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第102話『清志逃亡生活・10』

清志が逃亡生活をしている中、せらぎねら☆九樹は警察が清志の捜索をするのを止めさせるようにするため、山内を通じて警察署に根回ししていた。


―竹島警察署


「私がここに来た事。それは山内先生からの最終通告と思ってください」

「は…はあ…」


山内の政権で活躍する弟子の1人が竹島署の署長と話をしていた。


「川中幸雄に幾ら賄賂を貰ったかはここでは問いません。しかし山内先生に逆らうというのなら、あなた築いた地位は失う事になるでしょう。あのお方はあなたの様な犬は簡単に処分できる立場におられる」

「うう…」

「ですが、あの方は寛大な心をお持ちでおられる。今から山内先生の傘下に入るのであれば、これ以上我々も追求しません。あなたも失うのは怖いでしょう。ご家族、財産、それにキャバクラの浮気相手の女。ユリコちゃんでしたっけ?」

「つ、妻には内緒に…!」

「なら山内先生、そして我々山内派の為にこれからお仕事してください。川中にまた少しでも近づこうとするなら…。あなたはどこかの警察官…いえ、仕事出来なくなるかもしれませんね」

「…肝に銘じておきます」

「では、私はこれで失礼します」


署長は彼が部屋を出るまで頭を下げていた。


この警察署は大江戸華美を取り調べていた警察署であり、川中から金を貰って伊藤清志の捜査をしていた。


「…先生。こちらの地区は完了しました」

『ご苦労だった。川中の奴め、ワシが出張している間に造反など計画するとはな』

「ですが早めに手を打ったことで鎮圧も出来ています」

『ああ。だが川中がこのまま終わるとは思えん。気を抜くな』

「はい」


山内と連絡し現状を伝えた。


――――――――――――――――――――――――― 


清志はせらぎねら☆九樹の指定した場所に行くべく澄玲に事情を伝え出て行くところだった。だが澄玲は清志が単独で出歩くのは危険だと言い、レンタカーを借りて移動することになった。


清志は澄玲を巻き込みたくないと思っていたが、


「こんなこと滅多に体験できることじゃないし、清志の事が心配だからついて行きたい」


澄玲に言いくるめられて清志はせらぎねら☆九樹がしていたビジネスホテルに向かった。


「それにしても清志、せらぎねら☆九樹は何を考えてんの?」

「彼の全てがわかるわけではないですが、紫龍院教との決着ではないでしょうか」

「紫龍院教? あー確か教祖だった男が殺害されたってやつだっけ? なんかカルト教団の詐欺事件とかで有名だったよね」

「ええ。詳しくは言えませんが彼と紫龍院教には簡単には説明できない因縁があるんです」

「ふーん。興味がそそるねえ」

「興味ですか?」

「ああ。小説のネタに困ってたんだよ。ネタに困った時は映画や小説見たり、非日常の体験がネタになるからさ」

「遊びじゃないんですよ」

「大丈夫大丈夫。梅村さんに話せば何とかなるでしょ」

「はあ…」


ビジネスホテルに着くと、先に梅村と樒、そしてせらぎねら☆九樹が待っていた。


「よくご無事でした清志君」

「中井さんや澄玲さん、協力してくれた方々のおかげで逃げ切ることが出来ました」

「それはよかったです。あまりここに長居すると紫龍院教の信者に見つかるかもしれないのでこちらに…」


せらぎねら☆九樹が用意したワゴン車に清志と澄玲は乗り換えて蒼空町に向かう事になった。


「で、なんでお前はついて来てんだよ?」

「いいじゃんか梅村さん。こんな面白そうなこと、滅多に体験できないんだからさ!」

「馬鹿ヤロー! 遊びじゃねえんだぞ!!」


梅村と澄玲が言い争う中、清志はこれまで調べた事を清志に伝えていた。


「川中幸雄は紫龍院教の松山綾善と新教祖である八坂…いえ川尻光を傘下に加え山内さんから内閣総理大臣の地位を奪うために、私を手中にいれようとしている。なぜそこまでして内閣総理大臣の地位が欲しいのか。最初はただの野心や出世欲だと思っていました」

「何かもっと重大な理由があったんですか?」

「ええ。川中は単に内閣総理大臣を目指していたわけじゃないのよ。あいつは神崎を含め、日本国にいる上流階級の人間といくつも繋がりを作っていたわ。最終的に自分が内閣総理大臣になった時は彼らが優位となる法案を通すことを約束にして言うたらしいわ」

「民主主義に反していますね」

「…民主主義以前に今の日本は資本主義ですからね。金と権力を持った2パーセントにも満たない富裕層の人間達が支配しているのが実態です。ですが、彼らも自分達が富を独占しすぎれば敵を作って反感を買うことぐらいわかる。だから恵まれない人達に支援もするし、目立たないように一般市民に紛れ込むことだってある。良い方を変えれば、金持ちが最も住みにくいと言えるかもしれません」

「…だから蒼空町を作る計画を」

「ああ。蒼空町は金持ちの人間が一般人の様に大手を振って歩けるニュータウンとして計画されていた。以前ほどではないが治安はまだ良いとは言い難い現在も少し裕福な家庭ですらゴロツキが襲撃するような状態です。だから富裕層が安心して暮らせる町が必要だった。蒼空町が成功した後は各地に同様の町を作る予定だったそうですよ。そうすれば建設業界も儲かりますからね」

「僕の運命を変えた町にそんな裏側があったんですね…」

「川中は特に建設関連の重役たちとつながりを持っていたようですからね。…そろそろつきそうです」


2時間ほど走らせたワゴン車はかつてサバイバルゲームをしていた会場、蒼空町へと到着した。



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