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第95話『清志逃亡生活・3』

あずさの家に匿ってもらい3日、警察の捜査の手は緩まず、信者達も通行人に聞いたりSNSで清志を探している状況だった。


食事はあずさか葵に作ってもらったり、自分で作ったりしている。


潜伏している間に清志がこの周辺にはいないと考え、信者達がいなくなるのを待っているが、このままではあずさたちに捜査の手が行くのは時間の問題だった。


「警察の捜査の手と信者達の捜索の手から逃れるにはこの町をでるしかない…」


清志は近いうちにあずさの元から離れる事を考えていた。


―――――――――――――――――――――――――――― 


―コンビニ


「いらっしゃいませー」


あずさはバイトでシフト時間終了まで残り30分。レジ対応をしていた時だった。


「精が出ますねあずささん」

「あんたは…」


買い物かごに多くの商品を入れた男がレジに現れる。清潔感のあるスーツを着た30代程の男、薄気味悪さを感じる悪い雰囲気を感じる。


「失礼。私は松山綾善と言います」

「…レジ袋はご利用しますか?」

「ああお願いするよ。有料でもあると便利だからね」


レジ下から袋を取り出し、バーコードで商品を読み取って袋に入れていく。


「それにしてもコンビニってのは便利だよね。欲しい時欲しいものが手に入る。酒もたばこも晩御飯も。もし家の隣にあったら毎日来たいものだね」

「お弁当は温めますか?」

「お願いするよ。ご飯は温かいのが好きでね」


あずさは弁当をレンジに入れて1分間温める。


「だかそれは君らの様なけなげに働く労働者がいてこそだ。君らが1000円ギリギリの時給で身を粉にして働いてくれるからこそ、客人は便利にコンビニを使える」

「割りばしとお手拭きはご利用しますか?」

「1つずつ入れてくれ」

「かしこまりました」

「つまり、この社会は生活を支える労働者、彼らのおかげで生活できる支配者。2つの階級があるからこそ国と言うのはなり合うのだ」

「…すみません。これ以上買い物目的で滞在するのであれば営業妨害として警備会社に連絡することになります」

「…担当直入に言おう。伊藤清志の居場所を知らないか?」

「…!」


松山綾善の言葉に動揺するが、あずさは冷静を装い答える。


「知らないわ…。以前あったことがあるけどそれっきり会ってないもの」

「そうですか。もし彼を目撃したら私に教えてくれませんか? こちらは私の連絡先になっているので…」


松山綾善は連絡先を書いた紙を渡した。


「今、私の見方をすればそうれ相応の社会地位をお約束しますよ。汗水流して10万ぽっちの端金を得るより、一度で数百万は稼げる方法だって可能です」

「はあ…」

「あなたの様な人間でも支配階級へ登れるという事です」

「…お会計は10786円になります」


あずさが会計を提示すると松山はクレジットで支払った。


「それではおきを付けて。最近物騒なようですから」

「ありがとうございました。またお越しくださいませ」


松山の対応を終え、シフト終了時間が来ると夜勤と交代した。


(はあ…。何とかごまかせたように見えるけど、あの蛇みたいな目。こっちの嘘見抜いていそうよね…)


着替えながらあずさは客人を装い清志の居場所を聞こうとこちらを射抜くような瞳は正直あまりいいモノじゃなかった。


(清志に説明して早く逃げるように言った方が良いわね。あいつが何か感づいているなら警察もすでに感づいていそうだし…)


目前に危機が迫っていることを清志に伝えるためあずさは帰宅した。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


―あずさと葵の家


「捜査は依然継続中か…」


あずさから買ってきてもらった新聞で清志は情報を得ていた。スマホを利用すると位置情報を逆探知される危険もあったので電源を切っていた。


新聞は蒼空つばさの事件について連日記事を書いていた。容疑者として清志の名前と経歴が掲載されている。


仕事の元同僚として取材を受けた男は

『あいつは普段は真面目だけどどこか年上に対して見下している所があったし、借金もしていたのでいずれああするんではないかと思っていました。仕事も勝手にやめたし、あんな自分勝手な犯罪者がうろついているんなんて不安なので早く捕まって欲しいです』


だれが取材を受けたのかなんとなく想像はつくが、伊藤清志の世間のイメージは【人気配信者を殺害した自分勝手な男】と言う、世の中の人間が嫌悪しやすい人物になっている事は間違いないだろう。


仮に捕まってどれだけ否定しても警察はこれらの証言を使って清志を追い詰めるだろう。


どうすればいいか考えていた時、葵がノックを叩いて清志のいる部屋を開けた。


「清志さん。あずささんから話があるそうです」

「…はい」


話の内容はある程度察せれるが、とりあえずこれからの事も考えなければならないので、あずさのいる居間に向かった。


居間には封筒をテーブルに置いて座っているあずさがいた。


「清志、悪いけど明日には出て行ってくれないか?」

「明日ですか」

「さっきコンビニに松山綾善が来た。お前の事を知っているかどうか聞かれたよ」

「…」

「心配しないで。あんたのことはしゃべんなかったから」


あずさはこれ以上ここにいると、松山綾善にばれることになること。紫龍院教や警察にこの家を家探しされたくないこと、葵との生活を守りたいという事を話した。

その上でこのまま出て行ってもらうのも不憫なので、逃走資金に30万円を支援するので早めに出て行って欲しいとのことだった。


「わかりました。僕も早いうちに出て行くつもりだったので大丈夫です。今までありがとうございました」

「…金は返さなくていいから」


清志はあずさから金を貰うと、夜の人目が少ない場所を歩き去っていった。



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