質問の意図が分かるだけに、頭の中で煙幕が渦巻いて、視界が狭まっていく。
聖女は静謐なその瞳で、もうこちらは分かっている、だから本当のことを言えと、そう言っているのだ。本当の目的はパスカリスではなく、別にあるのだろう、と。
意味が分からない。
実は私の後をずっと付いてきており、パスカリス邸を見張っていたところまで見ていた、としか思えないほどの自信。でなければ、そう問えることに説明がつかない。
ただ、パスカリスに招かれたという嘘は、穏便にこの国へ入るための方便である。まさかここまで事が大きくなることは想定していなかったが、帰ってこない村人を探しに来たというのはそもそもやましい理由ではないはずだ。
だがどうしてだろう、素直にそれを口にすることを躊躇われるのは。いくら考えても、話してしまったほうがスムーズに事は進むはずなのに。
根拠のない予感、というものか。ただ私には、先見の明は備わっていないため、恐らく告白の際に感じる一種の躊躇いにも似た何かだろう。
「……申し訳ございません、なるべく事は大きくしないよう伏せておいたのです。お許しください」
双剣の彼女が目を床の上に伏せる。
まさか私が白状するに至るとは思っていなかったのだろう、自分とて穏便に事を済ませようとしていたのは事実だ。ただ、言わなければこれ以上怪しいと思われてかねないため仕方がない。それとも、初めから全て事情を説明していればこのような後ろめたい気持ちに刃ならなかっただろうか。
「詳しくお聞かせ願いますでしょうか」
一人置き去りにされていた司教が、首を傾げて問う。
別にこの国を攻撃する意思はない。問題はこの国でいなくなった者を探していると言って、彼女らがどのような行動を取るかである。不穏なのだ。通信手段が不明瞭であるにも関わらず、入国してすぐに司教が出迎え、パスカリスを探しているわけではないことを察している彼女が。
事情を説明しながらも、私はそんなことを考えた。
「なるほど、でしたらなおさら我々に話して頂ければお力になりましたのに」
私たちが何故この国へやって来たのか。その理由を話すと、司教は一段と柔らかな口調でそう答えた。
「申し訳ございません。ですがそちらの手を煩わせるわけには参りませんゆえ」
介入されたほうが、むしろ面倒だ。
雇い主とのコンタクトは済んでいる。一番の結末は、双剣の彼女が納得するか否かだ。私はまだ、彼女らが完全に何も理由なく力を貸してくれるわけがないと思っている。万が一、彼女の夫は我々が捜索するゆえ、貴女方はここでお休みくださいなんて言われては有耶無耶になりかねない。
もちろん自分たちでも探すと言えばいいのだが、その言葉自体が内包する意味を勘ぐってしまう。
「いいえ、出稼ぎに来て頂いた方が行方不明となっては、我々の信用に関わります」
どうだろうか、今回に関しては恐らく私が動かなければ、なかった事になっていたように思う。先刻双剣の彼女が行方知れずになったのがその証拠だ。
ただ、頑なに断るのは不自然に思われよう。何か介入してほしくない理由でもあるのか。まあそれは、恐らく双方に言えることなのだろうが。
「わたくしも、早く見つかるよう心よりお祈り致します」
丁寧で、それでいて有無を言わせぬような響き。
彼女こそ、人と探すことに適しているように思う。それこそ、私の居場所を手に取るように
分かっていたように。
ただパスカリスを探している者の行き先など、あまり深く考えなくとも自ずと浮かび上がってくる。むしろその話を出すと私の方が不利になるため、口に出さないでおこう。聖女としては、私がパスカリスを疑っているようにしか見えない。自国の者を疑われて、あまりいい思いは抱かないだろう。国の実力者となればなおさらである。
ただ、いよいよパスカリスともう一度接触する意味はなくなってしまった。もとより相対する気はさらさらないが、彼女らが介入してしまった以上、隠蔽されるか単独犯であった場合に捕らえられるかにしかならない。
もちろん、彼を探ること自体に意味は失われていない。自由に行動できる以上、パスカリスの動向を調べないという選択は存在しないだろう。
「それでは朝の祈祷についてですが」
話は終わり、再び付いてくるように言われる。これから起こすべき行動を思考しながら、私はふと聖女に視線を送るたびに、必ず目が合うことがどうしても気になって仕方がなかった。