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第105話ナツメも一緒に調査に行こう03

しばらくしてゴブリンが灰になると、適当に魔石を拾ってまた森の奥を目指しくいく。

まずは近くの水場を目指し、そこで昼にすることにした。

目的地に着き、簡単に作ったサンドイッチを食べながらミーニャ、セリカと少し話をする。

「二人は知り合いだったのか?」

と聞くと、ミーニャがどこか嬉しそうに、

「幼馴染なんですよ。ルーク様がいらっしゃる前は何度か訓練で一緒に戦ったこともあります」

と答えてくれた。

「そうか。どうりできちんと役割分担が出来ていたわけだな」

と言ってなんとなく納得していると、その言葉を聞いたセリカが少し悔しそうに、

「今日戦ってみて、ミーニャとの力の差が出来ていることを感じました。これからはもっと精進しないとダメですね」

と言って困ったような苦笑いを浮かべる。

そんなセリカを見て、私は、

(真面目な性格なんだな…)

と好感を持ちつつ、

「ははは。私が見た感じだとそんなに力の差は感じなかったぞ?おそらくここ最近ミーニャは私の供でいろんな経験をさせてしまったから場慣れしたんだろう。セリカもベル先生のお供で場数をこなしていけばそのうち同じように落ち着いて戦えるようになるさ」

と少し慰めのような言葉を掛けた。

その言葉を聞いたセリカが、表情を引き締め、

「早く追いつけるよう、精進します」

と、やる気のこもった言葉を返してくる。

そんなセリカに今度はベル先生が、

「セリカは真面目じゃのう」

と嬉しそうにそう言って「はっはっは」とやや豪快に笑った。


束の間の休息を経て再び森の奥を目指す。

するとまたライカが、

「ぶるる」(いるよ)

と言って魔獣が近くにいることを教えてくれた。

その言葉に私は緊張の度合いを高めていると、横からナツメが、

「にゃぁ」(どれ。ここはひとつ魔法の手本でも見せてやろうかのう)

と言ってくる。

思わず、

「え?」

と言うとナツメは小さく「ふっ」と笑うような表情を見せてから、

「にゃぁ」(なに。この辺りで出てくるとなればおそらくオークか狼のどちらかじゃろうて。問題にもならん。まぁ、効率良く魔法を使うとこんな戦い方もできると言う見本を見せてやるからよく見ておくのじゃぞ)

と、まるで教官のような物言いでそう言ってきた。

私は少し戸惑いつつも、

「…ああ。よろしく頼む」

と答える。

すると、ナツメは、

「にゃ」(うむ)

と一つ鷹揚にうなずいてから、

「にゃぁ」(そうと決まればさっさといくぞい)

と、みんなにそう声を掛けた。


ナツメとベル先生が乗った馬を先頭にさくさくと進んでいく。

どうやらナツメも魔獣のいる方向がわかっているらしい。

そうやって進んで行くうち、私にもなんとなく魔獣の気配がわかるようになってきた。

「にゃ」(近いぞ。オークじゃな)

というナツメの声が前方から聞こえてくる。

足下をよく見れば、たしかにオークらしい痕跡が点々と続いているのが分かった。

私の緊張を他所にベル先生とナツメを乗せた馬はいかにも気楽そうにその痕跡を追って進んでいく。

(おいおい。そんなに油断していて大丈夫なのか?)

と一瞬心配にも思ったが、すぐに、

(まぁ、ベル先生が心配してないなら大丈夫なんだろうな…)

と思い直して、密かに苦笑いを浮かべた。


やがて気配が濃くなり、オークの姿がチラリと見える。

するとナツメがやや小さい声で、

「にゃぁ」(なるべくゆっくりやるから、よく見ておくのだぞ)

と言い、馬からぴょんと飛び降りた。

ナツメは落ちついた様子でトテトテと、いかにも子猫らしいあどけない歩調でのんびりとオークがいる方へと近づいていく。

私たちも馬を降り、その後から気配を消しながら慎重に近づいていくと、やがて接敵するかという所で、ナツメが、

「にゃ」(いくぞ)

と短くそう言い、ものすごい速さでオークの方へと駆けていった。

一瞬でナツメがオークのもとに辿り着く。

(な!?おい…)

と私は目で追うのがやっとと言う感じで見ていると、ナツメはいきなり飛び上がり、一匹のオークの頭に着地した。

その瞬間、わずかな出血とともにオークが声もなく倒れる。

オークは全部で三匹いたが、残りの二匹は突然のことにぽかんとしているだけだった。

続いてナツメがまた飛び上がり残ったオークのうち一匹の肩の辺りに降り立つ。

するとその乗られたオークも首筋の辺りからわずかに出血したかと思うと、声も無く倒れた。

残りの一匹がやや慌てる。

しかし、その慌てている個体もすぐに胸の辺りを抑えるとまた声も無く倒れてしまった。

私はその光景を呆気に取られて見る。

私が心の中で、

(おいおい。なんだこれ…)

と思って若干混乱していると、横からベル先生が、

「相変わらず器用じゃのう…」

と感心したような、呆れたような声でそう言った。

私はまだ唖然としながら、

「なにがあったんだ?」

と訊ねるとベル先生は苦笑いを浮かべ、

「なに。要するに身体強化を上手く使って素早く移動したあと、極限まで絞った最低限の魔法で確実に急所を突いたというだけのことじゃ」

と何気ないような感じでそう言ってきた。

(え?)

と思いながら再びオークの方に目を向ける。

すると、倒れたオークが一瞬で炎に包まれる様子が目に飛び込んできた。

その炎を背にまたトテトテとあどけない歩調でナツメが私たちのもとに戻ってくる。

そして、ナツメは、私の前まで来るとちょこんとすわって、

「にゃぁ」

と、どこか誇らしげにひとつ鳴き声を上げたあと、

「にゃ」(まぁ、こんなもんじゃ)

と言って猫らしくクシクシと前脚で髭の手入れをし始めた。

「すまんが、解説してもらえるか?」

と言う私に、ナツメは、

「にゃ」(うむ)

と、おもむろにうなずく。

そして、

「にゃぁ」(まず、身体強化じゃが、あれは知っての通り自分の体の中に魔力を循環させて各機能を向上させるというものだ。だから、より効率良く循環できればもっと簡単に身体能力を向上させることができる。もちろん、生まれ持った才能や魔力量によるが、お主の場合、精進すればオークを飛び越えるくらい簡単にできるようになるじゃろう)

と言い、チラリと私の方を見た。

私は、

(…それはどうだろうか?)

と半信半疑ながらも一応うなずき返しておく。

すると、ナツメは少し苦笑いを浮かべつつも、

「にゃぁ」(攻撃もそうじゃ。無駄に魔力を使って大きい魔法を繰り出せばいいというものじゃない。常に必要最低限のもので最大の効果を得るように意識するだけで、戦いはより楽になる。よいか?上を目指すというのはより強力な力を求めるということだけではない。自分の持つ能力を最大限に使うということも強さの一つなんじゃよ)

と目から鱗が落ちそうなことを言ってくれた。

「なるほど…」

と今度こそ納得しつつうなずく。

するとナツメは満足そうにうなずき、

「にゃぁ」(まぁ、すぐには難しいじゃろうが、これを意識するだけで稽古の質が変わって来るじゃろう。ああ、あと、後ろのお嬢ちゃんたちもそうじゃぞ?自分の力を効率良く使うというのはなにも魔法に限った話じゃない。剣の道にもきっと同じような高みがあるはずじゃ。これからはそこを意識して稽古するとよいぞ)

と言い、私の後にいたミーニャとセリカにも助言してくれた。

「勉強になります!」

とミーニャがどこか感動したように言い、セリカも重々しくうなずく。

それをみたナツメは、

「にゃ」(うむ。精進せいよ)

と満足げにそう言うと、再び軽々と馬の上に飛び乗り、またクシクシと髭の手入れを始めた。


(なるほど。いろいろな高みがあり、それぞれに果てしないものだな…)

と感慨深く思いつつライカに跨らせてもらい、さらに森の奥を目指す。

そして、日が暮れかかった頃。

適当に開けた場所を見つけたのをきっかけにそこでいったん荷を下ろし、野営の準備に取り掛かった。

ミーニャとセリカが作ってくれたスープを飲み、パンをかじって夕食を済ませる。

そして、食後のお茶の時間。

満腹になって私の膝の上でうとうとしているコユキを撫でてやりつつ、これからのことを考えた。

(領としても目指すべきところはまだまだ遠い。そして今日、私自身が目指すべき場所もまだまだ遠くにあることが改めて分かった…)

と考えると、やや気の重い感じがしつつも、どちらかというとワクワクしたような気分の方を大きく感じている自分に気付く。

そんな自分に自分自身で、

(なんとも真面目なもんだな)

と軽くツッコミを入れつつ、苦笑いでお茶をすする。

そんな私にベル先生が、

「まぁ、ゆっくりやればよいじゃろう」

と、まるで私の心を読んだかのようにそんな言葉を掛けてきてくれた。

「ああ。着実に一歩ずつ進んでいくさ」

と答えてまたお茶をすする。

そんな私に、ベル先生は軽く苦笑いを浮かべつつ、

「真面目な男よのう」

と少しおかしそうな表情でそんなことを言ってきた。


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