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第96話『清志逃亡生活・4』

どこまでも続く暗い道を清志は走っていた。

その先はどこになるのかわからないのに。


「はあ…はあ…!!」


断崖絶壁の崖か、あるいは出口となるトンネルなのか。先の見えない暗闇を迫りくる不気味な存在を振りほどくように走るしかなかった。


「誰か…」


あるはずもない救いの手に助けを求めてしまう。


一筋の光が差し込む場所に手を伸ばそうとした瞬間。


「伊藤清志確保おおー!!」


背後から迫る警察官達に捕まり、暗闇の世界に引きずりこまれる。


「ウワアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


――――――――――――――――――――――――――――――― 


戸を叩く音に気づき、汗まみれの重い体を起こす。


「お客様~。もう少しで24時間経過しますので一度清算をお願いしまーす」

「ああ…はい」


悪夢から覚めて、毛布を片付けると財布を出して精算機に向かった。


あずさの家を出た後、人の目を気にしながら彼は24時間利用のネットカフェに訪れていた。店の名は『ボーダーフリー』。全国展開しているネットカフェチェーン店だ。


殆どのネットカフェが未払い防止のために前払い制度かつ会員制度にして徹底している中、非会員でも利用できるかつ後払い制のシステムで差別化し売り上げを出しているのが特徴だ。


そのおかげで清志は自身の正体を明かさず休憩することができたので感謝している。生産機に表示された値段は4500円。うち300円は非会員のためかかる費用だが、それでもビジネスホテルに泊まれば1万超えるか超えないかの額になるので、とても良心的な値段である。


本来喫茶店であるが、宿泊施設の様に長時間休憩できる事、飲食ができる事、インターネットや漫画本、遊戯場でビリヤード等の娯楽をして時間を潰せることから需要が高まっている。


清志は金を払った後、部屋を再度利用したいために予約をとって入室した。


使う部屋はテレビが見えるデスクトップパソコンがある部屋。ヘッドフォンを付けてテレビのニュースを見る。


『蒼空つばさ殺害の容疑者である伊藤清志の身柄を確保するために、捜査員100人を導入する事を発表しました。依然として伊藤清志の行方は分からりませんが、関係者を聞き込み…』


警察は伊藤清志捜索に力を入れるようだった。これ以上増やされると逃亡生活を続けるのも困難になるだろう。更に紫龍院教の手もある。同じ場所にとどまるのは得策ではない。


「情報を集めたらこの店を出るか…」


10時まで放送されたニュース速報を見て、清志は料金を払い店を出た。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――― 


あずさの家を出た後に購入したマスクとニット帽をかぶり町中を歩く、この中に紫龍院教の信者や警察が紛れて捜査していると考えると怖くなる。


(…誰かに追われているというだけで、全員が怪しく見えてくる…)


警戒をするに越したことはないが、全員が疑わしく見えてきてしまう。

世間話をしている主婦の集まり、ゲーセン前にたむろうヤンキー、普段なんとも思わない人々ですら紫龍院教の刺客ではないかと思ってしまう。


「すみません、お兄さんちょっといいですか?」

「はい…?」

「私大刻署の者ですが、申し訳ありませんがお時間貰えませんか?」


巡回をしていた警察が職務質問をしてきた。


「すいません、今人と待ち合わせして急いでいるので…」


清志はそれを拒否した。職務質問の応対はあくまでも任意である。必要なければこちらからも拒否できるのは調べていた。


「いえ、本当にお時間をお取りしませんので少しだけお願いします」


だが警察も引かず、清志を引き留める。


「職質は任意のはずです」

「ですが相当の理由があればこちらも聞かざるを得ないんです。少しでも不安要素を取り除くことが市民の安全につながるので…」


普段面倒ごとを嫌う公僕が、ここまでしつこく聞いてくる。その労力をもっと他の事件解決に咲いていればどれだけ多くの人を救えるのだろうか。


「急いでるんで」

「待ってください!」


警察は去ろうとした清志の腕を掴んで防ごうとする。


「さっきインターネットカフェから不審者の情報を貰ったんですよ。『指名手配所で見た伊藤清志とよく似た男がさっき出て行った』てね。やましい心が無ければこちらの質問に答えてくれてもいいんじゃないですか?」


最も来い事を口にされ清志は押し黙るが、清志は警察官に捕まれた腕を振りほどく。


「違うって言ってもしつこく聞いてくるんでしょ。こちらが違うって言っても自分達が正しいと盲信するのがあなたたちですから」


清志はポケットに手を突っ込む。


「こちらに危害を加えれば公務執行妨害として同行させてもらいますよ!」

「ああ、武器何て持ってませんよ。武器は」


ポケットから出したのはホームセンターに売っている小型のシャンプーのボトル。手で押せば簡単に出てくるが、それを警察官の顔に向けてはなった。


「ぐあああっ!? 目があ!?」


シャンプーが目に入って染みる警察官は膝から崩れ落ちる。


「すいませんね。今あなた達に捕まるわけにもいかないので」


清志はそう言って騒動の中を走り去った。


離れた所でバスに乗り、大谷町から脱出した。


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