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第107話『許されざる罪』

蒼空町に山内に部下が呼んだ警察が到着し、蒼空町にある武器製造工場を調べ紫龍院教たちを逮捕するための証拠を押収し、教徒達を次々と留置所へと輸送していった。


工場の事務所には海外の武器商人との契約書があり、彼を通じて世界各地に生産した武器を売りさばくようだった。この契約書は押収され、外国の首脳に情報を渡して商人を捕えてもらう算段を立てていた。


証拠となる武器は押収後、悪用されないように国防用に保管したり、危険者は順次解体していくことになった。


「これで紫龍院教は終わりですかね…」

「そうあって欲しいよ」


清志と共にせらぎねら☆九樹はワゴン車に乗り、蒼空町から去っていった。澄玲は「ネタになるいい経験ができた」と目を輝かせていた。


―――――――――――――――――――――――――――― 


次々と警察に確保される紫龍院教を搔い潜り、1人の男が逃走を図っていた。


「クソっ! 金があるからって話に乗ったがわけわかんねえ鉄くずが置いてあるだけじゃねえか!」


小坂学人は松山綾善の口に乗せられこの騒動に参加したが、結果収穫は何も得ず逃げ回るのでやっとだった。今は蒼空町の出口辺りにいて脱出の機会を待っていた。出口には山内が連れた警察隊が待機していた。


「警察に見つかる前に早くここを出ねえと…」

「その必要はない」


小坂が振り向くより早く、その人物は拳銃の底で小坂を殴り気絶させた。


「貴様はもう、逃げる事は出来んからだ」


山内は警察に命令し、小坂を捕獲すると蒼空町に作られた地下施設に移動させた。椅子に座らせ縛った後、水をかけて小坂を目覚めさせる。


「くっ…ここは一体…?」

「地下施設だ。貴様がどれだけ大声を立てられようと助けは来ないし、ここなら誰も来ないだろう」

「な、なに言っていいだてめえ…」

「わしは山内茂だ」

「あ? そ、総理大臣がわざわざ俺に何の用だ?」

「わし個人の私用だ。貴様に質問だが『山内明莉』という名前に覚えはないか?」

「し、知らねえよ。だれだそいつは?」

「…覚えておらんのか。期待するだけ無駄だったな…」


山内は失望の眼差しで小坂を見る。


「山内明莉は息子・重行の妹であり、わしの娘だ!!」

「あ、あんたの娘?」

「そうだ…! 今から10年ほど前、明莉は貴様の手によって死んだ…。小坂学人…いや…『神崎学太郎』!!」

「な、なんで俺の以前の名前を…!?」

「10年かかった。真実を知るまでな…!」


山内は語る。


当時、彼はまだ駆け出しの政治家であった。嘘と野心が行き交う闇多き政界で精神が擦り切れるような思いをしていたが、愛する妻と2人の子供の存在が山内を支えていた。


いずれは自分の子供たちが安心して生きられる国作りがしたいという思いを抱き

しかし、そんな幸せな日々に悲劇が訪れた。


『山内明莉が殺害された』


最初は信じたくなかった。だが、死体安置所で変わり果てた娘と、泣き続ける妻の顔を見て真実だと受け入れるしかなかった。明莉は辱めを受け、抵抗したが刃物により6か所刺された後、出血多量により死亡したことが後に分かった。

我が身が引き裂かれるような思いだった。


警察からは事情聴取を受けたが明莉は誰にでも優しく、そして賢かったので恨みをや犯罪に巻き込まれるような人間に関わっているとは考えにくかった。

自分に恨みのある同業の仕業かと思ったが、事件担当の捜査官から衝撃の事実を聞いた。


「犯人は18歳の学生で、犯行理由は『ナンパしたけどフられたから殺害した』と言うこと…」

「そんな…そんな事でワシの娘を…!!」


この時、神崎学太郎の事を山内は知ることが出来なかった。


まだ少年法が、未成年者に対し手厚く社会復帰支援をする事を義務とする事が主流であり、彼の情報はかたくなに警察に守られていたからだった。


更に神崎学太郎は父・神崎幸之助を持つ富裕層の人間であり、神崎孝太郎の親戚であった。

幸之助は報道機関や警察に賄賂を与え、神崎家の権力で捜査に対し圧力をかけていた。事件は公になることなく、少年法と権力に守られ闇に葬られた。

神崎学太郎は更生施設に送られ、その1年後には社会に出ていた。

その時に名前を『小坂学人』と変えて過ごしていた。


小坂学人に名を変えた後も軽犯罪を繰り返しており、起訴されても阿久津により有罪判決を受けても軽い罪にして逃れ続けていた。


「だが、神崎幸之助の会社は不正と違法に溢れていた。建築や食品とあちこちの事業に手を出していたようだが、警察が少し介入するだけで潰れるような瓦礫の城。それに神崎孝太郎は幸之助に対しあまり期待はしてないようだった。金を稼げる能力が無いと知ると簡単に切り捨てた。そして路頭に迷ったお前はチンケな窃盗で生活するようになった…」


「うるせえ…! 親父がドジ踏まなきゃ俺は…!」

「心配するな。もうお前の行き場所は1つしかない」


山内は懐から拳銃を取り出した。


「地獄しかな」


拳銃の安全装置を小坂に向ける。


「おい待て…! 総理大臣がそんなことしていいのかよ!? 国民を平気で殺すのか!!」


「貴様の様な人間以下のクズなどワシは国民として認めん…。ワシはこの日の為に全てを耐えてきた。神崎に気に入られるために利益しか考えない非情な人間を演じ従ってきた。全ては貴様をワシの手で裁くために…!」

「ま、待て! こんなことしてその子が喜ぶのかよ!」

「貴様が殺したくせに…! 知ったような事を言うな!!」


山内は一発目を小坂の足に当てる。


「ぐあああっ…!」

「娘が受けた痛みはこんなものではない…! あの子の未来を奪った罪をその身で償え!! 小坂学人!!」

「た…たすけ…!」

残る全ての弾丸を小坂学人に撃ち込んだ。

頭部、胸、腹、肩、大腿、そして足の合計6か所から血が流れ、小坂学人は絶命した。山内は拳銃を捨てて部下に指示を出して死体の始末を命じた。


「…明莉…。終わったよ…。パパは後悔していない。ワシがやらなければ、誰がお前の名誉を守れる…。ぐふっ…」

限界を迎えるように血を吐いてその場に倒れた。

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