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青年達の決意と門出、そして友情


 何が、お前達をそこまで駆り立てるのか。下手をすれば落命する危険も承知で、抗い続けるつもりか。


 盗賊達の言葉つきが、シェリーには、出来の悪い子分らを諭しているようにも聞き取れた。


 彼らに、ショウとレンツォが口を揃える。



「姉さんみたいな研究者になる。そう、決めましたから……」


「貧乏なのに、オレを立派に育ててくれた。親父に顔向け出来なくなるよりかは、無茶した方が、マシっすよ」


「…………」



 シェリーの隣で翡翠が鼻を啜っている。両親のことで酷い目に遭ったばかりの彼女にも、思うところがあるのだろう。



「ショウ、レンツォ……」



 盗賊の一人が口を開いた。



「お前ら連れ戻したって、ろくに働かないんだろうな。ロボットを作らせた時、盗みを教えた時よりいい目してたの、覚えてるぞ」



 もう一人の盗賊が、相方に頷いて苦笑した。



「条件を変える。ショウ、レンツォ。最後の仕事だ」



 最後の仕事。


 その言葉に、未熟な青年達が身構えた。


 彼らは盗みをしないと決めた。だが盗賊達の次の言葉次第では、それを撤回することになる。



「西へ行け」



 盗賊達の命令は、シェリーの予想を覆した。



「西に、財宝があるんだとよ。実存すれば、世界を変えるだけの価値がある。それを持ち帰ることが出来れば、お前ら二人は自由の身だ」


「…………!!」



 瞠目したのは、ショウとレンツォだけではない。この場にいた全員だ。モモカも難しげな顔をしているのは、彼女のデータに、財宝に関する情報が不足しているからだろう。


 だが、ショウ達は従わなければ、東部のアジトへ連れ帰られる。彼らは、おそらく危険を承知で、西への旅を決める。


 シェリーの予想は的中した。



「本当に……財宝を取ってくれば、組織を抜けられるんすね?」


「ああ」


「ショウの親父さんの薬は……!世界を変えるほどの価値、ってことは、難病だって治せる奇跡が……!」


「あるかも知れないな、西には。あそこには悪魔が棲んでいる。人類を滅亡の危機に晒している悪魔が、な」



 盗賊が続ける。


 西には、ほとんど人間が住んでいない。人間が住んでいないだけ、人智を超えたものがあっても不思議ではない。だがどこの盗賊団も手を出そうとしないのは、生きて帰れる保証がないからだ。どうせ戻るつもりのない子分なら、行かせるには適任だ。


 そこまで聞いて、シェリーはピンときた。


 つまり、財宝は都市伝説だ。組織はショウ達が手ぶらで帰るか、悪魔に殺されるかも計算の内に入れている。



「行くっす」



 ショウが盗賊達に頷いた。彼にレンツォも同意を示した。


 シェリーは、彼らの間に進み出た。



「西へ行くなら、一緒にどう?」



 その提案に、二人達はすかさず辞退した。これ以上の迷惑はかけられないという彼らに、シェリーは続ける。今、自分達も西へ向かっている。すると、その場にいた全員が、例のごとく挑戦者を見る目を向けてきた。


 数秒の沈黙を破ったのは、厳しい顔を俯けていた盗賊達だ。



「行ってこい、ショウ。レンツォ」


「兄貴……!」



 情けないような顔を見せたショウ達に、盗賊達が苦笑いした。裏切り者への呆れか、年長者が部下に向けるのに近い、愛情か。



「お前達の憧れを知っていて、ロボットの製作に就かせた。オレらの責任でもあるからな」


「運良く生きて帰れたら、研究室にでも好きなところへ行きやがれ」


「っ……くぅ……っ」



 頭を下げて、青年達が感謝を述べる。彼らの頭をくしゃくしゃ撫でて、強面の年長者達が激励した。


* * * * * *


 盗賊達が中部を発つと、シェリーは、ショウとレンツォを移動基地に招き入れた。


 懐かしげに目を細める二人を座らせて、手当てを始める。ついでに、翡翠の傷も念入りに診た。



「姉御に手当してもらえるなんて……オレ、生きてて良かった……!」


「ショウって、そんなに甘えん坊だった?」


「ショウは、姉さんをずっと心配していたんですよ。あの時のオートバイも、有り難うございます。この村では宿を借りていますから、あれも、今はそこに停めています」



 手当てを終えて、二人は、何とか見ていられる状態になった。あとは時間の経過次第だ。


 病院跡地で二日間をともにした顔触れを、感慨深さがとり巻いていた。ともすればあれが永遠の別れになる可能性もゼロではなかったからこそ、尚更、今日の再会は全員にとって奇跡だ。見つめ合う四人と一匹に、輝真がおどけてやきもちを焼く。



「ところで、二人は今夜、どうするの?西へは一緒に行くとして、宿を借りているなら、いきなりここで暮らし始めるのも難しいでしょう」



 シェリーの問いに、青年達が互いの顔を見合わせて、口を開く。



「ミースターさんのお宅は、ご存じですか?」


「えっ?!」



 翡翠が大きな声を上げた。彼女の隣で、輝真も目を見開いている。


 聞けば、ミースターとは、無名の商家の一族らしい。それが何故、一部のネットワークでは知られているのか。一人の青年に起因している。彼こそ、シェリー達が訪ねるつもりでいた考古学者──…つまり隕石クレーターで不審死を遂げた女性の子孫で、輝真が以前に世話になった旅館の主人だ。


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