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第101話『清志逃亡生活・9』

中井洋子らが焼き肉屋に来る紫龍院教の信者が来店するようになって、3日目。

せらぎねら☆九樹からの連絡は未だに来ない状態で、清志は澄玲の家に居候している状態だった。


「うまっ! 清志料理上手いな!」

「1人暮らしが長かったもので…」


澄玲との仲は良好であり、清志の家事能力を評価されてからは澄玲の家の家事を彼がやっている。澄玲は執筆時間が増えて助かったと言い、清志の居候状態をあまり気にしていなかった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――― 


「あーもう。締め切り前だってのにデータが消えちゃうなんて運がないわー」


キーボードを叩き文章を書いていく澄玲。途中まで書いていたデータは突然始まったパソコンのアップデートによって削除されてしまい、急いで作り直していた。


「澄玲さん。家の事はやっておくんで安心して書いてください」

「助かる!」


澄玲が執筆している間、清志は家事をしていた。

部屋の掃除、食事、風呂掃除等を手慣れた感じで進めていった。


「後は洗濯だけか…」


入れ物かごに溜まっている服を洗濯機に入れて、洗濯ネットに入れる必要な衣類は分けていく。


「澄玲さん雑だからなあ」


衣類を分けている中で、澄玲のつけている下着類が目に入る。家にいる時はラフな格好が多く、タンクトップにホットパンツ、上下ジャージと言う事がほとんどだ。

下着は拘りが多く、可愛いデザインをしたものを好んでいる。

澄玲の胸のサイズは平均よりも大きい。彼女いわく100センチもあり、肩がこるそうなのだ。ブラジャーをつけてないと形が崩れるので、苦しいけどせめて可愛いのを付けたいそうだった。


(このブラが澄玲さんの胸を支えているのか…)


更に、布地の少ないパンツを見て洗濯ネットに入れる。澄玲の下着姿を一瞬想像し胸の高まるのがわかる。


「スケベ」

「わっ!?」


後ろからにやけた表情をした澄玲が清志に声をかける。


「お前も男なんだな~。私の下着見て興奮してるのか~?」

「い、いえ。そう言うわけでは…」

「あー? 逆に悲しなっちゃうぞ? アタシに魅力ないのかなーってさ。アンタはもっと自分に正直に生きるべきだよ」

「自分に正直にですか?」

「生きてりゃさ、金が欲しい、結婚した、えらくなりたいって夢や欲望を誰もが持つわけじゃん。アンタが親の残した借金返すために必死だったのは聞いててわかってるよ。でもそれも解放されたんだから自分のやりたいことをすればいいじゃん」

「そう言われても…」

「まあ…例えばさ…」


澄玲は清志に近づき体を擦り付ける。


「今アタシと風呂に入るとか?」

「な、なにを馬鹿なことを?」

「アタシは本気だよ?」

「…すいません。失礼します」


清志は頬を赤らめながら洗濯機のボタンを押してその場から去っていった。


「お堅いねえ。まあ、そう言う所も可愛いけどさ」


澄玲は衣服を脱ぐと浴室に入った。


「さーてと、仕事終わりに浴びるかー!」


執筆の仕事から解放され、シャワーを浴びて疲れを癒していた。


――――――――――――――――――――――――――――――――― 


落ち着きを取り戻した清志はパソコンを開いて確認する。


「これは…!」


その中にせらぎねら☆九樹からのメールが入っていた。

クリックして開くとメッセージが表示される。


『清志君へ、遅くなって申し訳なかった。

 紫龍院教の動きは止めれないが、警察はある程度動きを止められるよう私のツテを使い清志君の捜査を停止するように呼び掛けていた。

 今の政権体勢に反対する政治家達に動かされていた警察は皆睨みを聞かされて今は君を追ってはいない。だが紫龍院教は未だに活動している。

 全ての決着をつけるために蒼空町へ行こうと思っている。先ずは指定された待ち合わせ場所に向かってくれ。メールの中に地図を入れているので、それを頼りに来て欲しい』


メールには地図の画像データが挿入されていた。


「蒼空町…」


清志を含め、多くの人々の人生に関わり運命を変えてきたまるで生き物の様な町だ。

今は町が解体されているが、もし何者かに手によって企みが行われているとしたらあの町はまた多くの人間の運命を喰らうだろう。

更に紫龍院教まで絡んでいるというのなら、彼らによって運命を狂わされたせらぎねら☆九樹はきっと止めるだろう。


「行くの清志?」


そこにバスタオルを巻いた澄玲が現れる。


「…澄玲さん。服を着てください」

「ビール飲んだら」


彼女はそう言って冷蔵庫からビールを取り出して一気に飲んだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――  


―紫龍院教・集会所


外見は事務所の様な施設だが、中には教団の信者達が


「伊藤清志とせらぎねら☆九樹はまだ捕まえてないのか?」


イラ立ちを隠せない現トップの川尻光は部下の信者に質問する。


「すみません。警察が手を引いて捜査範囲も狭くなり、依然として…」

「口答えするな!」


川尻光は部下を殴り飛ばし、棒状の凶器で折檻する。


「きょ、教祖様…」

「奴らは私の正体を知っている。このままほおっておけば私はライバーとしての地位を失う。私がいなくなれば犬っころ同然だったお前たちも路頭に迷い、紫龍院教の再興も不可能になるんだぞ! わかっているのか!!」

「も、勿論です!」

「手段はどうだっていい。犯罪をしても川中が揉み消すんだからな。半殺しにしてもいいから捕まえて俺の前に差し出すんだ!」

「は、はい!」


八坂として活動して頃の面影は薄れていき、次第に傲慢な態度が多くなってきた光に信者達は不安を覚えてきた。



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