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最後の対立


 シェリーの背後に、ロボット達の気配が迫った。


 振り向きざまにレーザーガンの引き金を引く。


 光線が照らす通路の先で、鋳鉄色の数体が崩れ落ちる。シェリーの立つ後方で、翡翠も銃を構えていた。彼女の放った弾丸が、次々と機体に命中して、故障音が続く。


 閉ざした扉の逆方向に、ロボット達が押し寄せていた。


 シェリーは、簡易バリアで接近を防ぐ。


 扉を開くと、さっきの広間に、ヤナ達も駆けつけていた。



「……?!」



 翡翠が口を覆ったのは、そこに鈴までいたからだろう。


 村長は、家族まで招集していた。昼間の会食にいた顔触れの多くが武器を所持して、ブレーカーを収めていると考えられる戸口を囲って並んでいる。


 一家を守るのは、警備員らとロボットの群れだ。


 前後を塞がれたシェリーと翡翠は、背中を合わせて銃を構える。



 ダダダン!ダダンッ!!


 ドォォォオオオン!!



 シェリーの光線と弾丸が、ロボット達を撃ち倒していく。後方の翡翠の発砲も、鋳鉄色の警備隊を内側から爆発させて、至近の機体を巻き添えにする。



「そうだ、シェリー、これ!」



 手を伸ばして翡翠がシェリーに握らせたのは、使い馴染んだ銃の一つだ。装備している弾丸は、忘れ難い友人の形見。



「翡翠……」



 ダンダンッ!バキューーン!!



 簡易バリアと銃をひっきりなしに扱いながら、翡翠が頷く。



「決戦に、もってこいでしょ!」



 翡翠が言い終えない内に、シェリーの連射した弾丸が、ロボット達の動きを止めた。


 内部の機器を感電させる弾丸は、シェリー達が旅に出るよりずっと以前から、多くの村人達を守ってきた。物心ついた頃には戦時中だったというかつての持ち主は、滅びへ向かう世界に気付いて、最初に何を思っただろう。少なくとも失望という概念は、彼の辞書にはなかったはずだ。


 凛九の守りたかったものを、シェリーは、ここでも守る。翡翠と同様、彼もシェリーに、もう一度立ち上がろうと決心させてくれた一人だ。



「たぁあアアアッ!!」



 翡翠のかけ声を連れた弾丸が、ロボットらの群れを今また散らした。


 シェリーも、順調に敵を減らせている。



「鈴さん、ヤナさん、サジドさん……!」



 話し合えないか、という呼びかけが、続かなかった。


 武器を握らされた三人も、戦いを余儀なくされている。そうしなければ夜明けを迎えられないくらい、彼らは彼らの窮地にいる。



「悪い、シェリーさん……翡翠さん……っ」



 サジドの放った弾丸が、シェリーの広げた簡易バリアに命中した。


 シェリーは、隅に潜んでいたショウ達のロボットを呼ぶ。



「お願い!」


「させるか!」



 味方のロボットに銃を向けた村長に、シェリーは凛九の弾丸を撃ち込む。



「ぐぁ!!」



 老齢のトヌンプェ族が膝をついた。目を剥いて、彼が傍らに立つ配偶者に縋る。


 シェリーは、サジドの弾丸を回収したロボットを外へ促す。



「さては貴様……!」



 遠ざかっていくロボットからシェリーに視線を戻した村長が、何か心当たりのある言葉つきで目の色を変えた。


 彼の憶測は、おそらく的を得ている。翡翠の腹積もりが発覚する直前、シェリーはトヌンプェ族らの弾丸を分解システムで粉砕した。その際、使ったのは、今し方のロボットだけだ。分解システムを使うには、最低でもモモカくらいの人工知能が必要になる。或いは、手動だ。だがシェリーは、彼女の不在時、遠隔でそれを実行した。



「モモカの知能のバックアップを使ったの」


「……っ!!」


「それなら、通信機から操作出来る。さっきのロボットは、運搬役よ」



 バキューーーン!!



 シェリーは、銃を構えた警備員らに発砲する。


 ロボットでも一発で脅威になる弾丸が、彼らから阿鼻叫喚を引きずり出す。


 地獄絵図だ。鋳鉄色のガラクタの山はともかく、トヌンプェ族らの血液、肉片が、そこら中に飛び散っている。それでも彼らは、抵抗を続ける。



「あなた!あなた……」



 村長に寄り添っていた女性が、彼をさすっている。彼女が警備員を名指しして、医者の手配を命じる。忠実な青年が主人の配偶者の指示に従う。シェリーは、彼の足に照準を合わせる。レーザーガンの引き金を引くと、真新しい血液が、飛沫になった。



「くあっ」


「行かせない!」



 村長の配偶者の赤い目が、シェリーを睨む。



「主人が瀕死よ?!」


「父さん……おいっ、医者を!」



 息子と思しきトヌンプェ族が、別の警備員に指示を出す。


 直近のロボット達を撃ち倒しながら、シェリーは次の警備員に問う。彼に従うなら、今の青年と同じ苦痛を受けることになる──…。


 躊躇う部下を、息子が目を吊り上げて促す。



 バキュンッ!!



 息子の鼻先に弾丸を放つ。


 腰を抜かせた彼とその母親に、シェリーは正面から銃口を向ける。



「罪だなんて、思えない。逆恨みだとしても、あなた達の身勝手が、この地を──…私を、こんな風にしか生きられないようにしたの!」



 何かを得るため、守るためには、悪も犠牲もつきものだ。


 翡翠を苦しめてきた孤独や恐怖は、こんなものではなかったはずだ。彼らが地上をかき回さなければ、シェリーもあんな思いをしなくて済んだ。


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