山内が亡くなり、新体制となった政府では『国民の為の政治』を掲げ、萩尾勝が主体となり正しく生きる人間が評価される世界となっていった。
萩尾の首相としての器に、当初は反対意見をもっていた野党も納得していき彼を中心に政界も変化していった。海外の首脳からも萩尾の手腕にかつての山内を思い出すという程だった。
彼の政権で、AI司法をより強化させ、厳正なる法の裁きを実現できるようにし海外から渡航した外国人が起こした犯罪も日本の法律で裁ける法律を制定した。
山内から引き継いだ正義を実現させ、明るい未来を作っていった。
そして彼らもその世界で生きていく。
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ここからは清志が聞いた周囲の人のその後の話になる。
東雲秋穂は母と今も暮らしており、優子は清志に好意を持っており今も再婚せず独身の様だ。秋穂は大学受験をして将来何をするのか考えているらしい。
今回の事件とサバイバルゲームで、学びを得れないという事は誰かに利用されるか誰かを利用するしかない人生しか歩めない事を知ったとの事だった。
マルガリータ・フェルスキーは日本に残り仕事を見つけて生活していた。
故郷へ帰るのは難しいが、日本を第2の故郷として生きていくようだ。
桝谷は蒼空つばさの葬式を行った後、個人で探偵兼ジャーナリストとなり国家権力の監視と紫龍院教のい様な政治や裏社会に取り繕うとするカルト教団の排除をする事を決めた。それが人生を狂わされた人々へのせめてもの手向けになると信じて。
中井洋子と太田真は今も焼肉店をしながら暮らしている。
最近雑誌で紹介される程人々に知られており、いずれは2号店を出す予定の様だ。
太田は登録者を順調に増やし続け、企業案件も貰えるようになっているようだった。
大江戸華美は実家で静かに暮らしている様だった。
あれからライバー活動に対しトラウマを抱いており、インターネットに関わらない様に生活しているらしく、趣味だったギャンブルもしなくなりパートをしながら生活しているようだった。
かつて仲間だった蒼空つばさやメンバー達の命日にはお墓参りに行っている。
紫龍院教の幹部だった松山綾善と新教祖の川尻光は、殺人や多くの犯罪行為に手を出しており、死刑判決を受けすぐに執行された。散り散りになった紫龍院教の信者達に牽制する意味もあるらしい。
川中幸雄はカルト教団との関りや数々の不正をせらぎねら☆九樹によってネット上にばらまかれ、政治家としての死を迎えた。失意の果てに自ら命を絶ち、関係者の中で静かに埋葬された。
阿久津は法律事務所が亡くなった後、探偵事務所を開き犯罪に巻き込まれた人間の救済をしているようだった。多くの悪人を見てきた阿久津は的確な仕事をし、被害者の刑事裁判や民事裁判の手助けをしていた。
小坂学人は親戚からも疎まれており、簡素な葬式を行われた後無縁仏に埋葬されることになった。
「自業自得だが、哀れな奴だ…」
土だけ盛られた小坂学人の墓に阿久津は憐みの眼差しを向けていた。理由はどうあれ関りがあったのは事実なので線香を上げていた。
清志はあの事件の影響で名前を変えなくてはならなくなり、
『斎藤太一』として今は生活している。
紫龍院教に奪われた金は全額取り戻し、今は澄玲と共に暮らしているようだった。
市役所に婚姻届を出し、2人は結婚していた。
「太一、今度温泉にいこーぜ!」
「はい。休みが取れるようにしますね」
太一は事務職員に就職していた。大きな会社ではないが人間関係は良好であり充実していた。澄玲も執筆した作品がヒットし、ウェブ小説の仕事を増やしていった。
大らかな澄玲と、誠実な太一の関係は良く、周囲からはおしどり夫婦として認知されていた。サバイバルゲームや今回の事件で太一は人間的に成長し頼もしくなり、澄玲もそう言う所が好きになった部分だと思っている。
「どっか出かけんのか?」
「ちょっとある人に借りたものを返しに…」
太一はある場所に向かった。
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―あずさの家
「律儀な人ね。返す必要は無いって言ったのに」
「そうはいきません。借りっぱなしにするのは嫌だったので」
太一はあずさの家に訪れていた。逃亡中に彼女から借りた30万を返しに来ていた。
「葵さんとは今も?」
「ええ。あのあと警察が来て色々あったけどまあ、何とかなったわ」
太一が去った後、彼がいた形跡を全て処分し警察が来ても何の証拠も得られなかったので早々にあきらめて帰っていった。
「証拠が無ければ何も追及されることもないし、あまりやる気のない警察官だったのも助かったわ。いつもあんな態度で仕事されてたら悪人どもが暴れて仕方ないと思うけどね」
「相当な方が来たんですね」
萩尾政権になって山内政権から引き継いだ警察改革のおかげで質は上がっているが、役人は給料がどんな状態でも安定しているので出来るだけ楽したいという欲求が労働意欲を下げている感じだった。
「だけど少しずつ変わっては来てるわ。今の首相も改革を進めて国民が豊かになるよう努力しているみたいだしね」
「やっぱり彼の影響が大きいのでしょう」
太一はスマホに録画されたせらぎねら☆九樹のライブ動画を見る。
「今は何してるのかしらね。そのライブの後すっかり姿を消しているでしょう」
さあ。だけど彼はどこにいても変わらないんじゃないでしょうかね」
「いつかまた復活するかもね」
談笑しながら時間は過ぎていき、太一はあずさの元を去った。
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―某女子刑務所。
「お世話になりました…」
初老の女性が刑務官に頭を下げて礼をする。
「世間はお前が犯した罪を簡単に許さないだろう。だけど…個人的にはお前の事は嫌いじゃなかった。『罪に向き合い反省する』という難しい事をお前はやり遂げた。二度と戻って来るんじゃないぞ」
「もったいない言葉です。二度と過ちを犯さないようにします」
「ああ。しっかりしろよ倉木」
倉木と呼ばれた女性は刑務所を去り、外で待っていた男に迎えられる。
「お帰りお母さん」
「しげお…!」
2人はその後、人知れずどこかで暮らしていた。