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44話 合宿1

「夜の学校ってワクワクするよなぁ」


布団を敷きながら誠一が楽しそうに言う。


春休みの序盤、文芸部は学校で合宿を行うことにした。


「誠一だけお化けに襲われたら面白いのに」


「おい縁起でもないこと言うな」


「一回襲われてるところ見てみたいねぇ」


「由美先輩も縁起でもないこと言わないでください」


「誠一誰にも居ないのを良いことに女子トイレとか入っちゃだめだよ」


「おい俺のことなんだと思ってんだ」


散々なことを言われている誠一を横目に見ながら、俺と美咲さんはもう布団に入って寝る体勢に入っていた。


ちなみに俺と美咲さん、由美先輩と誠一は隣同士である。そして真ん中に日奈という布団の並び方だ。


「おい二人とも何寝ようとしてんだ。夜の学校と言えばしないといけないことあるだろ」


「私...もう布団から出れない...」


幸せそうな顔で美咲さんがゆっくりを瞳を閉じる。


「おりゃ!」


そんな美咲さんの布団を、日奈が勢い良く引きはがす。


「うわぁ!日奈ちゃん返してぇ」


美咲さんは身をぎゅっと縮めながら日奈に上目遣いで頼む。

ピンクのパジャマに、眼鏡をしていない美咲さんはどこか新鮮だ。


「だめ!私と一緒に肝試ししてからね」


「ほんとにぃ?」


「ほんとに」


「う~~ん」


美咲さんは悩む仕草を見せてから、何か閃いた仕草を見せた。


一回転、こちら側に美咲さんが転がってくる。

先ほどよりかなり顔が近くなってドキっとしてしまう。

少し顔を動かせばもう顔が触れてしまいそうだ。


「おりゃ」


素早い手つきで美咲さんが俺の布団を奪い取った。


「あったかぁい」


美咲さんの顔に幸せそうな表情が浮かぶ。

そんな幸せそうな美咲さんの布団を、俺と日奈は容赦なく奪い取った。


===


「酷いよぉ。健吾君と日奈ちゃん酷いよぉ」


美咲さんは俺と日奈を恨めしそうに見ながら後ろに着いてくる。


「まぁまぁそんなこと言わずにさ、なんか凄い現象が起こるかもしれないし」


「誠一君...もう残ってる学校の七不思議トイレの花子さんしか残ってないよ...?」


そう、俺たちは音楽室やら生物室やら行ってみたのだが、まぁ実際に七不思議が起こっているはずもない。


「じゃあ残り一つにかけるしかないさ」


「え...もしかして誠一君女子トイレ入るの...?」


「え?ダメなのか?」


女子三人が小さく誠一から距離を取った。


「誠一君、私誠一君のことなら大抵許せるけどぉ。でもまさか誠一君がそんなことしたい人だったなんてぇ」


「由美先輩!誤解です誤解!俺別にトイレの中確認したいわけじゃないっすから」


「「「ほんとにぃ?」」」


「ホントだから信じてくれぇ!」


誠一の悲痛な叫びが、俺たち以外誰もいない学校の響いた。


===


目を開くが、開いた先は真っ暗闇である。


俺は美咲さんに、誠一は由美先輩に両手で目隠しされながら女子トイレを歩いていた。


「絶対に目開けちゃだめだからね。開けたら私が布団もらうからね」


後ろの美咲さんが俺に警告する。ごめん美咲さん。もう開けちゃってる。


俺はそっと目を閉じた。


その瞬間、ぱちっと音が鳴った。


「「「え!?」」」


周りの女子三人から悲鳴が上がる。一体何があったのだろうか。


「何々!?電気消えたんだけど誰か消した?」


日奈が慌てた声を出す。


「私じゃないよぉ」


「私でもないよ」


「当然俺でもないぜ」


「同じく」


「じゃあほんとに勝手に消えたってこと?」


前を歩いていた日奈が電気のスイッチがあるであろう後ろに歩いていく音が聞こえる。


「あれ?おかしいなぁつかないんだけど」


「じゃあ電池切れかなぁ」


その時、キキィと前のトイレのドアが開く音が聞こえる。


「え!?誰々!?誰か開けたの?」


「いや...誰も開けてないと思うけど...」


その瞬間、前から足音が聞こえてくる。


「ねぇ誰か歩いてる...?」


「私歩いてないよ」


「私もだよぉ」


一歩、二歩と美咲さんが後退る。俺もそれにつられて後ろに下がる。


「悪霊退散悪霊退散悪霊退散悪霊退散...」


後ろでぶつぶつと美咲さんが呟く声が聞こえる。

恐らく何も見えてない俺と誠一の方が怖い。


「ひっ」


後ろで悲鳴が上がる。


「ど、どうしたの?」


「なんか背中に降ってきたんだけど」


その時、前から声が聞こえる。


「お兄ちゃんとお姉ちゃん...遊んでくれないの....?」


それは小さな少女のような声だった。


後ろでパタンッと強くドアが閉められる音が聞こえる。

「「日奈ちゃん!?」」


恐らく逃げた日奈に続くように俺たちを放って美咲さんと由美先輩がトイレを出る。

見えないが、恐らく隣に立っている誠一と目があった気がする。


「お兄ちゃん...遊ぼうよ....」


その言葉を聞いて、背中に冷や汗を流しながら俺たちも急いでトイレのドアに駆け寄る。


「おい、なんか開かねぇんだけど!」


ドアをガチャガチャさせながら誠一が叫ぶ。


「あんたたちが出てきたら花子さんも一緒に来ちゃうじゃない!」


ドアの向こうで必死そうな日奈の声が聞こえる。


「おい薄情者!せめて俺だけでも出してくれ」


誠一、お前も大概薄情者だぞ。


「お兄ちゃん...」


「おい後ろまで来てるって!やばいって!早く出してくれ!」


「日奈!一生のお願いだから開けてくれ!すぐ後ろなんだって!」


「後ろまで来てるなら尚更開けるわけにはいかないじゃない」


果たしてここから俺たちが出た時、前と同じように日奈と接せられるだろうか。多分一生恨むと思う。


自分の心臓がバクバクと鳴る音が聞こえる。


俺もドアを開けるのを手伝うが、なかなか開かない。


だが徐々にドアは開いていき、俺たちは倒れこむように廊下に飛び出た。


後ろですぐにばたんとドアが閉まる音が聞こえる。


振り向いた視界が最初に捉えたのは、いつのまにかテープが何重にも張られたトイレのドアと、ドアの前の小さな盛り塩である。


「みんなに聞いてほしいことがあるの」


涙目になりそうな日奈が全員の目を見ながら言った。


「私この学校辞めるわ!」


===


「もう無理よ...この学校に居たらいつか四肢全部もがれて殺されちゃうんだわ」


「花子さんってそんなに物騒だっけ」


布団にくるまって顔を出さなくなってしまった日奈を見ながら、俺たちも布団に入る。


「まぁみんなでかかれば花子さんなんて楽勝だよぉ」


「まぁ俺たち置いてかれた所か身代わりにされたんですけどね」


布団にくるまっている日奈の背中をじっと見つめる。

その視線を感じ取ったのか、布団の中から小さな声が聞こえた。


「逆に考えてみればこんなに可愛い子の身代わりになれて光栄....みたいな?」


俺と誠一は同時に立ち上がり、思いっきり日奈の布団を奪い取って廊下に放り投げた。

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