「「握手会!?」」
俺と美咲さんは同時に驚きの声を上げる。
「握手会なんて行ったら、俺たちがライブに行った事日奈にバレるじゃねぇか」
「「ひーちゃんって、何回も握手会行っても全然覚えてくれないよねー」」
「「ねー」」
二人が同時に話ながら同時に同じ返答をする。
初めて見た時は驚いたが、もはや見慣れた光景なので驚かなくなった俺が怖い。
「そう言えば入部した時も目黒って誰って聞いてたよな。あいつ実は人覚えるの苦手なんだな」
「「いや!それは私たちが妹ちゃんって呼んでくださいってお願いして名前教えてなかったからです!」」
「あっ、そういう裏があるんだ」
日奈が妹ちゃん...あいつがブラコンのイメージがあるせいで全然イメージが湧かない。
「にしても...確かに健吾君が言った通りに私たちが行ったらバレちゃうよ」
「「大丈夫ですよ!!」」
唯と優奈は自信ありげに俺たちを見ながら言う。
「大丈夫って、どこがだよ」
「「ひーちゃんは絶対、見たこと怒りませんから!」
「怒らないって...それはあいつのほんと...」
言いそうになって俺は急いで口を閉じた。
そうだそうだ。日奈は唯と優奈からはアイドルのキャラで振舞ってるんだ。
俺がそれをばらしてはいけない。
「「ひーちゃんの姿を見て、先輩たちはどう思いましたか?」
「そりゃまぁ...凄いなって」
「私も」
「「じゃあその気持ちを伝えたら絶対に喜んでくれますよ!自分の頑張ってること褒められて嬉しくない人なんて居ませんよ」
「う~ん。でもなぁ」
俺は腕を組みながら考える。
「よし、行くか!」
「え!?行くの?」
美咲さんが驚いた顔でこちらを見てくる。
「うん。まぁ隠れて見てましたって言うより素直に感想言った方がなんか印象良さそうだろ?」
「そういうものなのかなぁ」
「そういうもんだって。多分」
===
目の前の人の番が終わり、ついに俺の番がやってくる。
「こ、こんにちはぁ」
俺があいさつしながら行くと、日奈は驚きのあまり一瞬固まってしまう。
俺がとりあえず手を出すと日奈は一応手を握り返してくれた。
「な...なんでいるの...?」
「いやぁ、来たくなっちゃったから...?」
「どこから見てたの...?」
「どこから見てたってそりゃ...最初からだけど」
「全部見られてたってこと?」
「まぁそういうことになるな」
その時、後ろのスタッフらしき人に案内される。
「時間でーす」
俺は去り際、日奈に伝える。
「凄かったぞ」
===
翌日、部室には俺と美咲さん、そして日奈が居た。
「お二人にお話があります」
俺と美咲さんは並んで正座させられていた。
前の日奈が腕を組んで俺たちを見下ろす。
「なんで来ちゃったの?」
「いやぁ興味出ちゃって。ごめんな」
「私も...ごめんなさい」
「はぁ...まぁいいけど」
日奈は小さくため息を吐く。
「許してくれるの...?」
「ま、まぁね?今回だけよ?」
日奈が少し顔を赤くさせながら答える。
まぁ日奈の言葉に嘘は感じなかったし、素直に許してもらったことを感謝しよう。
「二人とも褒めてくれたしね」
日奈は小さくぼそっと、誰にも聞こえないように呟いた。