大谷町を脱出した後、隣町の海老油町で、インターネットカフェで清志は生活をしていた。
捕まらないために、髪を坊主頭にし、服装も安価の洋服店で購入した服を着用して過ごしていた。会員証が無くても利用できるインターネットカフェを選んで寝泊まりしていた。
中古ショップでノートPCと充電ケーブルを買い、個室で警察の動向をうかがっていた。
先の警察官の職質の時はたまたま1人だったのですぐに振りほどけたが、次はそうはいかないだろう。
「すみませーん」
そこに店員が訪れ、注文したかけそばを置いていく。
「ありがとうございます」
「…」
「どうかしました?」
かけそばを持ってきた店員がじっと清志の顔を見る。何かに気づいたような表情を浮かべる。
「いえ、失礼しました。ごゆっくりどうぞ」
そう言って店員は去っていったが、清志は思った。
(まさか…。僕の正体が分かったのか…!?)
店員が清志の正体に気づいたのかもしれない。そう思いかけそばを一気に啜ると荷物を纏めて自動精算機に向かった。
その後だが、店員は店長に相談し一応警察にも連絡する事を考え確認しにいったが、既に清志は会計を済ませた後だった。店内にある監視カメラの映像から伊藤清志本人とわかりすぐに新たな手配書をばらまいた。
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―せらぎねら☆九樹の隠れ家
清志が逃亡している間、せらぎねら☆九樹は川中について調べていた。山内の手に下りながらなぜ今になって彼に反抗したのか。その理由を調べていた。
川中幸雄、60歳独身。
大学卒業義は企業の重役を務めた後政界に入り、市議員を務めた後国会議員となった。
特に建設業に対して熱くサポートする政策を作り、インフラ整備やスポーツやフェすのイベント会場の新設、海外への派遣や海外から来た労働者の育成等多岐にわたり建設業界へ貢献したとされている。
(もっとも善意ばかりではないだろう。建設業側からキックバックはもらっているだろうし、奴は自分が管理する会社側の犯罪や事故をもみ消している。神崎から受けていた恩恵を利用してな…。自分の力を集めるためにもあえて建設業界を選んだ)
建設業は人間の生活に必要な衣食住のうち住居を作るのに必要な業界だ。彼らの活躍はメディアの陰に隠れる事が多く評価されることが少ない。
だが人々の生活を支える必要な仕事をしている業種でもある。金回りも億単位の額がかかることだってある。その面を利用して川中は資金を増やし、神崎に金を上納しながら内閣総理大臣になるため力を蓄えていた。
しかし、彼のライバルとして現在の総理大臣になった山内は彼を上回る財力と情報力、そして人脈を使い瞬く間に国会、そして社会の各企業の内部を掌握した。
しかも山内は自身だけでなく、企業にも恩恵を与え、公平に豊かになるようにしていた。川中に従っていた人間も次第に山内派に鞍替えし、選挙の時にはすでに川中に賛成する者はほとんどいなかった。
川中はその後山内の傘下に入るが、その扱いは散々なものであったらしい。
相談役と言う役職を与えられたものの、山内政権では地味な役回りが多くほとんどの仕事は山内が育てた次世代の議員【山内チルドレン】によって行われていた。
屈辱だろう。
何十年も積み上げて、あと一歩でトップまでいった男が格上に全てを奪われ、年下の議員に使われる立場になるなど。だがそれでも川中に対して同情は出来ない。
「理由はどうあれ、奴は自分の野望の為に紫龍院教を使い、多くの人間を犠牲にした。許すわけにはいかない」
「…川中幸雄、松山綾善。あの2人を放置していたらいずれもっと多くの犠牲者がでますわ」
「その前にケリを付けねえとな…」
樒と梅村も寝る間を惜しんで情報を集めていた。
「後は清志君が逃げ切るのを祈るのみですか…」
せらぎねら☆九樹は清志の行方を心配した。
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ネットカフェから出てしばらく歩いた清志は公園で休んでいた。
自販機で購入した飲み物を一気に飲み干し休んでいると、彼に声をかける男が現れた。
「清志君? 清志君だよね?」
「…!」
「僕だよ、太田だよ!」
彼はサバイバルゲームでチームを組んだ太田真だった。
「久しぶり! ていうか坊主頭にしたなんて斬新だね。イメチェン?」
「すいません、ちょっと今急いでいるので?」
「…何か訳あり?」
「まあ…」
「よかったらうちに来る? 話だけは聞いてあげるからさ」
「…」
一瞬疑ったが、太田が嘘をついているようにも思えないので清志はついて行くことにした。
太田は中井洋子と共に住んでおり、今は焼き肉店をしているようだった。太田が店の宣伝をし、洋子が従業員の育成や切り盛りをしている。
「最初は大変だったけど、今はスタッフのみんなも仕事を覚えて店を任せられるようになったし、誠君がXや動画で店の宣伝をしてくれるから顧客も増えてきてるのよね」
「僕は自分の得意な事で洋子さんを助けられればと思っているだけだよ。手伝いもあまり何でもできるわけじゃないし…」
「いいのよ、誠君は配信が本業何だから」
「はは、最近視聴者も増えてきたから頑張らないとね」
幸せそうな2人を見て心が苦しくなった。面倒ごとを持ってきて邪魔になるのではないのかと考えてしまう。
清志はこれまでの事、そして今自分が追われていることを話した。
「清志君、僕はニュースを見ても信じられなかったよ。君が殺人を犯すわけがないし、警察の誤認捜査だって思ってた」
「私もよ。清志君、せらぎねら☆九樹は連絡をよこすって言ってたんでしょ? ならしばらくここにいたらいいんじゃない? あなたのおかげでサバイバルゲームも勝ち残れたし、その恩を返すのにちょうどいいわ」
「しかし…お2人に迷惑をかけるわけには…」
「勿論ただでとは言わないわ。裏方でいいから店の事手伝ってくれればいいわよ」
「清志君、困った時はお互い様だよ。僕も出来るたけ君に協力するからさ。大船に乗った気でいてよ」
「ありがとうございます…!」
太田と洋子の優しさによって清志は隠れ家となる場所が出来た。
久しぶりに人の温かさに触れて清志は涙を流した。