「結局弟と仲直り出来たか?」
「まぁ一応ね」
「仲直り出来たなら良かったな」
「良くないわよ。これからゆう君に人前だったら家のように出来ないし....はぁ、ストレスで太りそう」
「まぁ巣立ちの時ってこった。ゆう君も大人の階段を一歩登ったってことだ」
「気安く私のゆう君をゆう君って呼ばないで」
「あっごめん」
日奈は今日も体育座りのまま、どこか元気の無さそうな顔をしているが、まぁこの前よりはだいぶ顔色も機嫌も良くなってそうなので、何よりである。
「ところで一個聞きたいんだけど、ゆうく...弟君が彼女とか連れてきたらどうするの?」
「冥界送りにしてやるわ」
一瞬顔が般若みたいになったような気がするが、まぁきっと気のせいだろう。
「閻魔みたいなこと言うなよ」
「う~~んでもゆう君が可哀想だし、天国送りにしてやるわ」
「この世を離れるのは確定してるんだな。それは可哀想に」
俺が冗談交じり言うと、日奈がマジだからみたいな顔でこちらに視線を向けてくる。
ゆう君のためにも止めてあげて欲しいところではある。
まぁ、俺としては良い結果になることを願うばかりだ。
「そもそも、私みたいな可愛いお姉ちゃんが居るのに彼女なんて出来るはずないわ!うん。そもそも私より可愛い女の子なんていないし他の女の子みてお姉ちゃんの方が数倍可愛いな。やっぱお姉ちゃんが一番だなお姉ちゃん大好きってなるはずだしそもそも...」
日奈の演説を聞きながらスマホを見つめていると、ガタガラと音を立てて部室のドアが開いた。
「皆にひじょーに重要なことがあります」
真剣な顔をした由美先輩が入ってくる。
俺はスマホから顔を上げ、本を読んでいた誠一と美咲さんも顔を上げる。
日奈の独白も終了される。
「せんぱーい、それってどれくらい重要なんですか?」
「う~~ん。朝パンかご飯かぐらいの重要度かなぁ」
「じゃああんまりっすね」
「重要だよぉ。生死に関わるよぉ」
恐らくだが生死には関わらない。関わってたまるか。
「それでねぇ、本題なんだけどね」
由美先輩が一拍置く。俺はごくりと唾を飲む。朝パンかご飯かぐらいと言われても、重要なことと言われたら妙に緊張する。
「文芸部、廃部になりそうです」
「「「えぇぇぇえぇ」」」
「な、何でですか?」
「うちの高校ねぇ、基本部活毎に何かの大会に出るならっていう条件で部活動できるんだけどね、吹奏楽部ならコンクール?で、でも...なんと!文芸部、何にも出てません!」
「今から出れそうなやつないんですか?」
「締め切り、終わっちゃいました。昨日。いやー困りますね?」
「いやなんで他人事なんですか」
「ですが私には一つ、名案があるんですよぉ!」
由美先輩が胸を張る。顔はやけに自信満々そうだ。
「うちに軽音楽部あるじゃん?でもうちの軽音楽部大会ないじゃん?でもうちの軽音楽部存続許されてるじゃん?これには裏があるんだよぉ。実はねぇ」
ふっふっふと目を瞑り、由美先輩が笑い始める。
「高校の名前を売れるような活動をしていれば、活動が許されるらしいのです!」
もう一度、由美先輩が胸を張る。
「それで...その名前を売る活動って、何するんですか?」
「ネットに学校の名前でアカウント作って活動するの。そしたら廃部の危機回避ってわけ!どう?私天才じゃなぁい?」
由美先輩は目を瞑り、こちらに耳を向けて耳に手を当てている。
「「て...てんさーい」」
俺と誠一がそう言うと、由美先輩は満足気に頷く。恐らくこの言葉を求めていたのだろう。
「時は金なりっていうしねぇ。早速投稿しちゃおうか」
===
「あぁ...私の処女作がネットの海に...」
「よし、俺の処女作。ネットの海に揉まれて誰かに届いてこい」
「そんなボトルメールみたいなことなの?」
多分違う。
「よし、これで全員かなぁ?」
由美先輩がカーソルを動かしながら確認する。
「う~~ん。どうせだし先生の作品も入れちゃおっかぁ」
「え?先生も小説書いてたんですか?」
「一回だけねぇ。文化祭の時に書いてもらったんだ」
「好評でした」
「誰も文芸部に来なかったよ?ふふっ」
由美先輩、目が笑ってないです。
「まぁまぁ、次の文化祭でいっぱい人呼べば良いだけですしね?由美先輩」
「私の小説...凄く力作だったんだけどなぁ....なぁ..」
由美先輩の目が虚ろになり始める。
「先輩、投稿しちゃいますよ!えーい」
日奈が虚ろな由美先輩を横目に見ながら投稿のボタンにクリックした。
だんだんと俺たちの小説がアップロードされ始める。
俺の作品ちゃん、酷評されないといいなぁ。
===
「あっ、そう言えば先輩ネットに上げたやつどうなってんですか?」
俺たちが小説をネットの海に投げてから一週間、そろそろ反応が気になる頃である。
「あぁ、そういえば投稿してたね。忘れちゃってたや」
由美先輩が小説投稿サイトを開く。
次々と画面が更新されていき、俺たちの高校のアカウント名のプロフィールが開かれる。
そこで俺たちは異変に気付いた。
「あれ...?滅茶苦茶通知来てませんか?」
そう、大量に通知が来ているのである。
通知が来すぎて、通知マークの右上は99+となっている。
「そうだねぇ、誰かの作品がバズったのかなぁ」
「きっと私よ!そうに決まってるわ。なんたって私の処女作なんだから」
日奈が胸を張り、妙に自信満々だ。どこからその自信が出てくるかは分からないが、まぁ元気なのは良いことだ。
「いーや俺だね。俺の執筆歴、舐めるでない」
「こういう投稿サイトでミステリーってあんまり伸びないらしいよぉ。聞いた話だけど」
誠一が両膝をついてうな垂れる。うん...まぁ元気出して頑張って欲しい。いつか報われるよ、うん。
「美咲ちゃんとか健吾君は自信ないの?」
「私はちょっと...書いたのも初めてだし」
「俺もっすね」
「そっかぁ。まぁ才能なんてどこに眠ってるか分からないしね。じゃあ早速見ていこっか」
通知のマークを由美先輩がクリックする。
画面の右上が応援コメントで一杯になった。
『ちょー面白いです』
『神作』
『これを高校生が書いたとは思えない』
『今の高校生こんなに凄いのか』
と、嬉しい応援コメントでいっぱいだ。
「お~、凄い人気だねぇ。一体誰なんだろ」
由美先輩がその応援コメントをクリックし、その小説のページに飛ぶ。
【どこかの公立高校】
と、小説のタイトルが表示される。
俺は自分の作品のタイトルを思い出すが、俺ではない。
周りの人を見てみるが、全員あまり反応がない。
「あのぉ、これ書いたよぉって人、手上げて欲しいなぁ」
由美先輩が掛け声をかけたが、誰も手を上げない。
全員が周りを見渡している。
「由美先輩...これもしかしてなんですけど...」
「うん...そうだね...」
俺はとある応援コメントを思い出す。
『これを高校生が書いたとは思えない』
『今の高校生こんなに凄いのか』
すみません。これ書いたの27の先生でした。