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第97話再び森へ09

灰になったゴブリンの集団を眺めつつお茶を飲む。

コユキは私に近寄って来たが、

「きゃふぅ…」(ルーク、くちゃい…)

と言ってライカの背中の上に避難してしまった。

少なからずショックを受け落ち込む。

そんな私を見てみんなが笑い、その場は明るい雰囲気に包まれた。

そして、300ほどの魔石をみんなで拾い集め、その場を発つ。

コユキの鼻を頼りに進んで行くと、すぐに細い沢が流れる場所に出たので、そこで各自体を洗うことにした。

女性陣が体を洗い終え、戻ってきたところで次は男性陣が体を洗いに行く。

沢の水は冷たかったが、戦いで火照った体にはその冷たさがなんとも心地よく感じられた。

体を洗い終え、コユキから合格をもらった所で、野営の準備に取り掛かる。

沢の水でいったん冷えた体にミーニャの作ってくれた温かいスープがほどよく沁み、全員がそこでようやく人心地着いたというような気分になった。


食事が終わりお茶の時間。

「まったく。本番前の準備体操にしちゃなかなかだったわい」

とジェイさんが冗談交じりに愚痴をこぼす。

そんなジェイさんに、アインさんが、

「そういや、そうでしたね」

とこれまた冗談を返すと、その場は笑いに包まれた。

そんな明るい雰囲気の中、交代で体を休める。

その日は、

「ひひん」(この辺に魔獣はいないよ)

と言ってくれるライカの言葉をありがたく思いながら、みんな落ち着いた気持ちでしっかりと睡眠をとった。


翌朝。

いくらかすっきりとした気持ちで目を覚ます。

「おはようございます。ルーク様」

と言いつつ、お茶を出してくれるミーニャを始め、みんなに朝の挨拶をすると、簡単な朝食をつまみながら私が地図を広げてみんなで現状の確認を始めた。

「今いるのがこの辺り。で、フェンリル曰く、コカトリスの縄張りはこの辺りらしい。ということは、おそらく今日か明日には接敵する。いよいよだ。気を引き締めていこう」

と言ってみんなの顔を見る。

その視線にみんなが引き締まった表情でうなずき返してくれるのを確認すると、

「よし。出発しよう」

と声を掛け、私たちはさっそく行動を開始した。


森の中を順調に進んで行く。

ベル先生曰く、あれだけ大きな規模のゴブリンの集団があったのだから当分の間この周辺に魔獣は寄り付かないだろうとのこと。

それにもうすぐコカトリスの勢力圏にもなる。

「おそらくたいした魔獣は出てこんじゃろう」

というベル先生の言葉通り、その日は魔獣に遭遇することなくそろそろコカトリスの縄張り付近だろうかという所で行程を終えた。

野営の準備をしながら、

「どうだ?なにか感じるか?」

とライカに聞く。

すると、ライカは少し不安そうな顔をして、

「ぶるる…」(そろそろかも…)

と私を見ながらそう返してきた。

そんなライカを軽く撫でてやりながら、

「安心しろ。みんながいるからな」

と安心させるような言葉を掛ける。

するとライカは少し安心したような表情になって、私に甘えるように頬ずりをしてきた。


「ははは。よしよし」

と言いながらライカを撫でてやっていると、

「きゃん!」

と鳴いてコユキが抗議の声を上げる。

「ははは。コユキもいい子だぞ」

と言いつつコユキのことも撫でてやっていると、私の中にあった不安も段々軽くなっていくような気がした。

「なんじゃ。平和じゃのう」

と苦笑いしながらベル先生がこちらにやって来る。

そして、私の腕の中で甘えているコユキを優しく撫でて、

「明日も良い子にしておるんじゃぞ」

と言って微笑んだ。

「きゃん!」

とコユキが元気よく返事をする。

その光景を見たみんなの顔にも笑顔が戻り、私たちは緊張の中にもどこかほっとしたような気持ちを持って、その日の夜を迎えた。


交代で見張りをしながら体を休め、迎えた翌朝。

早朝、空が白み始めるのを待ってさっそく行動に移る。

今日の目的地はコカトリスの縄張り内、ここから数時間の場所にある少し広めの草原。

昨日の夜打ち合わせで、

おそらく縄張りに入ってすぐにあちらもこちらに気が付くはず。となれば、なるべく有利な地形で戦える方がいいだろう。

という話になった。

(途中で襲われたら、かなり不利だ。慎重に、しかし、大胆に進んでいかなければな…)

と考えつつ、ライカを先頭になるべく素早く移動していく。

するとその途中、予想通り、ライカが、

「ひひん!」(気づかれたよ!)

と言って敵の接近を教えてきてくれた。


「よし。急ごう」

と伝えて目的地へ急ぐ。

そして、なんとかその草原に辿り着くと、急いで馬を降り、戦闘態勢を取った。


「『旋風』の3人とミーニャは馬たちを頼む。いざという時は頼んだぞ」

と、まずは後衛をお願いする4人に声を掛ける。

4人からはそれぞれ、

「「「おう!」」」

「了解しました!」

と返事が返ってきた。

続いてベル先生に、

「援護は任せた。最初にデカいのを頼む」

と伝えて、

「了解じゃ」

という心強い返事をもらう。

そして最後にジェイさん、アインさん、ノバエフさんに視線を向けると、

「よろしく頼む」

と、ひと言そう伝えた。

「おうよ!」

とジェイさんがニカッと笑いながら拳を突き出してくる。

私はその拳に自分の拳を合わせてこちらも微笑んで見せた。

アインさんノバエフさんともそれぞれ拳を合わせる。

そして、私はゆっくり刀を抜くと、集中力を高め、魔力を練り始めた。


少しの間を置いて、遠くから、

「グギャァッ!」

といういかにも狂暴そうな声が聞こえてくる。

その声を聞いて、ジェイさんが、

「来やがったぞ!」

と言い、ハルバードを構えた。

ノバエフさんがしっかりと盾を構え、アインさんも剣を抜く。

私も油断なく構え、ついにやって来たその相手を待ち構えた。


「ドドド…」

という足音がどんどん大きくなりながら近づいてくる。

そして、ついにコカトリスがその姿を現した。

(ちっ。速い。それに想像以上にデカい!)

と思いつつ、後ろにいたベル先生に、

「頼む!」

と声を掛ける。

するとベル先生から、

「おう!」

という返事が返って来て、また光り輝く魔法の矢がコカトリスに向かって何発も飛んでいった。

「グギャァッ!」

とコカトリスが悲鳴らしきものをあげる。

それを合図に私たちはいっせいに走り出した。

まずは私が風の魔法を放ち、確実に当てるとコカトリスがまた悲鳴を上げる。

しかし、コカトリスにはかすり傷程度の傷しかついていないように見えた。

(硬い…!)

と感じつつ、

(ならば手数か)

と思ってまた刀を振り魔法を放つ。

またコカトリスが悲鳴を上げた。

(よし。効いてる…)

と思った瞬間、コカトリスから魔法の気配が漂う。

私は咄嗟に前線でコカトリスの足を中心に削ろうとしていたジェイさんたちに、

「下がれ!」

と声を掛けた。

ジェイさんたちが慌ててこちらに走って来る。

そして、私の後に入った瞬間、コカトリスの体がひと回り大きく膨らんで、

「ゴケェッ!」

と言う醜い声を上げたかと思うと、無数の羽が私たちに向かって飛んできた。

(なっ!こんなに飛んでくるのか!?)

と驚きつつ慌てて防御魔法を展開する。

私の展開した風の防御魔法はなんとかコカトリスの羽を撃ち落とすことに成功したようだった。

「ゴケェッ!」

とコカトリスが怒りの声らしきものを上げながらこちらに突っ込んでくる。

それに向かって私は、やや慌てて風の魔法を放った。

牽制のつもりで放ったその魔法をもろともせず、コカトリスが突っ込んでくる。

そして、その狂暴な牙が生えた嘴で私を噛み殺そうと襲い掛かってきた。

そこへノバエフさんが突っ込んでくる。

私を襲ってきた嘴はすんでのところでノバエフさんの盾によって防がれた。

しかし、その衝撃でノバエフさんが吹き飛ぶ。

私は思わず、

「大丈夫か!?」

と声を掛けるが、その後ろから、ジェイさんに、

「大丈夫だ。そんなことよりぼさっとすんな!」

と、どやされた。

ハッとしつつも、

「おう!」

と応えてコカトリスに突っ込んで行く。

足を削ってやろうと思ったが、どうやらその攻撃は読まれていたらしい。

コカトリスは突進する私に向かってその凶悪な尻尾を叩きつけてきた。

私は慌ててまた防御魔法を展開する。

すると、またすんでのところでコカトリスの尻尾は止まり、私はなんとか難を逃れることができた。

その隙にジェイさんとアインさんがコカトリスに突っ込んでいく。

そこへまたベル先生の魔法が飛んできた。

コカトリスが嫌がり、羽でその魔法を防ぐような体勢をとる。

魔法はコカトリスの羽に防がれてしまったが、ジェイさんとアインさんの一撃がコカトリスの足を確実に捉えた。

「グギャァッ!」

とコカトリスが汚らしい悲鳴を上げる。

(効いた!)

と思いつつ、私はその攻撃で出来た大きな隙を突いて、ジェイさんたちと同じようにコカトリスの足元に突っ込んでいった。

ジェイさんたちがつけた傷めがけて迷わず刀を振り下ろす。

すると、魔法を乗せた一閃は確実にコカトリスの足を捉え、スパッという感覚を残し、その足を両断した。

コカトリスが悲鳴を上げて、地面に横倒しになる。

そこへまたベル先生の魔法が飛んできた。

「グギャァッ!」

と悲鳴を上げてコカトリスがジタバタと地面の上で暴れ出す。

羽や尻尾がデタラメに振られ、容赦なく地面を叩き、私は一瞬攻めあぐねてしまった。

(ちっ。厄介だな…)

と思っていると、

「隙は作る。仕上げは頼むぞ」

と言ってジェイさんとノバエフさんがコカトリスに向かって突っ込んでいく。

そして、まずはノバエフさんが尻尾を受け止めと、ジェイさんがその先端に近い方にハルバードを思いっきり叩きつけ、尻尾の先を綺麗に斬り飛ばした。

またコカトリスが悲鳴を上げ、一瞬その動きを止める。

私はそれを見て、

(ここだ!)

と直感すると、コカトリスの首元めがけ迷わず突っ込んでいった。

行渾身の力を込めて刀を振り下ろす。

魔法を乗せた一閃がコカトリスの首を落とし、コカトリスはついにその活動を停止した。


「はぁ…はぁ…」

と肩で息をしつつ、コカトリスを見つめる。

よく見ればコカトリスは体だけでも5、6メートルはあろうかという巨体で、尻尾まで入れると、10メートルを超えるのではないかというような大きさをしていた。

(こんなものと戦っていたのか…)

と改めて恐ろしさを感じる。

するとそんな私に、アインさんが、

「おい。旦那。大丈夫か?」

と声を掛けにきてくれた。

「あ、ああ。大丈夫だ」

と答えて拳を軽く突き出す。

すると、アインさんはニカッと笑ってその拳に自分の拳を軽く合わせてきてくれた。


その後、ジェイさんとノバエフさんのもとに行き同じように健闘を称えあう。

「やれやれ。さすがに疲れたわい」

と苦笑いしながら、ジェイさんはその場にどっかりと腰を下ろしてしまった。

私も、その場に座り込む。

そんな私たちのもとにみんながやってきて、それぞれに、

「お疲れじゃったのう」

「お疲れ様でした!」

「まったく。すごいもんだねぇ」

「ええ。とってもすごかったですわ」

「ああ。いい勉強になった」

と声を掛けてきてくれた。

「きゃん!」(ルークやったね!)

と言ってコユキが私の胸に飛び込んでくる。

ライカも、

「ひひん!」

と感激したような鳴き声をあげて、私に頬ずりをしてきた。

「ははは。待たせたな」

と笑顔で言いつつ2人を撫でる。

そんな2人のふわふわとした温もりを感じた瞬間私はこの戦いが無事に終わったんだということを心から実感した。


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