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38話 健吾の中学時代

俺はトイレから教室に帰るために廊下を歩いていると、とある教室から怒鳴り声が聞こえて俺はドアから顔を覗き込ませた。


俺が顔を覗き込ませた教室では、一人の女子を五人ぐらいの女子と男子が取り囲んでいた。


「わ...私じゃないよ」


「美咲ちゃん以外に誰がするのよ」


「そ...それは...長野ちゃんじゃないかな...私長野ちゃんがロッカー開けてるの見たよ...」


「え?私疑うっていうの?ほんとあり得ないんだけど。私じゃないし。私ロッカーに触ったことすらないし。そもそも私美咲ちゃんに任せてたよね?」


「うん。そもそも私美咲ちゃんがロッカー開けてるの見たよ」


「それはだから集金したお金を入れるためで」


「それ以外の時にも開けたんでしょ?」


「開けてないよ....」


取り囲んでいる女子のその言葉に俺は嘘を感じる。


取り囲んでいる女子のうちの一人が、取り囲まれている女子を睨みつける。


取り囲まれている女子の肩の上ぐらいまで伸びた紫の髪の下の眼鏡の中の目は、今にも泣き出しそうだった。


「美咲ちゃんがお金盗ったんでしょ?なんで嘘つくの」


「嘘....じゃないよ」


対して、取り囲まれている女子からは嘘を感じない。


取り囲まれている女子が、一歩、二歩と後退る。


その姿は、ひどく小さく見える。


一瞬助けてあげたいとも思ったが、俺はぶんぶんと首を振る。


俺はそれで一度、殴られて骨を折られたことがあるのだ。


そんな危険があるのに、人助けなんてするものじゃない。

痛いのは嫌いである。


その時、結構強めに背中を叩かれた。


「よっ」


「いってぇ...って誠一か」


「っそ、なんか起きてるの?」


「ああちょっとね」


俺の数少ない友達、誠一がハンカチで手を拭きながら俺と同じように教室を覗き込む。

こいつ、今ハンカチで手拭いてるってことは俺叩いたときも手濡れてたってことか。


俺は自分の背中を触ると、結構ちゃんと濡れていた。

俺はまだ濡れている自分の手をバレないように誠一の制服で拭く。


その時、誠一の方へ振り向く。


「なぁなぁ、健吾から見てどうなんだ?」


「どうなんだって...?」


「ほらどっちが嘘ついてるかだよ。お前なんでか分かんないけ嘘分かるじゃん。それだよ」


「あぁ嘘ね...あの取り囲んでる方が嘘ついてるよ」


「嘘じゃないよな?」


「じゃあなんで聞いたんだよ」


「ははっ、確かにそれもだそうだな。まぁ健吾が嘘って言って嘘じゃなかったことはないからな。今回も信じるよ」


怒鳴り声を聞いてか、続々と後ろや窓に他の生徒たちが集まりだす。


「私と美咲ちゃんが会計係だったけどさ。私美咲ちゃんに会計任せてたじゃん。

それに集金したお金は私と美咲ちゃんしか持ってない鍵しか使えないロッカーに入れてたんだし。やっぱ美咲ちゃんが盗ったしか考えられなくない?」


「それでも...私じゃないし...」


「なんでそこまで嘘つくんだよ」


「素直に謝ればいいのに」


取り囲んでいる人たちの言葉が、だんだんと強くなっていく。


「わ、私が...」


囲まれている女子が泣き出す。


俺は思わず現場に歩き出していた。


どうせ碌なことにならないような気もするが、見過ごすのも気分が悪い。

殴られませんように。俺は心の中でそう祈る。


「何で自分の友達が嘘ついてるって考えないんだよ」


後ろから急に現れた俺に、皆の視線が集まる。


「え?だれだれ?」


「あ、あれだよ。あの探偵気取りの奴」


「あーあいつね」


取り囲んでる五人が小さな声で話始める。

俺そんな風に呼ばれてたのか。


「急に出てきて何?私が見たって言ってるんだからやってるでしょ」


「でもあなた以外見てないんでしょ?」


「そりゃそうだけど...」


「じゃああなたが嘘ついてる可能性もあるわけで」


「そんなの考えたらきりないじゃない」


「そう、キリがないんですよ」


俺は右手の人差し指を立てる。


「だから、ここで一つ。俺に提案があるんですけど」


「何よ」


「警察に相談したら良いんじゃないですか?別にこれ盗難なんだし」


「盗難って...警察に相談するほどでもないでしょ」


「相談するほどですよ。いくら盗まれたんですか?」


「...五万」


「五万がそれほどじゃないって。どんな家庭で育ったんですか。それともあれですか?自分たちが盗んだから言われたくないみたいな?」


「そんなんじゃないわよ!」


「じゃあ相談したらいいじゃないですか。あなたもいいですよね?」


俺は泣いている女子に話しかける。


「あっ...はい」


泣いている女子はうんうんと首を縦に振った。


「あんた一体何言ってるのよ!」


「そうだぞ!」


鬼の形相で二人の男女がこちら歩み寄ってくる。今にも殴りかかってきそうだ。

俺はその圧に押されて後退ってしまう。ちょっとちびったのは内緒だ。


その時、教室の前側のドアから先生が飛び込んでくる。


「お、お前たち何があったんだ」


二人の先生が飛び込んできて、一人は俺に向かってきていた二人を、そしてもう一人が俺を取り押さえる。


「ちょっと、関わってる人全員職員室に来なさい」


===


結局、この件は先生たちの間で処理すると言われ、うやむやになった。

うやむやになったが、俺が説得したおかげか、泣いていた女子は犯人ではないと先生も言ってくれて、なんとか泣いていた女子の疑いは晴れた。


俺が下駄箱で靴を履き替えようとしていると、一人の女子が俺に駆け寄ってきた。


「あ、あの...」


「ん、どうしたの?」


「えっと....その....」


急に女子に女子に話しかけられてびくっとなりながら、俺は顔を見る。

女子に話しかけられることなんて滅多にないので、少しドキドキする。

俺はその顔に見覚えがあった。


「あぁ、あの時の子か」


「はい、そうです。あの時はありがとうございました」


「いやぁ、それほどでもないよ」


「ほんとに助かりました。ありがとうございます」


その女子は何度も頭を下げる。


「いやいいよいいよ」


「何かした方がいいでしょうか....?」


「何もしなくていいよ」


「ほんとですか?」


「ほんとだよ」


「でも何かさしてください。あなたが来てくれなかったら私どうなってたことか....」


力強い視線でその女子はこちらを見る。


「うーんじゃあ...」


俺は何かいい案がないかと考えが、結局何も思い浮かばず、俺はとりあえず思いついたことを言った。


「じゃあ髪の毛ロングにして欲しいな。絶対ショートよりロングの方が似合ってる気がするし。まぁ俺の好みなんだけどね」


「え....はい...」


その女子から少したって返事が届く。

もしかして今の髪型気に入ってるのかも。まずいこと言ったかも。

そう考え、俺は急いで訂正する。


「あっ、嫌だったら全然しなくて大丈夫だし、気にしないでね。なんかごめんね..,それじゃ!」


俺はだんだんと気まずくなってきて、顔を合わせることなく急いで靴を履き替えて学校を出た。


やっぱ急に髪の話とかしたから気まずくなったのかな。急すぎたかな。言っちゃいけなかったかも。

帰路ではそんなことをずっと考えていた。

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