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第100話『清志逃亡生活・8』

中井洋子から清志に連絡が来た。


「紫龍院教らしき奴らがうちの店を調べに来た」


彼らはサバイバルゲーム参加者を調べているらしく、中井洋子と太田真の元に伊藤清志がいないか調べに来た。


「最近この店に新しい従業員が来たらしいじゃないか。そいつに会わせろ」

「斎藤さんがどうしたって言うのさ?」

「伊藤清志がどうか確認させろと言っているんだ!」


かなり強引に店に入って中井や他の店員にまで突っかかってくるらしい。だから紫龍院教の人間が諦めるまで店に来ない方が良いという事になった。

しばらくは今いる澄玲の家で隠れていた方が良いと言われ、清志は籠城していた。


「まあ、着替えとか必要な物はアタシが買って置くから安心して」

「すいません、ありがとうございます」


清志は澄玲が仕事に行くのを見届けると、パソコンを開いて情報集めを始めた。


「九樹さんからの連絡はまだ来ないのか…」


メールフォルダにせらぎねら☆九樹からの連絡はない。だが衝撃的なニュースが流れていた。


「こ、これは…!」


【連続殺人事件再び! 生き残りのライバー・大江戸華美に事情聴取】


それは蒼空つばさがいた事務所。所属していたメンバーが大江戸華美を除いて殺害されたというモノだった。


――――――――――――――――――――――――――――――― 


蒼空つばさがせらぎねら☆九樹の失踪後、大江戸華美を含めた数名で事務所を建てて活動していた。仕事の依頼を増えて順調に進んでいた所だった。


その矢先に蒼空つばさが殺害された。

警察は伊藤清志を容疑者にして捜査をしているが、せらぎねら☆九樹との関りで犯人は川尻光であることは知っている。しかし警察は紫龍院教、そして山内を敵対視している議員のコントロール化にあるため真実を話しても取り合ってもらえないだろう。


大江戸華美は蒼空つばさの残した事務所を守るため、残ったメンバーと協力して仕事をしていた。


そのねぎらいでパーティーをしていた時だった。突然停電になり目出し棒を被った数人の男が押し入ってきた。

彼らはナイフを振り回し襲撃してきた。大江戸華美は奇跡的に逃げる事が出来たが、他のメンバーは皆殺しにされた。


警察が捜査に入ったころには全てのパソコンが破壊されており、データは修復不可能なまでだった。ほとんどはナイフによる致命傷であり、肺を刺されて息が出来ず苦しみながら死んだ者もいる。


生き残った大江戸は紫龍院教の仕業だとすぐに気づいたが、運が悪く先に警察に保護されてしまった。


彼女の身は、今警察の取調室にいる。


――――――――――――――――――――――――――――― 


―取調室


「だから紫龍院教の奴らが襲ったって何度も言ってるでしょ!」


感情のままに叫ぶ大江戸、だが目の前の刑事は仏頂面で相手をしていた。


「…我々の捜査では、伊藤清志によるものだと判断しました。被害者のあなたに思い出させるのも気の毒だとは思いますが、正直に答えて欲しいのです」

「それもさっきから言ってるでしょ! 目出し帽で顔を隠していたからわからなかったって!」

「はあ…」


用意された録音機を何度もリセットと再生を繰り返し、刑事は大江戸に迫る


「私達が欲しいのは伊藤清志が主犯だという証言なんです。『伊藤清志が主犯で私の仲間を皆殺しにした』。その証言があれば伊藤清志の捜査が更に本格的になる。目出し帽が被っていたとしても、伊藤清志かもしれないだけでもいい」

「私に嘘をつけって言うんですか?」

「真実を話してくれればいい。伊藤清志が主犯だという事を」


ここでいう真実と言うのは警察が捜索している『伊藤清志が犯人』と言う事なのだろう。それ以外の言葉は全て『嘘』として切り捨てる。あくまで自分達のやってることが間違いだとは認めないのだろう。

彼を犯人だと認める証言を吐くまで続ける気なのだ。すでに5時間も取り調べは続いている。


「あなたが伊藤清志と面識があるのは知っている。目出し帽で顔が隠れていても雰囲気でわかるはずだ」

「何度も言うけど、彼は関わっていない! 紫龍院教だって何度いったらわかるのよ! アイツらから幾ら貰ったのよ!?」

「…口を慎んでもらおうか」


警察は大江戸を睨み、机をたたく。


「こちらもお前が言うまで何度でも言う。『伊藤清志を見ました』と言うまでな。お前の自白はどんな物的証拠よりも有力になる。こちらの捜査に協力的になるまで、この取り調べは終わらせられねんだよ! こっちだってサービス残業はごめんだ。おめーの『伊藤清志を見ました』の一言が貰えればいいだよ! それで蒼空つばさの仇も取れるだろうよ!!」

「…! ロクに捜査もしてないくせに…! つばささんの名前を使って私に嘘の証言をさせる気!? それって違法捜査なんじゃないの!?」

「ここは密室だ。違法があったかどうか何てどうせわかりゃしねえ。警察は間違いはしない。ここでは俺の…俺達の言葉が全て正義なんだよ。お前は黙って証言をしてくれればいい。そうすればすぐに釈放してやる」


大江戸から証言を得るまでどんな手を使うハラでいる刑事。どうすればいいのか大江戸が考えていた時、取り調べ室に1人の捜査官が入る。


「取り調べは終わりだ。彼女を釈放しろ」

「はあ? 何でですか!?」

「我々はこの件から手を引く。今、知事から電話が来た」

「知事…!?」


2人は話をすると、大江戸を取り調べ室から出して釈放した。


「…この度はご迷惑をかけて申し訳ございませんでした。捜査の方は改めてやり直しますので今回はこれで…」


大江戸に頭を下げ2人は出口まで案内した。


「一体何なのよもお…!」


わけのわからないまま大江戸華美は帰る事になった。



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