最初の頃はさほど騒がれなかった。経済が回復している中とは言え、経済的に追い詰められ非合法なやり方で金銭を得ようとする犯罪者は多く存在したためである。
SNSのコミュニティで集まり、金のありそうで反撃が不可能な相手を選び犯行に及ぶ。
だが今回の件は明らかに異常だった。関係性の無い被害者の連続殺人。強盗かと思いきや、目立つ場所に死体を置くような異常性。それは誰かにメッセージを送るようだった。
「一刻も早く解決しなければいけないのに…!」
警察は証拠を集めAIにより犯人の特定を急いでいたが、突然外部からのハッキングによりシステムが使えなくなってしまった。
「犯人は警察に恨みのある人間か、それとも海外のハッカー組織によるものか…今技術者たちによって復旧作業が行われているが相当時間はかかるらしい」
全国の警察組織が機能停止に陥る危険を感じ、山内総理はAIが復活するまで一時的に過去の捜査方法で動く許可を出した。
「とはいえ、間違えは誰にでもある。早急に対処するのもそうだがくれぐれも事件に関係ない一般市民に危害を加えないように」
メッセージを通達して、全国の警察組織は慎重に事件の証拠を集め犯人を検挙していた。
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―花菱警察署
「柴田! 捜査内容はチーム内の仲間で共有するようにあれほど言っているだろう! 身勝手に行動されると困るんだよ!」
「倉内さん。俺はあんな現場を知らない小僧達を仲間だと思ってません」
書内ベテラン捜査官の柴田と部長の倉内がもめていた。蒼空つばさの事件を捜査するチームを作ったが柴田が一人勝手に動いていて揉めている状況が続き倉内はそれを注意するため柴田を呼んでいた。
「柴田君。彼らは将来ウチの署を背負っていくんだ。先輩である君が子供みたいなわがままを言っていい立場じゃないだろう」
「お言葉ですけど倉内さん。だからこそ今のうちに現場の厳しさを教えておくもんでしょ。今のガキどもは黙っていりゃあ勝手に仕事が来ると思ってやがる。俺の若い頃なんざ何度も自分の足で調べていたもんだ」
「今と昔じゃ状況も何もかも違う」
「そんなの理由にならなねえ! この世界に入ったら世間の言う社会の常識は通用しない。俺らの相手は一般人が守る法律って言うのを簡単に破る様な人の皮を被った悪党なんだからよう。下手な優しさや、賢いだけの人間は簡単にあいつらは食い物にする。警察であろうとな…!」
「柴田…。お前まだあの事を…」
「部長。あんたがどういおうと俺は勝手にやらしてもらいますよ。なーに犯人はすぐにでも捕まえるさあ」
柴田はそう言って会議室から出て行った。
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「柴田…。まだ紫龍院教の事を気にしているんだろうな。だが今回のやり方、強引さは奴らのやり方に酷似している所もある」
紫龍院教が全盛期の頃、被害者の為にずっと追い続けた桝谷の様に柴田も紫龍院教を追っていた。教祖である川尻栄作が殺害される『紫龍院事件』が起こる1年前、柴田は捜査チームを作り、紫龍院教起こしている宗教詐欺について捜査していた。
当時の柴田は人情味ある好人物で部下からも慕われていた。
被害者達を一刻も早く救うべく休みも返上で証拠を集め紫龍院教へ本格的に捜査をしようとする寸前だった。
彼の部下が皆殺しにされた。
将来を期待されていた後輩の刑事・敷島は紫龍院教が活動している拠点を突き止めて証拠を押収しようとした。だが教団は裏ルートで入手していた拳銃、ボウガンと言った武器を集めており、敷島を含めた捜査官5人が皆殺しにされた。
後に捕らえられた幹部の信者の証言で明らかになったが、紫龍院教は黙って抜けようとする裏切り者を決して許さない敵の掟があり、彼らは死をもって裏切りを償うことをルールとしていた。
しかもその遺体は道に並べられ、『紫龍院教に敵対する者はこうなるぞ』と言う無言のメッセージとして扱われた。
奪われた命、冒涜された尊厳。大切な部下を失った怒りから柴田は何としても紫龍院教を潰そうとした。だが当時の署長に紫龍院教への捜査を打ち切るように命じられた。
これ以上捜査しても詐欺の証拠は出てこない。それよりも他の事件を捜査してほしいという身勝手な理由だった。署長はすでに神崎の手の者に買収されており、柴田や敷島が調べていた紫龍院教の証拠を処分されていた。
強引に柴田が調べようとすると署長は彼を左遷処分させ事件にかかわらないようにされていた。
それから紫龍院事件が起こった時、柴田は酷く後悔していたという。
「俺がもっと早く紫龍院教を潰していれば敷島達も死なず、彼女の様な復讐者を出すこともなかった…! もっと俺に力があれば…!!」
その後、署長は新しく変わり前署長は本庁の幹部に出世しいなくなった。柴田にあのような強硬手段を使ったのも、賄賂もあるが自分の出世の事を優先していたからなのだろう。
倉内はつくづく自分が所属する組織の暗い一面に不快感を持った。