清志は警察と紫龍院教の包囲網をかいくぐりながら逃げていた。
逃走資金を下ろそうとコンビニに向かったが、口座が閉鎖されており所持金は万が一におろしていた10万円のみであった。
スマホを確認するとせらぎねら☆九樹からのメッセージが来ていた。
『清志君へ。
私と阿久津さん、そして優子さんはどうにか逃げ切った。優子さんは警察に事情聴取を受けて釈放されて今は秋穂さんといるようだ。
私は必ず君を迎えに行く。1週間ほどしたらまた連絡をするのでそれまでどうにか警察と紫龍院教から逃げてくれ』
そこでメッセージは終わっていた。
「1週間…。それまでこの中を逃げていくのか…」
持ち物は現金とスマホのみ。恐らくサバイバルゲームに参加した人たちは紫龍院教に目を付けられている可能性がある。
だが状況を説明すれば協力してもらう可能性も捨てきれなかった。
「松山綾善の言葉を鵜呑みにしていない参加者もいるはずだ。あの人の所にまずは行くか…」
目的を決め、清志はある場所に向かった。
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―あずさの家。
清志はあずさの家に来て、チャイムを鳴らす。
「キヨシ? 久しぶりじゃない」
「すみません。少し話をしたいのですが大丈夫ですか?」
「何か事情があるみたいね」
久しぶりの再会であずさは清志の様子からただ事ではないことを察した。
家の中に招きいれられると、あずさと同居している葵が飲み物とお菓子を持ってテーブルに置いてくれた。
清志はこれまであった事を詳しく話した。
かつてサバイバルゲームでチームを組んでいた蒼空つばさが、八坂こと川尻光に殺害されたこと。松山綾善がせらぎねら☆九樹を自身の野望の為に狙っている事、その為に自身も巻き込まれている事。今は容疑者として警察に、紫龍院教にせらぎねら☆九樹を脅す人質として利用するべく終われている事を伝えた。
「…つばささんが死んだことはニュースで知っていたけれど、まさか同業者のライバーに殺されていたなんてね」
「しかも清志君が容疑者なんて…」
「今、警察と紫龍院教を動かしているトップの川中は山内政権を壊すことが目的です。僕を容疑者にするなんて簡単なんでしょう」
「確かに。さっきニュースで入ってたけど、山内に対して会議が行われているらしいわ。これまでの内閣での活動で不正がある疑いがあり、野党の政治家達が辞任を求めてるって」
スマホを取り出し、ニュース動画を再生させる。
国会内で怒号が響く中、淡々と質問に答える山内首相。平行線を保っており、中々決着がつかず終わっているようだった。
「その川中が山内の失脚を狙うならこの会議は恐らく時間稼ぎのフェイクよね。野党も自分の意志に同調している連中。こうして山内を会議に釘付けて裏で紫龍院教と警察を動かしていることになるわ」
「…せらぎねら☆九樹さんは何をしているのでしょうか?」
「九樹さんは動けるようになったら連絡すると言ってました」
彼が1週間後に連絡する事をあずさに話す。
「一週間…。だけどその前に警察か紫龍院教がここにあなたがいる事を突き止めるかも知れないわね」
「その時はすぐにここから出て行くので、しばらくの間だけ匿ってもらう事は出来ないでしょうか?」
「…わかったわ」
「あずささん、大丈夫なんですか?」
葵は不安そうになりながら呟く。
「松山綾善はいずれ私達にも疑いの目を向けるでしょう。だけど私達は彼の野望に興味はないし、今の生活があるのはキヨシのおかげでもあるしね。余裕があるうちはウチで生活しても構わないおわ」
「ありがとうございます」
「必要な物があれば私が買いに行くわ。お金は後で払ってくれればいいわよ」
こうして清志はしばらくの間あずさたちの家で過ごすことになった。開いてる部屋を貸してもらい、清志は今後どうするか考えていた。
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「あずささん。本当に良いんですか?」
清志を開いてる部屋に休ませている間、葵はあずさに話をしていた。
「良いって?」
「清志さんを匿っていれば、いずれ私達に警察や紫龍院教が近づいて来て巻き込まれるかもしれないんですよ? 正直私はあまり清志君に協力するのは…」
「葵さん。確かにそう考えるのが当然かもしれない。だけど私達がキヨシに助けられたのは事実でしょ?」
「それは…そうですが」
「見捨てる事は簡単よ。だけどそれで私達が彼から受けた恩を仇で返すことになるわ。私はそんなことはしたくない」
「あずささん…」
「キヨシと出会う前に私は人間関係で裏切られたりしたこともあったわ。私が彼を裏切るという事は私を裏切った人間と同じことをすることになるのよ。自分勝手なことだけど、私はキヨシを裏切りたくはないのよ」
「…いえ、私は正直自分の事で精一杯でした。あずささんに言われて自分の視野の狭さに気づきました。今の生活を壊したくなくて、清志君を受け入れるのはどうかと思いましたが、私も彼に協力します」
葵も納得し、しばらく清志を匿う事にした。