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第104話『川中幸雄』

清志とせらぎねら☆九樹達の前に立ちはだかる川中と紫龍院教の連合軍。

彼らは武器を構えて戦闘態勢に入っている。

「せらぎねら☆九樹。君たちはたった数名に対し、こちらはこれだけの数がいる。蒼空町の情報を手に川中さんを失脚させようとしたんだが、どうやら詰めが甘かったな」

「詰めが甘いのはそちらもじゃないですか?」

彼が笑みを浮かべると、九樹たちの背後から3台の大型車両が走ってくる。

「な、なんだあれは!?」

車両が止まると中から武装したSPと機動隊が現れる。

「まったく、こんなお祭り騒ぎなんて何十年ぶり以来だろうな。孫と祇園祭に行った時くらいか…?」

「山内さん!」

「九樹、早くこの馬鹿どもを止めるぞ」

「なっ…! 首相…どうして…!?」

山内首相が出てきたことに川中は驚く。

せらぎねら☆九樹は事前に山内首相に連絡し、『蒼空町に川中達が集まるようにこちらで策を行うので応援を読んでほしい』と伝えていた。

「川中…。貴様の馬鹿げた造反劇もここまでだ。貴様は首相の器じゃない」

「五月蠅い! あんたの偽善しかない政策で国が保てるわけないだろう! 私が首相になってあるべき形に戻さなきゃならないんだ!」

川中は更に増員で呼んだ自身のSPを加える。

「川中は山内さんに任せて、私達は紫龍院教を相手しましょう清志君」

「あっはい」

清志はせらぎねら☆九樹と共に紫龍院教を相手に立ち向かった。

――――――――――――――――――――――――――――― 

川中幸雄とその周りにいるSPと機動隊。

対峙する山内の周りにも厳選されたSPが降り、彼らが戦いは自前ると山内は川中の前に近づく。

「川中。お前がワシを恨んでいるならそれは仕方がない事だ。選挙でお前を引きずり降ろしワシは総理大臣になったからな。だが貴様の私情に国民を巻き込むのは筋が通らん。ワシらの役割は国民が平和に暮らせるために政治を行う事だ。混乱を起こすことではない」

「山内さん、そんな偽善で国が成り立っていくわけないでしょう。私達はこの国に住む市民を動かす力がる。だからこそ私達にとって有益な人間を優先的に庇護してその下の人間を生かさなきゃならいんですよ。誰かに与えられることを待っている乞食根性しかない下民の待遇を良くしても調子に乗るだけです。自分達が富裕層の養分になる立場であるという事を忘れてね」

川中の反論を山内は鼻で笑う。

「ふん。そんな思想は資本主義に捕らわれた2流の発想でしかない。資本主義はすでに限界に達している。だからこそ新たな国家体制が必要なのだ。窮鼠猫を噛むという言葉があるように、追い詰められた国民は暴徒と化し、統制が取れなくなるのは目に見えてわかることだ。これ以上、話をしても無駄なのはわかった」

山内は上着を脱ぎ捨て、60代とは思えない鍛えられた肉体を晒した。

「うっ…!」

「ワシがこの年代でもハードスケジュールをこなせるのはこの肉体が応えてくれるからだ。貴様も政治家なら…それも総理大臣を目指すのなら自分の意見をワシに押し通して見せろ! 言葉で説得できないなら力づくでもな…!!」

「ふん…! ガキの喧嘩みたいでくだらないが…どんなに鍛えていようと老体のアンタに負けるものか!」

川中も上着を脱ぎ捨てた。

「私は学生時代、剣道初段、柔道黒帯まで極めたんだ。こんなこと今の令和の甘ったれた世代にはできないだろう!」

「その力、誰かのために使えればどれだけいいものか」

「力は支配するためにあるんだ!」

「なら、その力でワシを支配してみろ!!」

川中と山内は互いに正拳を振るい、戦いを始めた。

「どりゃああああ!!」

川中は山内の腰を掴み投げ飛ばそうとしたが、山内は重心を落として交わし川中の拘束を解くと拳を顔面にぶつけていく。

「ふんっ! ふうん!!」

乾いた打撃音と共に川中の顔面は腫れて、鼻血が流れ、痣が付いていく。

「くそ!」

鉄の棒で殴られたかのような山内の拳に防戦一方の川中だが、タックルで不意を突いて地面に山内を叩きつけるとさっきのお返しと言わんばかりに殴り始める。

「ぬう…!」

「食らえ! オラア!!」

上から下の重力の流れを利用し何度も拳を山内に落としていく。額に裂傷が入り血を流すのを見ると川中は更にダメージを与えようと殴打していった。

だが山内は最初の一撃をあえて受けているだけで、後の攻撃は全て防御していた。相手が血を流すほどダメージを受けていると思えば攻撃の手が増え、代わりにスタミナを多く消費することになり、防御が疎かになって油断が増えるからだ。

「そこだ…!」

山内は拳を受け止めると、川中の腕を捕え腕十字に固めた。

「うがああ…っ!?」

「この悪さをする腕はおらせてもらおう」

山内が力を入れると枝が折れるように川中の腕をへし折った。

「ぐあああ…!?」

腕を折られた川中は激痛に悶絶し、地面に転がる。

「川中…。今ならこれまでの事を水に流してやる。お前は首相に慣れないかもしれんが優秀な男だ。もっと視野を広げろ。そうすればお前は…」

「うるさい!」

川中は最後の力を振り絞って山内に殴りかかる。

「アンタを引きずり降ろすために多額の投資をしたんだ! 何も成せずに引き下がれるかあ!!」

「…お前の気持ちは分かった。だが…」

山内は攻撃を避けてカウンターで川中を殴り飛ばした。

「儲けたい気持ちだけでは首相にはなれんよ」

「がはっ…あっ!」

川中は気絶し、地面に突っ伏した。

「首相の椅子に座れるのは国を変えたいと思う気持ちがなければならない。ワシはそのために酸いも甘いも味わい、汚い真似もした。お前の事を説教できるわけではないが…。ゴホッゴホッ…!」

山内は血反吐を吐いてせき込む。

「死ぬ前に…『あの子』の為に…この国を変えなければならんかったのだ…」

山内は疲労により座り込んだ。

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