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第104話ナツメも一緒に調査に行こう02

昼食が終わり本格的に森の中へと入っていく。

当然だが序盤は問題無く進み、日が暮れた所で野営の準備に取り掛かった。

料理をミーニャとセリカに任せ、私とベル先生が簡単な設営をしていく。

設営はすぐに終わりセリカが淹れてくれたお茶を飲みながら料理ができるのを待っていると、ベル先生の膝の上で気持ちよさそうに丸くなっていたナツメが起き上がって小さく伸びをし、

「にゃぁ」(さて。今回はどんなものが見つかるかのう)

と、いかにも楽しみという感じで私とベル先生のどちらへともない感じでそんな言葉を掛けてきた。

「私としては新しい穀物が見つかればいいと思っているがな」

と期待を込めてそんな返事をする。

しかし、そんな私に対してベル先生が、

「ああ。今回は割と開けた草原がある方に行ってみようと思っておるが、少し山がちな地形じゃからのう。穀物は難しいかもしれんが、野菜の一つくらいは見つかるかもしれんぞ」

と少し苦笑い気味にそう言ってきた。

私も苦笑いしつつ、

「野菜でもいいさ。とにかく新しい食材が見つかればまた村に新しい味が生まれるからな」

と軽く肩をすくめつつ、冗談交じりにそう返す。

するとそれを聞いたベル先生は、

「ははは。ルークもたいがい食いしん坊じゃな」

と言っておかしそうに笑い、ナツメまでそれに続いて笑いながら、

「にゃぁ」(面白い男よのう)

と言ってきた。

そんな風に談笑しているところへ、

「ご飯ができましたよ」

という声が掛かる。

ベル先生とナツメは、

「お。待っておったぞ」

「にゃぁ」(うむ。腹ペコじゃ)

と言ってさっそく料理をもらいに立ち上がっていった。

私も苦笑いしつつそれに続く。

そして、その日はミーニャとセリカ共作のポトフを食べながら温かい夜を過ごした。


翌日も難なく移動し、翌々日の午後。

いつものようにフェンリルのいる場所へと到着する。

するといつものように突然、

「久しいわね」

と後ろから声を掛けられた。

「にゃぁ」(相変わらず気配を消すのが上手いのう)

と言うナツメと同じ感想を持ちつつ、

「ああ。久しぶりだな」

と答えて振り向く。

「そろそろだとは思っていたけど、また調査?」

と聞いてくるフェンリルに、

「ああ。そうだ。あと、コユキの里帰りも兼ねてるがな」

と言いつつ、抱っこ紐の中からコユキを出してやり、母親のもとへと向かわせてやった。

「うふふ…」

と微笑みながら我が子を迎え入れるフェンリルを見てほのぼのとした気持ちになる。

するとそこへ、ナツメが、

「にゃぁ」(お主も母親になったんじゃなぁ)

と、なんとも感慨深いようなことを言った。

そんなナツメに、

「うふふ。あなたにもそのうちいい弟子ができると思うわよ」

とフェンリルが返す。

そのひと言にナツメは苦笑いを浮かべて、

「にゃぁ」(じゃとよいがのう)

と少しシニカルな感じでそう言った。

少しの間が空き、

「にゃ」(そうそう)

と言ってナツメが話題を変える。

それに、

「なに?」

とフェンリルが応じて話の続きを促がすと、ナツメは、少し胸を張って、

「にゃぁ」(ルークからナツメという名をもらったでな。これからはナツメと呼ぶがよい)

とフェンリルに向かって自分に名が付いたことを告げた。

それに対してフェンリルは一瞬驚きのような表情を見せつつも、

「あら。そうなの。いい名ね」

と言って微笑む。

するとナツメは少し照れたような表情で、

「にゃぁ」(たまにはそういうのもよかろうて)

と苦笑いしながらそう言った。


その後はじゃれ合うコユキとライカをみんなで見守り楽しい時間を過ごす。

フェンリル曰く、ナツメは魔法全般が得意だそうで、特にその膨大な魔力を操作する術に長けているのだとか。

私がそんな話を聞き、

(人は見た目に寄らないというが、この子猫にがなぁ…)

と感心しているとナツメが、

「にゃぁ」(最初はコユキに魔法を教えてやろうと思ってきたが、ついでじゃ、お主とライカにもいろいろと教えてやろう)

と、ありがたいことを申し出てきてくれた。

それに対して私が、

「ありがとう。助かる」

と素直に礼を述べると、ナツメは、

「にゃぁ」(うむ。精進せいよ)

と、いつものように鷹揚な態度で激励の言葉を掛けてきてくれた。


やがて夕暮れが近づき、いつものようにフェンリルが姿を消す。

コユキは、

「くぅん…」

と鳴いて寂しそうにしていたが、私が撫で、ナツメとライカが励ますとどうにか元気を取り戻したらしく、ミーニャの、

「ご飯が出来ましたよ」

という声に、

「きゃん!」

と元気よく返事をして、真っ先にミーニャのもとへと駆け寄っていった。


翌朝。

手早く朝食を済ませ、出発すると、まるでピクニックのような楽しい行程を経て夕方にはフェンリルの縄張りの端の辺りにまで到着した。

「にゃぁ」(わかっておると思うが、ここからは油断できんぞ)

と言うナツメに、

「ああ」

と、しっかりうなずきつつ答えて野営の準備に入る。

その日は交代で見張り番をしながら、ほんの少しだけ緊張して夜を過ごした。


夜が明けて、軽い朝食を手早く済ませて出発する。

コユキはまだ眠たかったのか、抱っこ紐の中に入ると、すぐに眠ってしまった。

そんなコユキを微笑ましい気持ちで軽く撫でてやりつつも気を引き締めて進んでいく。

するとそろそろ一度小休止を挟んでコユキを起こしてやろうかと言う頃。

「ひひん!」(なんかいるよ!)

とライカが言い、私の胸元からも、

「きゃうん…」(くちゃい…)

というコユキの声が聞こえてきた。

「にゃぁ」(ゴブリンじゃの)

と、いかにも面倒くさそうに言うナツメの声に、

「ああ。面倒じゃが放っておくわけにもいくまいて」

とベル先生がげんなりとした感じで答える。

私も、

(あいつらはどこにでも湧いてくるよな…)

と思い密かに苦笑いをしていると、私たちの後から、

「ゴブリン程度であればお任せください」

とセリカが声を掛けてきた。

「いいのか?」

と言う私に、

「問題ありません」

とセリカが自信ありげな言葉を返してくる。

私はそれにうなずいて、

「じゃぁ、頼んだぞ。ミーニャもいいか?」

と声を掛けた。

「「はい!」」

と二人がどこか嬉しそうに返事をする。

それを聞いて私は安心しつつ、さっそくライカにお願いして、ゴブリンがいる方へと向かってもらった。

しばらく行くと、私にもわかる痕跡を発見する。

そこからはセリカとミーニャが先行してその痕跡を追っていった。

やがて、先頭をいっていたセリカが馬を止める。

セリカとミーニャはうなずき合って馬を降り、

「では行ってまいります」

とひとこと言って森の奥へと進んでいった。

私とベル先生も馬たちを連れ、その後をゆっくりついていく。

するとしばらく行った所で、15匹ほどのゴブリンがたむろしているのを発見した。

ミーニャとセリカがお互いに軽くうなずき合い、剣を抜く。

そして、ゴブリンたちめがけて一気に駆けだすと、驚くゴブリンたちを次々と斬り裂いていった。

見ると、素早さと手数で勝負するミーニャに対してセリカはやや重たい剣で着実に一刀のもとゴブリンを仕留めている。

二人の連携もそれなりに作用しているらしく、ミーニャが動き回って足止めしたゴブリンをセリカが確実に仕留めていくという感じで次々とゴブリンを倒していっていた。

(これなら安心だな…)

と思いつつ見ていると、ベル先生も、

「ほう。なかなか良い剣筋をしておるわい。これなら荷物持ちには十分じゃわい」

と嬉しそうにそんな言葉を発する。

(どうやらベル先生のお眼鏡にもかなったようだな)

とそちらにも安心して二人を見守っていると、やがて戦闘は終わりすべてのゴブリンが沈黙していた。

「終わりました!」

と明るく言ってくるミーニャに対してセリカは、

「後片付けをしますのでもう少々お待ちください」

と少し遠慮気味に言ってくる。

そんな二人に私は、

「片付けは私も手伝おう」

と言って二人と一緒にゴブリンを一か所にまとめ始めた。

やがて、小さなゴブリンの山ができ、私が火魔法で火をつける。

それを見ていたナツメが、

「にゃぁ」(火魔法は苦手か?)

と私に声を掛けてきた。

「ん?ああ、なんというか…。どうも何も無い所から火が出てくるっていうのが想像しにくくてな…」

と少し肩をすくめながらそう答えると、ナツメは、

「にゃぁ」(うむ。最初のうちはそれで苦労するものじゃ。単に火を想像するのではなく、空気が熱を持って炎が上がるということを想像してみるとよいぞ。…まぁ、最初は想像しにくいじゃろうが、慣れればできるようになるじゃろう。これからも精進せいよ)

と、私に火魔法のコツらしきものを教えてくれた。

私はそれを聞いて、

(なるほど。…物が燃えるっていうのは確か酸化だったよな…。可燃物が急激に酸化する…。水素とか炭素だったか?それが急に酸化すればいいんだから、要するに魔法を想像する時に分子とか原子とかを想像すればもっと効率良く魔法を使えるのかもしれんな…)

と、なんとなく思いつく。

そして、

(だとすると、いろんなことに応用が利きそうだが…)

ということに気が付き、ついつい考え込んでしまった。

そんな私に、ナツメが、

「にゃぁ」(まぁ、そう一朝一夕にできるものではないからの。ゆっくりやればよい)

と言葉を掛けてくる。

私はその言葉に、

「ああ。そうだな」

と苦笑いで答え、いったん頭の中で魔法に関して考察するのを止めた。


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