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35話 文化祭

「文化祭、良いアイディアがあるよーって人、手上げてほしいなぁ」


だが、誰の手も上がらない。


「だよね~。あぁ、どうしようかなぁ」


そう言いながら、由美先輩が頭を抱える。


「文化祭ってそんなに大事なんですか?」


「大事だよ健吾くーん。だってね...」


由美先輩が俺の目をじっと見つめる。俺はごくりと唾を飲む。


「アンケート一番の部活はね、部費が増えるんだよぉ」


「部費が...増える...」


俺は由美先輩が言ってたことを復唱する。


他の部員の目も輝いている。


「それは...大事っすね。ちなみにいくらもらえるんですか?」


「う~~ん。私は貰ったことないから分からないけど...あっ先生、部費っていくらもらえるんですか?」


俺は心の中で期待する。アンケート一番と言うことは、実は結構もらえたりするんじゃなかろうか。部費が多ければそれほど俺たちに還元されるわけだし。テンションが上がってくる。


「そうだなぁ。去年の話だが、部員×1000円って所だ。去年の軽音楽は40人近くいたから40000円って所だな。だがまぁ、今年は経費全然余ってないから恐らくおめでとう賞でこの学校で配布しているこの学校のキャラクターが描かれている反射板が貰えると思うぞ」


0円になっちゃった。


由美先輩が、ぱちぱちと瞬きしている。

しかも商品があれだ。腕にぱちっと叩きつけて腕に巻きつける奴だ。貰ったときにちょっと叩いて遊んでその後行方が分からなくなるあれだ。

逆に貰わないほうが良いんじゃないかというあれだ。


「ま、まぁ由美先輩。文化祭って金額じゃないっすよね?ね?みんなもそう思うでしょ?」


みんなこくりと頷いているが、先ほどまでの目の輝きはとっくに失っていた。


「う~ん。練習で書いた短編小説貼っとけばいいんじゃないかなぁ」


「由美先輩なんか適当になってません?」


「いやだなぁ健吾君。そんな私がお金が動く女に見える~?」


「はは、やっぱそうっすよね」


「そもそも文芸部が軽音楽に文化祭で勝てるわけないよねぇ。ははははは。張るだけだし準備は早く終わるかなぁ」


やっぱ由美先輩はお金で動く女だったようだ。


===


結局みんな賛成して、俺たち文芸部は過去に描いた短編小説を壁に貼ることにした。

楽したいとかじゃないからな?うん。俺たちは最善を尽くしたんだ。うん。


ちなみに準備は10分で終わった。


俺は校内を出歩く。

各クラス各々のクラス企画の準備を進めている。


どの教室を見ても数人は準備を進めていた。


ちなみに俺はなんかしようか?と聞くと会計だから手伝わなくて大丈夫、予定外の人が触ると設計狂っちゃうかもしれないしと言われ、泣く泣く電卓を打っていたが五分で終わってしまった。


俺の文化祭、これでいいのだろうか。

俺の夢見ていた青春高校生活の中には文化祭や体育祭も含まれていたはずだ。


だが、その中の一つの文化祭がこれでいいのだろうか。

だがまぁ、何か準備したいかと言われたら面倒くさいと感じてしまうのが俺と言う人間なのだが。


まぁ文化祭のすべては準備に詰まってるわけじゃないしな。

そう自分に言い聞かせた。


===


まぁなんやこうやありながらも、文化祭の日がやってきた。

やってきたのだが...


「全然人来ねぇ...」


ぼそっと文芸部の部室の椅子に座りながら呟く。

そう、まったく来ないのだ。かれこれ一時間待っているがまだ人っ子一人来ていない。


「ふふっ、なんか暇だね」


隣に座っている美咲さんも頷く。


「健吾君はさ、どこか行きたいところとかあるの?」


「俺、俺かぁ...あっ、誠一と日奈がやってるメイドカフェは行きたいかも」


「私も私も。私もそこ興味あったんだよね。日奈ちゃんのメイド姿可愛いだろうなぁ。良かったら一緒に行きたいな」


「じゃあ当番終わったらいくか。それにしても誠一もメイド服着てるらしいからな。写真撮ってやるんだ」


「健吾君...悪い顔してるよ」


その時、ガラガラとドアが開いた。


やっと誰か来てくれたのかと思い、ドアを見てみたが、そこには由美先輩が立っていた。


「誰か来てくれたぁ?」


「いや、まだ人っ子一人来てません。気配もないです」


「う~~ん。それは大変だぁ」


全然大変と考えて無さそうな声で、由美先輩が反応する。


「う~~ん。二人とももうどっかに遊びに行っちゃったら?」


「え?良いんですか?」


「うん。前に待機してた誠一君と日奈ちゃんも、私の番の時だって誰も来なかったしもう人来ないんじゃないかなぁ」


それはなんというか...力を入れてないにしてもちょっと悲しくなる結果だ。


「二人で巡っておいで」


そう言いながら、由美先輩は机に置いてあったノートパソコンを起動させる。


「由美先輩はどうするんですか?」


「私?私はねぇ、次だそうと思ってる賞の期限がかなりピンチだから小説書いとこうかなぁって」


「そんなにピンチなんですか?」


「うん。後二日で四万時書かないとぉ」


「それはその...貯めこみましたね」


そもそもそれ、物理的に間に合うのだろうか。まぁ俺は由美先輩の健闘を祈るばかりである。


「じゃ、行こっか」


「うん。分かった」


俺と美咲さんは部室を出た。


===


「いやそれにしても...めっちゃ並んでるな...」


俺の前には、ざっと20人の人が並んでいた。


「だね、思ってた以上に並んでるかも」


そしてその原因は、列の最前列にあった。


「写真?良いよ~何枚撮る?私どんなポーズしようか?えーこれ?ふふっ、いいよ」


そう言ってツーショットを撮っている。

そう、日奈だ。


日奈が人気すぎるのだ。そもそも可愛いアイドルってだけで話題になるのに、そのアイドルがメイド服を着ているのだ。校内で話題にならないわけがない。


「俺たちも後で撮ってもらうか」


「ふふっ、日奈ちゃん嫌がりそうだね」


「ちょー嫌な顔しそう」


「ふはっ、確かに。想像できちゃうや」


俺たちは二人で笑った。だが、噂の当人は忙しそうに写真対応に追われていた。


===


「いらっしゃいませご主人様~...げっ」


「おい露骨に嫌そうな顔するな」


注文を聞きに来た誠一が嫌そうな顔を見せる。嫌すぎてちょっとずつ後退っている。


「ねぇ誠一君...写真撮っちゃダメかな?」


「ダメです」


誠一が顔を横に振る。


「ダメかぁ。残念」


美咲さんは残念そうに俯く。そんなに撮りたかったのか。


「じゃあ俺は?俺は撮っていい?」


「なんでお前なら許されると思ってんだよ!ダメに決まってるだろうが」


「ちぇー。あっ、メロンソーダ二つ」


「あいよー」


「ここってメイドカフェだよな」


俺のそんな言葉は無視して、誠一が店の奥に消えていく。


「いやぁそれにしても誠一君のメイド服姿、新鮮だったねぇ」


「だな。由美先輩が見たらどんな反応するか見てみたいぜ」


「確かに。私も見てみたいかも。無理やり写真撮ってそう」


「分かるわ~」


そんな会話をしていると、俺らの席に日奈がメロンソーダが持ってくる。


「あっ、あんた達来てたんだ」


「まぁな。誠一をからかってやろうとおもって」


「ふふっ、やると思った」


俺達の前にメロンソーダが置かれていく。


「どう?似合ってるでしょ?」


そう言いながら日奈はくるっと回る。


「可愛い...」


「そういう美咲ちゃんも可愛いよー」


そう言いながら日奈は笑顔で美咲さんに抱き着く。美咲さんは笑顔で日奈に抱き着く。

幸せな空間がそこには広がっている。


「なぁ日奈、一回だけご主人様って呼んでみてくれない?」


「「は?」」


美咲さんと日奈からどすの効いた低い声と、ごみを見るような目が飛んでくる。その顔に笑顔はもう残っていない。

さっきまでの幸せな空間から一転、地獄のような雰囲気が流れる。


「嫌だなぁ。冗談だよ」


そう言った瞬間、二人の顔に笑顔が戻る。


「本気で言ってたら普通に...」


「普通に?」


「「縁切ってた所だった」」


よし、これからは軽率な発言は控えるようにしよう。俺は心の中で決心した。


===


「はい、チーズ」


その掛け声と共に、パシャリと音が鳴る。


「ありがとねー」


俺たちは手を振る日奈に手を振りながら廊下を歩く。

列を見ると三十人ほどの列が出来ていた。


日奈の効果、恐るべしである。


「日奈ちゃん、可愛かったねぇ」


「だなぁ。流石アイドルって感じ」


「私もメイド服着たら似合うかなぁ?」


「う~~ん。着てみたら分かるんじゃないか?」


「そこは似合うって言ってよ~」


ふふっ、と美咲さんが笑う。

だが俺は今軽率な発言は控えているのだ。似合うは少し難易度が高い。


「じゃあ今度着てみたら?俺が撮影してあげるよ」


「う~~ん。なんか健吾君に見られるのはやだ」


「なんで!?」


俺は一体どう思われているのだろうか。少し怖い。

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