったの?」
「ああ...多分大丈夫だ」
「でも....その....二人って」
「美咲さん、いやごめん間違えた。美咲、一つ勘違いしてることがある」
「勘違い?」
俺は一回、息を吸って勇気を出す。
「俺と日奈、別に好き同士じゃないから!」
俺は日奈の目を見ながら大きく告げる。
「え...そうなの?」
美咲さんは目をぱちぱちとさせる。
「じゃ...じゃあ私勘違いしてたってこと?」
「うん....そうだ。多分日奈は俺意外にもあんな感じで距離近いから別に俺のことを恋愛的に好きってわけじゃないし、俺も日奈の事を恋愛的に好きなわけじゃない」
「ごめん。私本当に日奈ちゃんと健吾君が...えっと...その...付き合ってると思っちゃってて...勘違いだったんだね」
「そ!勘違いが解けて良かったよ。じゃあ戻ろっか」
「戻るって、どこに?」
「そりゃ日奈の所だよ。さっきから日奈からの通知が鳴りやまないんだ。美咲の所にも来てない?」
「そっか...私が抜け出して来ちゃったんだ...」
美咲さんはそう言うと、美咲さんはカバンからスマホを取り出し、確認すると少し顔が青くなる。
「めっちゃ来てる...」
「だろ?早く戻らないと。日奈怒ってそうだし」
「ごめん...私が早とちりして途中から抜け出してきちゃったせいで予定台無しにしちゃって」
「まぁ過ぎたことだししょうがないよ。俺は気にしてないよ...まぁ日奈はどういうか分からないけどね」
俺は、ははっと笑った。
そんな俺の笑い声とは正反対に、俺の心は日奈に何言われるか恐れで曇っていた。
===
「ちょっと...二人で私置いてくの...はぁはぁ....酷くない?」
ショッピングモールの入口辺りで日奈は腕を組みながら待っていた。
俺たちを見つけた途端、ダッシュでこちらに向かってきたせいで少し息切れしている。
「スマン!ちょっと緊急の用事だったんだよ。な?」
「うん。ごめんなさい」
「緊急の用事って何よ」
日奈が怪しげな目をこちらに向けてくる。
俺はちらっと美咲さんにアイコンタクトを取る。
美咲さんはコクコクと頷いた。
「ちょっと大変な事態が起きてな」
俺はさっきまでのことを日奈に説明し始めた。
===
「つまり、美咲ちゃんは私と健吾が付き合ってると思ってたってこと?」
「そ、そういうことになる...かな。ごめんなさい」
「ふ~~ん。私と健吾がかぁ。うん。あり得ないわね!」
日奈は清々しいほどの笑顔で親指を立てながらそう言い切った。
「そこまできっぱり?」
「え?なに?健吾もしかして期待してるの?」
「期待してないよ」
「そうよねぇ。健吾みたいなファッションクソださの根暗陰キャと私が付き合うわけないじゃない。釣り合わなさすぎよ」
「け、健吾君は良い人だし...その....カッコいいよ」
美咲さんがキッと日奈を睨めつける。
「冗談よ。私が友達にそんなこと本意で言うわけないじゃない」
日奈がこちらに歩み寄ってきて、耳元で小さく囁く。
「こんな健吾に熱烈な、可愛い子他に居ないよ。そろそろ健吾も勇気出す時なんじゃない?」
そう言って日奈はこちらを振り向くことなく、手を振りながら向こうに去っていく。
あいつ、俺に美咲さんが俺にどう思ってるか聞かせるためにわざとあんな事を。
俺は日奈に感謝すべきなのかもしれない。
そう思った途端、前を歩いていた日奈が急に踵を返してこちらに走ってくる。
「私まだ遊ぶために待ったのにここで帰ったら意味ないじゃない!誰か止めてよ!それと私こんだけ待ったんだから健吾、あんたアイスの一個ぐらい奢りなさいよ!」
締まらねぇなぁ。こいつ。
そんなことを思ったり、思わなかったり。