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第67話

マリアさんは、引退を考えたものの何をしようか迷っていた時に、グラース家に呼ばれたという。

グラース家ではメイドと警備を両立できる存在がいると、とても助かるという話だったのだ。

そして、ルイが私を連れてくるとなった時、私の警護を全面的に頼まれたという。


「坊ちゃま、本当はカリブス様ともっと一緒にいたかったんですよ」

「今でも、戻って欲しいような話をしていましたね」

「ええ。坊ちゃまにとって、カリブス様は弟のようなものなのでしょうねぇ。子どもの頃から坊ちゃまを見ていますけど、坊ちゃまは家族がとっても大事なんですよ」

「……マリアさんも、ルイの伯母様を知っているんでしょう?」


そう問いかけた時、マリアさんは初めて黙った。

少し視線を逸らしてしまう。


「……いい人でした」

「そう、聞いています」

「とっても、いい人だったんです。私みたいな荒くれ者じゃなくって、とっても優しくて穏やかで、美しい人で。たくさん、たくさん料理を教えてもらって。悪いのは魔女なんです」

「マリアさん……」

「悪いのは魔女です。奥様は、こんな想いをしてほしくないわ……」


家族を失う哀しみ。

近しい人が魔女となってしまう苦しみ。

魔女の覚醒は、きっと多くの苦痛を生んでしまうのだ。


「私の妹は、魔女だと……言われて」

「はい、存じています」

「そんな子じゃ、ないんです」

「はい、皆様そうなんです」

「止める方法はないんでしょうか……」


覚醒を止める方法があるならば。

それがあるならば、私はそれをしたい。

どうにかして、妹の覚醒を止めたいのだ。


「……止めることは、難しいようです」

「そんな……」

「大奥様もそう言って、泣いておられました」

「お義母様も……」

「はい……」


やはり、みんなこんな想いをするのだろうか。

もし今、お義母様が生きていたなら、私の気持ちを理解してくれていたのかな。

私は、このまま暗くしていてはいけない、と思い、マリアさんに昼食の準備をお願いした。

私は結婚式の準備をしてくる、と笑顔を見せる。


厨房を離れ、作業部屋に入った。

ドレスは綺麗に飾られ、それを見ると私は結婚するのだ、というのがよく分かる。

私は、結婚して、いつ妹が魔女になるのを見るのか。

大切なアリシア。

大切な妹。

転生前から私を支えてくれていた存在なのに。

そんな大切な存在なのに、そのアリシアが魔女になってしまうなんて、この世界はどうなってしまったの?


「セシリア、いるか?」

「は、はい」

「忙しかったか?すまない」

「いえ、ドレスの仕上げを確認しておりました」

「そうか」


彼は部屋に入ってきて、一緒にドレスを見てくれた。

静かな穏やかな時間。

この時間、好きだな、と思った。


「いい出来だ。仕立屋には高く支払いを出そう」

「そうしていただけると、私も嬉しいです」

「結婚式の流れを説明するが、いいか」

「はい」


結婚式は、まず当日に騎士団が護衛で各箇所に配置される。

また配置されるだけでなく、国王の護衛にもつくので、数名は国王の送迎に同行するとの話だ。

来客は、遠方の人に関しては結婚式前後を宿泊してもらう。

料理はマリアさんを中心に、当日のみ複数人を雇う。

メニューは国王と一部の人はコースに近い形で出して、それ以外は立食パーティーに近い形にする。


「お前の家族には少し長めにとどまってもらうことにしている。ユーマもお前の父と話がしたいと言っていたからな」

「ありがとうございます」

「後、結婚式の後は騎士団の一部が国王を王城へ送迎する。俺は残るが、ハンスと一緒に指示を出す必要性がある」

「分かりました」

「その後はカリブスの稽古に付き合う。ユーマには、カリブスの決闘が落ち着くまで雇うとのことで話がついた」

「もしかして、ユーマの雇い賃まで出していただいたのでは……」

「構わん。その代わり、稽古から護衛、荷物持ちまでなんでもするという契約にさせたからな」


あらぁ、それでユーマが納得したのなら、とても高いお金で雇われたのかもしれない。

私はそんなことを考えながら、ルイに感謝を述べた。


「すみません、家にお金がなくて……」

「普通はこんなことはないからな。だが、これをきっかけにカリブスにまた話をする」

「話、とは?」

「騎士団だ。騎士団に戻るように、話をしてみる。場合によってはハンスにもな。最終手段は国王だが……」

「国王にまでお手数をおかけしては、申し訳ないです」

「国王は、カリブスを気に入っていてな。何度か王子の護衛にしてもいいと言っていたんだ」

「え!?ほ、本当、ですか!?」

「今朝と同じ理由だ」


今朝と同じ理由?

何を言っているのか、と思った瞬間に私は理解した。


「も、もしかして、見た目ですか?」

「そうだな。アイツの騎士団姿は様になる。他の団員は屈強な奴が多すぎてな。筋肉隆々の護衛よりも、貴族の風格が見えるカリブスの方が、王子の護衛には似合うんだ」

「それならお兄様もそっちを選んだらいいのに!お給料もいいんでしょう?」

「当たり前じゃないか。きっと、お前の父が月に稼ぐ額を楽に超えるぞ」

「そ、そんなに!」


お兄様、やっぱり騎士団に戻るべきでは。

でも、お兄様が家に戻ったのも、魔女との戦争を経験して、アリシアが魔女だと気づいたから。

でも、アリシアが魔女として覚醒しなければ、お兄様だって自由に生きていけるはず。


「でも、アイツはそういう柄じゃなくてな」

「まあ、性格的にあまり護衛だけ、というのはお好きではないかもしれませんね」

「見た目はああだが、中身は燃えるような男だ」

「それはちょっと分からないんですけれど」

「妹たちには見せて来なかったんだろうな。戦場でのアイツは、とにかく凄まじい速さなんだ。その姿は見せてやりたいが」


兄は、見せたくないのかもしれない。

だから、見せて来なかった。

貴族の息子として、帽子に杖を持ち、悠々自適な顔をして、馬鹿な商売ばかりする。

そちらを選んでしまったことに、兄は何か意味を持っているのだろうか。

戦場での姿を嫌っているわけではないのだろうけれど、見せたくないものなのだろうか。


「妹の部屋だが」

「は、はい!」

「結界を張っておく」

「けっかい……」

「魔女としての覚醒はないだろうが、何かあってからでは遅いからな。屋敷中の警備も強化はしているが、実際どのようになるか当日まで分からん」

「はい……」

「親戚筋は少ないから、国王の護衛がしっかりとできればそれでいいと思う」

「あの、王子は」


私が問いかけると、ルイは思い出したようだ。

アリシアと出会うはずの王子。

その存在はどう登場するのだろうか。


「王子は今、国外だ」

「え?」

「王子は留学という名目で国外に出ているようだ。詳しいことは言えないが。結婚式には来ないだろう」

「こ、こ、来ないんですか!?」

「ああ。祝辞はもらっているから、それだけでもありがたいことだぞ。なんだ、王子に会ってみたかったのか?」

「いえ、そういうわけでは……」

「彼はまだ子どもだ。そうだな、お前の妹と同じくらいか」


そう、だから学園で出会うのだ!

でも、今回会わずに学園で出会うなら、本の通り。

できることなら、その方がいいと私は思う。

もしも騎士団長の義理とは言え、妹だと分かって出会うより、学園で自然に出会った方がいいはず!


「変なことを考えるなよ、セシリア?」

「変なことじゃありません!妹の将来です!」


大事な大事なアリシアの未来。

あの子が王子と出会う時。

お姉ちゃん、頑張る。

頑張って、あの子が魔女にならないようにする!

やっぱり、覚醒しない方法を見つけ出したい!


でも、どうすれば……。

分からないことが多すぎて、私は結婚式以外のことでも悩み続けるしかないのだろう。


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