「わぁ、キレイだねぇ」
由美先輩が楽しそうに呟く。
俺はちらっと周りを見渡す。周りはカップルでいっぱいだった。
「もぉ~慎吾君ったらぁ」
二人で腕を組みながら後ろを若いカップルが歩いていった。
花のイルミネーションを見つめていた美咲さんが言った。
「ねぇねぇ健吾君。私たちも周りから見たらカップルに見えたりするのかなぁ。ダブルデート?みたいな感じで」
ぱしゃっと音が鳴り、美咲さんがイルミネーションの写真を撮る。
そして俺の方にカメラを向けて、もう一度写真を撮った。
「きゅ、急にどうしたの?」
「いやぁ撮りたくなっちゃって。せっかくみんなで来たんだからみんなの写真も撮っとかないと勿体ないじゃん?写真は一生の思い出になるわけだし」
写真は一生の思い出になる....確かにそうだ。
そう思い、俺はポケットからスマホを取り出してカメラを美咲さんに向けて、一枚の写真を撮る。
「急に撮らないでぇ」
「いやぁ、やっぱそのままを撮るのが一番かなぁって。それに美咲にもいきなり撮られたから仕返し?みたいな感じ?」
「女の子はキレイに映りたいものなんだよ?」
ぷくっと美咲さんが頬を膨らます。それにすらも可愛く思えて俺はもう一回写真を撮った。
「もー、もう一回撮ったね?」
「いやぁ、可愛かったから」
「か、可愛い!?」
しまった。と俺は思う。
無意識で思った言葉を言ってしまった。キモがられたりしてないだろうか。
俺は文化祭での出来事を思い出す。
恐る恐る俺は美咲さんのことを見る。
美咲さんは袖で顔を隠していた。
「ど、どうしたの...?」
「な、なんでもないよ」
そう言いながら美咲さんは立ち上がって少し前に居る由美先輩と誠一に合流した。
もしかして、やばいこと言ってしまったか?
===
「ねぇねぇ美咲。ちょっと頼みがあるんだ」
俺は由美先輩に聞こえないように、美咲さんの耳元で小さく言う。
「ど、どうしたの?」
「この道の最後に桜の木モチーフのイルミネーションあるじゃん?あそこで俺と二人で誠一たちから離れてほしいんだ」
「なんで?どうかしたの」
「誠一が告白するんだ。由美先輩に」
「え!?」
美咲さんが口を手で覆いながら驚きの声を上げる。
「つ、ついに告白しちゃうんだ...」
「らしいよ」
前を誠一と由美先輩が楽しそうに会話しながら歩いている。
どんどん桜の木のイルミネーションに近づいていく。
「ねぇねぇ、やっぱりここってカップルばっかりだよねぇ。憧れるよねぇ。彼氏と一緒にここ歩くの?みんなもそう思わない?」
由美先輩がこちらに振り向いてそう質問する。
「俺も、彼女欲しいっす」
誠一がもう緊張しているのか、声を少し上擦りながらそう答えた。
「だよねぇ」
由美先輩がふふっと笑う。
そうこうしていると、ついに桜の木のイルミネーションまで辿り着いた。
俺と美咲さんは目を合わせ、うんと頷いた。
「あのー俺たち、ちょっと急に用事が出来てしまったようなんで...ここでお邪魔します」
「す、すみません。急用が出来ちゃったので...」
「あれー。そうなんだぁ。残念。またね~」
由美先輩が俺たちに手を振る。俺たちも手を振りながら由美先輩たちから離れ、近くの通路を曲がるとすぐさま由美先輩たちに近い茂みに隠れた。
俺たちの後ろを通る通行人の目が痛いが、そこは気にしたら負けだ。うん。
由美先輩と誠一が向かい合っている。誠一の目は真剣だ。
「由美先輩、俺...話があるんです」
「どうしたのぉ?」
「も、もう告白しちゃうんじゃない!?」
小さいが明らかにテンションが上がっている様子の声で、美咲さんが誠一たちを見つめている。その顔には笑みが広がっている。
「俺、ずっと...ずっと...由美先輩のことが」
誠一が一拍置く。
見てるこっちが緊張してしまう。
俺と美咲さんも思わず息を呑んでしまう。
「由美先輩のことが好きでした!付き合ってください!」
ついに誠一は言った。誠一がお辞儀の姿勢で手を由美先輩へ伸ばす。
誠一たちの周りを通りかかっている人たちも少しずつ足を止めて告白の様子を見守っているようだ。
「ふふっ、どーしようかなぁ」
「え!?」
誠一が慌てた様子で顔を上げる。
その表情から焦りが読み取れる。
「ふふっ、うそうそ。誠一君すぐびっくりしちゃうんだからぁ。
私、ずっと誠一君が告白してくれるの待ってたんだよぉ?」
「そ、それはすみません...」
「謝らくていいよぉ。私からもよろしくね」
そう言って、由美先輩は誠一の手を握り返した。
周りの人たちから拍手が送られる。
観衆に初めて気づいたのか、驚いた様子で誠一が周りを見渡す。だんだんと誠一の顔が赤くなっていく。
俺たちも、立ち上がって誠一たちに拍手を送る。
「け、健吾たちも見てたのか...?」
「まぁな」
「ご、ごめんね...?」
「まじかよぉ。友達に告白見られるのまじ恥ずいんだけどぉ」
誠一が屈みこんでしまった。
一瞬俯いてしまったが、すぐに顔をあげた。
「ま、付き合えたからいっか!」
周りの人たちから、笑い声が起こる。
「誠一君、目閉じててね」
由美先輩にそう言われ、誠一は言われた通りに目を閉じた。
そして由美先輩は屈んで、由美先輩の唇をだんだん誠一の唇に近づけていく。
そして、その唇たちは、少しの時間触れ合った。
由美先輩からキスされた瞬間、誠一が後ろに仰け反って尻を着いてしまう。
「い、今の...」
「ふふっ、私、初めてだよぉ?」
「お、俺もです....」
「「「「「おぉ...」」」」」
俺と美咲さんだけに留まらず、周りの人たちからも声が上がり、そして拍手が送られた。
告白成功祝いと、誠一の勇気に拍手!
===
「え!?それほんと!?」
部室で日奈が驚きの声を上げる。
「ほんとだよ」
「ホントに!?まじかぁ。誠一に告白する勇気があるなんてね」
「おい俺のこと何だと思ってたんだよ。俺はやるときはやる男だぜ」
「まぁ今回はそうだったようね」
「今回はってどういうことだよ」
「ふふーん」
と日奈は白を切る。
そして日奈がこちらに近づいてきて、耳元で囁く。
「先、越されちゃったね」
「だなぁ」
俺はため息交じりにそう答える。
「いつになったら健吾の男が見れるのやら」
「来世に期待してくれ」
「今世で頑張りなさいよ」
俺は自分が美咲さんに告白している様子を想像してみる。
想像は出来るのだが...いかんせん勇気が出ない。
ちらっと美咲さんを見る。美咲さんは楽しそうに由美先輩と話していた。
「頑張らないと他の人に取られちゃうかもよ?」
「それは...勘弁してほしい」
「でしょ?だから早く勇気決めないと」
「そうは言っても難しいんだぜ。勇気出すの」
「そんなのは勢いよ勢い。自分が行けると思ったら何も考えずに突っ走るのよ」
「う~~ん。そういう日奈は自分に好きな人が出来た時に告白できるのかよ」
「私は出来るわよ。うーーんって勇気だしたら一発よ」
「あてになんねぇ」
俺は苦笑しながら美咲さんが他の男子と一緒に楽しそうに歩いている姿を想像して、少し妬いてしまう気持ちになる。
そろそろ告白しないとな。俺は心の中でそう決心した。