「「ライブ?」」
俺と美咲さんは口を揃えて唯と優奈に尋ねる。
「「はい!ライブです!ひーちゃんのやつ!」」
「いやぁでも俺たち日奈のライブ行くこと禁止されてるからなぁ」
「「お願いします!じゃないとチケット二枚無駄になっちゃうんです!」」
「他に誘える友達とか居ないの?」
「「私たち友達居ないです!」」
笑顔のままハキハキと唯と優奈が言うが、この笑顔と正反対に言ってる内容が悲しい。
まぁ俺も人の事言えないのだが。
「「お願いします!一回だけでもアイドルのひーちゃんの姿を見て欲しいんです!」」
「まぁ行ってもいいんじゃないか?俺も一回日奈のライブ見てみたかったし」
「大丈夫かなぁ。行ったことばれないかなぁ」
「まぁ大丈夫でしょ。美咲も日奈のライブ気になるでしょ?」
「確かに気になるけど...」
「大丈夫だって、正直美咲も一回日奈のライブ見てみたいでしょ?」
「う~ん。確かにそっかぁ。よし、じゃあ私も行こうかな」
そう言って美咲さんはふふっと笑う。
まぁばれたらばれたらその時である。
===
会場の前には人だかりが出来ていた。
「なぁ。この中に日奈のファンってやつも居るのか?」
「そりゃ居ますよ!ひーちゃん人気ですから!」
「そっかぁ。あいつ人気なんだな」
俺は部活の時の日奈を思い出す。
お菓子を巡って喧嘩している日奈。誠一のお菓子を盗み食いする日奈。
そんな日奈がアイドルとしてファンがいる...未だに信じられないでいた。
だが、この中に日奈目当てで来ているファンの人も居るのだ。
日奈って実は凄い奴なんじゃないか?
だんだんと俺の脳裏にそんな考えが浮かんでくる。
今日は日曜日だ。
今日みたいな休日にライブをしたり、平日の放課後にいろんなメディアに出たり、そして歌やダンスの練習。
それなのにも関わらず、学校にはちゃんと通っている。
あれ?日奈って本当に凄い奴なのじゃないか?
そうこう考えていると、係員の人に案内してもらい、会場に入る。席は全体の真ん中ぐらいの席だった。
会場にはもうたくさんの人がステージを見て、日奈たちの登場を待っていた。
こんなたくさんの人に出迎えられるって、一体どんな気持ちなのだろうか。
恐らく俺には一生味合うことがない気持ちなのだろう。
しばらくすると、会場の照明がだんだんと暗くなっていく。
そして会場が真っ暗になったと同時に、会場から拍手が上がる。
暗かったステージがだんだんと明るくなっていくと、そこから十人ほど、白の可愛らしい衣装で身を包んで舞台袖から手を振りながら走って登場する。
その中には、笑顔の日奈の姿も見えた。
会場にハイテンポな曲が流れ始める。
俺は事前に唯に渡されたペンライトを周りに合わせて振り始める。
最初に歌い始めたのは、このアイドルグループのリーダーらしい黒髪の子だ。
俺より若く見えるが気のせいだろうか。
同じ調子でペンライトを振り続けると、ついにサビがやってくる。
日奈の声が会場に響く。
それはなんというか...一言でその歌声を表すならばキレイという一言だった。
すっと耳に入ってくるような、そしてずっと頭に残るような、そんな歌声だった。
日奈としたカラオケで歌が上手いこと自体は知っていたが、本気歌うとまさかこんなに上手いとは。
「みんなー!楽しんでるー?」
舞台上の日奈が大声でそう叫ぶと、それに呼応するように会場から歓声が上がる。
日奈のたった一声で、こんなにもたくさんの人が歓声を上げるのだ。
俺には到底できないことだ。
会場の空気に飲み込まれると同時に、俺の意識は舞台上に釘付けになっていた。
歌っていないメンバーのキレのあるダンス。
歌っているメンバーの透き通るキレイな声。会場を湧かせる鋭い歌声。
舞台上の全てが、俺の心を湧きたたせていた。
一言で言えば、俺はもうこのグループのファンになっていたのだ。
===
「みんなありがとねー!」
そう言って日奈たちはステージから舞台裏へ隠れていく。
俺は会場の熱気で汗だくになっていた。
隣に立っていた唯と優奈が笑顔で俺に話しかけてくる。
「「ライブどうでした?」」
「想像の何倍も楽しかったよ。それこそもう初めてのライブがここで良かったって思えるぐらい」
「「ふふっ、そうでしょそうでしょ」」
嬉しそうに二人は腕を組んで頷く。
二人とも汗だくで額には汗で前髪が張り付いていた。
「日奈ちゃん凄かったね」
汗を拭いながら美咲さんがこちらへ歩いてくる。
「だね。俺本当に日奈が疑っちゃたよ」
「部活の時となんか、違ったよね。一緒のはずなのにどこか違うっていうか...」
「それで、これからどうするんだ?帰るか?」
「「何言ってるんですか先輩!こっからも本番ですよ!!」」
「うん?こっからも本番?なんかあるのか?」
「「ありますよ!」」
二人はえっへんと同時に腕を組みながら頷きながら同時に言う。
「「握手会があるじゃないですか!」」