館内中の警報が、シェリー達の脱走を報せていた。ただし、監視カメラはさっき細工したままで、今も偽の映像を中継しているようだ。
シェリーと青年は、持ち出してきた拷問具で警備員達を牽制しながら、やっとの思いで階上に出た。
青年は、長い拘置生活を強いられていたにしては、しっかりした足取りだ。きたる時に備えて、身体を慣らしていたのだろう。
「いたぞ!!」
バキュッ!バンッ!ババンッ!!
獲物を蜂の巣にでもせんばかりの銃弾をよけて、シェリー達は回廊を走る。
見覚えのあるショーケースが見えてきた時、ロボットの群れがシェリー達の行く手を阻んだ。至近に迫った警備員から銃を取り上げて、青年が彼を取り押さえる傍らで、シェリーは鋳鉄色の機体を狙う。
青年も、別の警備員から銃を奪った。
彼の目つきが変わる。今日まで、彼も修羅場をくぐってきたのだろう。狙いを定めた銃口が、鋳鉄色の警備隊に弾丸を放つ。
新たにトヌンプェ族らが加勢してきた。シェリーは彼らに照準を合わせる。
バキューン!!
「グッ……はぁ、……フ!!」
バンバンッ!バンッ!!バキューン!!
警備員らやロボット達の数に対して、シェリー達はたった二人だ。どうあっても分が悪い。
「っ、ぅく……」
シェリーの太ももを銃弾が掠めた。命中を免れているだけ幸運だ。今また接近したロボットの一体を蹴り倒して、シェリーは警備員らに引き金を引く。
つと、ショーケースがシェリーの目につく。
中には武器が並んでいる。かつて学会では実存したかも疑われていた、性能に長けた代物ばかりだ。
ひっきりなしに向かってくる敵に応戦しながら、シェリーは更に視界を巡らせる。
掃除用具の覗いた収納庫が目に留まる。
シェリーは掃除機を引っ張り出して、力任せに振り上げた。
狙ったのは、今しがたのショーケースだ。小気味良い音を響かせて、無数のガラスの破片が飛び散る。
「正気か!!」
血相を変えた警備員の銃弾をよけて、シェリーは、彼らのコレクションから電子仕掛けの銃を取る。
ショーケースの照明器具に繋がっていたケーブルを銃の差し込み口に移して、電力を引き上げる。そして、ロボット達に照準を合わせた。
ドカァァアーーーン!!
破格の威力だ。命中したロボットは、機体の破損と内部の故障を一度に負う。
シェリーは、青年にその銃を渡す。
「ここはお願い!」
「あっ」
倒れたロボットを盾にして、シェリーは駆け出す。
バンバンッ!バンッ!
警備員らがシェリーを狙う。彼らの追撃を逃れながら、手当たり次第、扉を開けて中を覗く。
いくつ目かの部屋に、探し物は見付かった。コンピューターだ。
入室して、シェリーは内鍵をかけた。
コンピューターに強制ログインして、役所中のシステムに繋がっているソフトを探る。
扉を殴る音が響く。殺気立った銃声が、室内に突き抜けてくる。
シェリーの予感は的中した。ここに属するトヌンプェ族らやロボット達は、コンピューターが管理していた。
まずシェリーは、彼らの同期を切断した。これで、主人のトヌンプェ族らに危機が迫っても、ロボット達は凶暴化しない。そして稼働中のそれら機体を解析すると、外部と連絡のとれるソフトを起動して、モモカの通信機にアクセスした。
『シェリー!脱出出来たです?!』
「さっきは有り難う。ロボットに塞がれてしまって……。やつらのデータを転送するから、同じ素材を移動基地の収納庫から探して、分解システムで粉砕出来る?」
「役所内に範囲指定して問題ないです?」
シェリーはモモカに頷いて、今しがたのデータを送る。そして、戸棚から銃を探し出すと、懐に忍ばせていた翡翠の銃弾の予備をセットした。
ドゴォォオオオン……!
扉を開くと同時に引き金を引いて、シェリーは警備員らとの距離をとる。翡翠が人間相手に使いたがらない弾丸は、不運な彼らを火煙に包んで、断末魔も上げさせなかった。
煙を吸わないよう注意して、シェリーはさっきの場所に戻る。
「シェリーさん!」
振り向いてきた青年の顔は、動揺していた。急に崩れ出したロボット達を、怪訝視しているのだろう。それでも彼の銃口は、警備員らが負傷でのたうち回る中、最後の二人を狙っている。
「地下を出てきた時と同じ、やつらの素材を割り出して、分解したの」
シェリーは、尻餅をついた二人から銃を奪う。
「出ましょう」
新たな追手が加わる前に、シェリーは青年に脱出を促す。