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第91話『サバイバルゲーム・エンド・9』

松山綾善の主催する同窓会に集められた秋穂と他の参加者達。

開始時間を迎えた所で清志がパーティホールに入ってくる。


「お久しぶりですね皆さん」

「清志君!」


清志の到着に秋穂が安堵する。


「おい清志、よくノコノコ来れたもんだな」


サバイバルゲームの時から相変わらず態度が悪い小坂学人が清志に食って掛かる。


「何ですか?」

「とぼけんじゃねーよ。人畜無害が感じのくせしてひでえことしやがるな」

「だからんですか?」

「俺達は知ってるんだぞ」


小坂の口から予想外の事が話される。


「蒼空つばさをぶっ殺したのはお前なんだろ!?」

「なっ…」


パーティー会場に緊張が走った。

そしていつの間にか


――――――――――――――――――――――――――――――――――― 

―公民館配電室。


「くそ…どういうことだ?」


梅村たちは拳銃を持った紫龍院教の信者達に囲まれていた。


「大人しくしろ。静かにしていれば命までは奪わん」


リーダー格らしき男はいつでも撃てるように信者達を指揮する。


「ど、どうします? このままだと計画が…」

「ちょっと待て、今考える…」


梅村は仲間達に動かないよう指示をした。


―――――――――――――――――――――――――――――――――― 

―公民館前


「せらぎねら☆九樹。久しぶりだな」

「八坂さん…!」


紫龍院教の信者達を連れた八坂がせらぎねら☆九樹に銃を向けている。


「あなたがここにいる理由。あなたは松山さんと…紫龍院教と繋がっているん

ですか…!」

「ああ。紫龍院事件が起こる前よりな…」

「どうして…! あなたがあんな組織と…!」

「政治家と繋がっていたアンタに言われる筋合いはないが、まあいいだろう。アンタにも関わりあることだ」

「私に…?」

「アンタの義理の母親、名前を倉木明菜だったか…?」

「どうしてそのことを…」

「知っているに決まっているだろ…アンタの母親は、俺の父親を殺したんだからな」

「えっ…」


八坂は思いもよらぬ真実をつげる。


「八坂は俺のライバーとしての活動の名前。本当の名前は〈川尻光(かわじり ひかる)〉。紫龍院教・教祖、川尻栄作の実の息子だ…!」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


川尻光。その幼少期は惨めなものだった。

父・栄作と母・詩織との間に生まれ、もの静かな少年だったと近所の人は言う。


栄作と詩織は恋愛結婚で夫婦になり、流れで光が生まれた。生活はいつも金に困っていた。

時はバブルが終わり、就職氷河期の不景気な時代。栄作は安月給で会社にこき使われ、詩織はまだバブル感覚が抜けきれず散財して家系はいつも火の車だった。


夫婦の仲も冷え切っており母はいつも遅く帰ってくる父に


「大した金も稼げないくせによく働けるわよねえ。早く出世して私達を楽させてよ」


心の無い言葉を吐きながら家でテレビを見ながらダラダラしていた。光は母が口ばかりで何もしていない所しか見たことない。栄作もあまり話さない無口な性格なので一夫的に言われっぱなしだった。


「正直魅力のない人間だけど、見た目はかっこいいしいい大学を出ているから」


そんな詩織の見栄っ張りな理由で結婚した栄作を思うと不憫で仕方なかった。


転機が訪れたのは中学生の頃である。

光が家に帰るとへし折れたゴルフクラブを持った栄作と、頭から血をだして倒れている詩織がいた。


「はあ…はあ…。何もしねえくせに文句ばかり垂れやがって…! お前も会社も俺を評価しねえ…。中卒上がりの話がうまいだけのバカに贔屓しやがって! 俺はお前と違って大学も出てるし、会社だって一流企業なんだ! 家事もろくにしねえごく潰しがよお!」


限界量を迎えたバケツから水が溢れるように感情を爆発させ死体となった詩織を蹴り飛ばす。


「バカの癖に要求はいっちょ前にしやがって! これだから女って奴は嫌いなんだ! 女は頭がいいんじゃねえ! ただ姑息に生きるのが得意な能無し共なんだよ!!」


何度も蹴り飛ばし、ため込んだ怒りを発散すると光の存在に気づいた。


「…パパはちょっと出かけるから。お金はあげるから夕飯は先に食べてなさい」

「…はい」


急に優しい口調になった栄作に恐怖を覚えながらも、金を受け取った。


見たわけでないが、父は恐らく車に母の遺体を積んでどこかに処理しに行ったのだろう。

夕飯をコンビニで買って食べたが、あまり味を感じられなかった。

きっとまともな子供なら警察に電話するのだろうがそんな気にはなれなかった。詩織が栄作に殺されたのは自業自得。当然の報いだと思ったからだろう。


その日から父は会社を辞めてどこからかお金を借りて何かを始めようとしていた。

しばらくすると大金が家に転がり込んでくることが多かった。高価なものが送られることもあった。


「何か食べに行こうか?」


彼は光にはいつも優しかった。一緒にご飯に連れて行ってくれたし、欲しいものは何でも買ってくれた。やがて父が連れてきた友人は『紫龍院教』の信者であり、信者は光の事を2代目と呼んでいた。


紫龍院教の教祖となった父が企業を中心に狙っていたのは自分を評価しなかった社会へ対する恨みもあるのだろう。


カルト教団を作り、詐欺じみた宗教活動をしていた栄作の罪は許されないかもしれない。

だけど彼にとってはただ優しい父親だった。


「俺は紫龍院教を失い、ライバー八坂となって生きることにした」


ライバーの仕事は楽だった。

視聴者の殆どは娯楽目的で他人のゲームを見たい暇人だ。特に時代は配信者の存在を求めており、登録者を増やし生活も安定していった。


だがそれを邪魔するかのように蒼空つばさやせらぎねら☆九樹と言ったアイドルや才能あるライバーが現れた。


ゲームやくだらない事ばかりしていたアングラな一面があった配信業界は発展し、大企業と仕事の契約する事も珍しくなくなった。

だが八坂は焦った。中身のないアイドルが可愛いだけで評価され登録者を奪っていくこと、そして奇跡的に紫龍院教の過去が知られずに活動しているが、表社会に近い環境だといずれ自分の事が些細な原因で知られ、配信業を続けられなくなるかもしれない。


せらぎねら☆九樹がライバー達を管理する立場の間、どうにかして今の立場を守らないといけない。その矢先に松山から声をかけられた。


「せらぎねら☆九樹と蒼空つばさを消せば、あなたの立場は守られる」


八坂は自分を守るために蒼空つばさを殺し、今はせらぎねら☆九樹を殺そうとしていた。




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