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第103話『蒼空町』

ワゴン車の中で清志は去年の事を思い出していた。

父親の借金が原因で金融会社に呼び出され、突如として請求された3000万円の返済。


だがコンビニ店員でしかなかった自分には到底払えない額だった。

しかし、せらぎねら☆九樹の主催する『100万円サバイバル』に参加することで返済をチャラにし、大金を得て人生を逆転するチャンスを手にすることができた。


ゲームの中で様々な事情により参加せざるを得なくなった参加者達と出会った。


中井洋子や太田真の様に夢を叶えるため。

東雲秋穂と友子は互いのため。

あずさは過去の清算をして未来を歩むため。


目的は違えど、清志と彼らには共通点があった。

それは過去を受け入れ未来に希望を持っているという事。

過去はどうあがいても変える事は出来ない。だが未来は選ぶことができる。


大金を得て自分が思う未来を描く。

参加者の多くはそうやって未来を変えた。


(だけど僕はどうだろう。父の借金が無くなり、元居たアパートに戻っただけで何も変わっていない。借金を返すことばかり考えてがむしゃらに生きていただけだった。母と約束した幸せになれって約束も果たせているかわからない。僕の取っての幸せは夢を叶えることなのか、何かを得る事なのか…)


「清志君。何か考え事かい?」

「すいません。九樹さん…。1つ質問してもいいですか?」

「何だい?」

「九樹さんは紫龍院教を潰して、それが達成した後はどうするんですか?」

「そんな先の事は考えちゃいない。私が出来るのはせいぜい目の前の事に全力にすることだ」

「自分が幸せになる事とかは考えていないんですか?」

「…清志君。私が幸せになる資格なんてないんだよ」

「どうしてですか」

「私は自分の私情で君を含めて多くの人間を自分の復讐のために巻き添えにした。ライバーと言う偽りの仮面で多くの人間をだましてきた。そんな人間が幸せになっていい権利があると思うかい?」

「だけど…九樹さんには彼らを恨む理由が…」

「どんな理由があろうと復讐は許されるものじゃないよ。だけど私はやらざるを得なかった。自分前に進むために」

「前に?」

「人間はね、一度この世に生まれ落ちたら前に進む事しかできないんだ。時には立ち止まってどの道を行くのか選ぶこともあるだろうが、だけど人は『死』と言う結末に向かい歩いていくだけなんだ。RPGで勇者が魔王を倒すという目的に向かい歩き続けるようにね」

「九樹さん…」

「君はまだ目的を見つけていないだけだ。君がもし『幸せ』を望むのなら、君自身何を成すことが幸せなのかわかれば、きっと見つける事が出来るだろうね」

「…」

「さて、雑談は終わりにしよう。そろそろ着く頃だ」


清志達を乗せたワゴン車が蒼空町に入った。


―――――――――――――――――――――――――――――――― 


蒼空町。

サバイバルゲームの時、生前の蒼空つばさと見た時と大きく様変わりしていた。


「一体これは…」


ショベルカーやダンプの土木工事車両があるのはわかるが、あちこちに怪しい工場のような施設があり、荷台に外国語入った怪しい段ボールが入っている。


「ここで何かを作っているんですか…?」

「あきらかに怪しいよな…」

「ああ。かなりやべー事になっている。なんせここは…」


清志と澄玲が蒼空町の有様に息をのみ、梅村がここで何があったのか話そうとすると


「まさか、本当にくるとは思いませんでしたよ」


声がした方を見ると、そこには紫龍院教の信者を大勢連れた松山綾善と川尻光がいた。


「松山綾善…! それに川尻光…!」

「九樹さん。ライバーのよしみでこのまま引き下がってくれるとありがたいんですけどね」

「そう言うわけにはいかない。紫龍院教を根絶やしにするまで私は引くわけにはいかないんだ!」

「…先代の件、我々もあなたに対して恨みがあるんですよ」

「ふざけるな…! 母さんがああなったのは紫龍院教の強引なやり口のせいじゃないか!!」

「黙れ! 父さんを殺された恨み、晴らさせてもらう!」


冷静だった光は怒声を上げる。


「落ち着いて下さい九樹さん! 冷静さを失ったら相手の思うツボです」

「ああ…すまない」

「松山さん。一体ここで何をしているのですか? 蒼空町は富裕層の人々の為に作られた町じゃ…」

「ああ…。確かにそれもあるが。この町はもう1つの顔があるんだよ」

「もう一つの顔?」


松山綾善は不敵な笑みを浮かべる。


「【武器製造工場】としての凶悪な面がな…!」

「武器製造工場!?」

「最近収まりましたが、ウイルスの大流行による経済悪化は国家の軋轢を生み、資本を奪い合う状況を作りました。その結果国同士の紛争が起こり、大国に武器供給を求める流れを作りました。その武器のパーツを作っているのは実を言うと平和主義を訴える我が国なのですよ」

「…」

「日本は銃が伝来してから軽量化、大量生産、効率化のために月日を費やし進化させた結果、戦争で生き残ることができた。今じゃあ世界各国にある武器のパーツはこの国で作られたものを輸出しているとも言われています。特に歩兵に変わって今はドローンが活躍しています」

「ドローンなら武器製造でなく、撮影やレジャー目的と言えば簡単にごまかせるからか…!」

「ええ。これが世界各国に輸出されれば我が国は多額の利益を得られる。かつてバブル経済と言われる時代が来ることだって夢じゃない」

「しかも富裕層が町にいれば金を渡して黙らせるとこも出来る」

「全く一石二鳥ですよ。これまで無かった崩壊不可能な階級社会を作ることが出来るのですから!」


松山綾善は狂気的な笑い声をあげる。


「そのために、貴様らを始末せんとな」

「あんたは…!」

「せらぎねら☆九樹。最初は貴様を手に入れようと思ったが気が変わった。お前は消さなくてはならない。私がトップになるためにな」


機動隊を連れて川中幸雄が現れる。


「こいつらは私の言う事を聞く手駒だ。ここが貴様の墓場となる」


川中達の戦力が清志達の前に立ちふさがった。


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