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第112話初めてのリザード01

我が家でアイスクリーム革命が起きた翌日。

役場で仕事に勤しんでいると、そこへジェイさんがやってきていろいろと質問してきたので、以前より効率良く魔法を使えるようになったことや、度数の高い酒は凍らないから、塩と氷を使えば酒を薄めることなくキンキンに冷やせるようになるんじゃないか?というようなことを伝える。

すると、ジェイさんは目から鱗というような表情になって一目散に長屋へと戻っていった。

そんなジェイさんを見送ってまた書類に目を通し始める。

するとしばらくして今度は衛兵隊のハンスがやって来た。

「失礼します」

と言って軽く敬礼らしきものをするハンスの様子を見て、緊急事態ではなさそうだと思いつつも、わざわざ私の報告しに来るということは何かあったのだろうと思って少し緊張しつつ、

「どうした?」

と聞く。

そんな私の態度を見てハンスはすぐに、

「あ。いえ。そんなにたいしたことじゃないんですが…」

と苦笑いしつつ、

「そろそろイノシシの魔獣が活発に動き始める頃なんで、またご一緒に狩りなんてどうかと思ってお誘いに来たっす」

と、いつもの気さくな感じでそう言ってきた。

私はその言葉を聞いてほっとしつつ、

「ああ。そうか。とりあえず緊急事態じゃなくてほっとした。…そうだな。2、3日後なら予定も開けられるだろうから、それでいいなら是非参加させてくれ」

と返す。

するとハンスはいつものようにニカッと笑って、

「了解っす。じゃぁ、3日後にしましょう。ご面倒ですが、衛兵隊の拠点まで来てもらえると助かるっす」

と言って、また軽く敬礼のようなものをして執務室を後にしていった。


その後は普段通り仕事をこなし、夕日が執務室の中を橙色に染め始めたのを合図に屋敷に戻る。

そして、夕食の時、みんなに狩りに行くことを告げた。

「きゃん!」(お散歩!)

と言って喜ぶコユキに、

「おいおい。遊びに行くわけじゃないぞ?」

と言葉を掛けて窘める。

しかし、コユキは、

「きゃん!」(うん!)

と返事をしつつも、尻尾をブンブンと振って、どこか興奮したような仕草を見せてきた。

そんなコユキの態度に苦笑いを浮かべつつ、

「ははは。仕方ないな…」

と言って興奮気味のコユキを落ち着かせるように軽く撫でてやる。

そんな私たちを見て家族のみんなもなんだか微笑ましいような笑みを浮かべ、その日の夕食も楽しく進んでいった。


それからは何事も無い日々が続き、予定通り狩りに行く日を迎える。

私は朝早く、まだ半分以上眠っているコユキを抱っこ紐の中に入れてやると、家族のみんなに、

「じゃぁ、行ってくる」

と簡単に出発の挨拶をしてライカに跨った。

途中、朝日が完全に昇りきった頃。

胸元から、

「きゃぅ…」

とコユキのあくびが聞こえてくる。

私がそっと抱っこ紐の中に手を入れ、小さく、

「おはよう」

と言いながら撫でてやると、コユキは、

「きゃぅ…」(ごはん?)

と寝ぼけた感じでそう言ってきた。

「ははは。朝の分も弁当を持ってきたから衛兵隊の拠点に着いたら朝ごはんにしよう」

と言ってまたコユキを軽く撫でてやる。

すると、コユキは、

「きゃぅ…」(うん…わかったー…)

と寝ぼけたまま返事をし、またスースーと息を立てて眠ってしまった。

(仕方ないなぁ…)

と苦笑いしつつライカの背に揺られあぜ道を進む。

そして、早朝から仕事に励む村人たちに挨拶をしながら進んでいると、やがて衛兵隊の拠点に着いた。

さっそく拠点の中に入り、待ってくれていたらしいハンスに、

「おはよう」

と声を掛ける。

するとハンスはいつものように明るく気軽な感じで、

「おはようございます。準備は出来てるっす!」

と元気に挨拶を返してきてくれた。

そんなハンスに、

「ああ。わかった。ただちょっとだけ待ってくれないか?うちのコユキに朝ごはんを食べさせてやらんといかんからな」

と苦笑いでやや申し訳なさそうにそう伝える。

するとハンスは、

「あはは。じゃぁ、お茶でも持ってきますよ」

と快活に笑いながらそう言って、さっそくお茶を取りに指揮所の中へと入っていった。

そんなハンスを見送りつつライカから降りる。

そして、抱っこ紐の中からコユキを出してやりつつ、

「ご飯だぞ」

と声を掛けると、コユキは、

「きゃふぅ…」

と大きなあくびをして、ようやく起きて来てくれた。

「ははは。おはよう」

と笑いながら朝の挨拶をし、

「…きゃん」(…おはよう)

と、まだ少し眠そうにしながらも挨拶を返してきてくれたコユキを軽く撫でてやり、さっそく荷物の中から弁当箱と皿を取り出す。

すると、コユキが、

「きゃん!」(ごはん!)

と元気よく言って私にぐりぐりと頭をこすりつけてきた。

「ははは。やっとお目覚めだな」

と笑いながら、その辺に置かれているベンチに腰掛ける。

そして、さっそく弁当箱を開けると、卵焼きとおにぎりを皿に取り分けてやって、

「ほら。ちゃんといただきますしてから食べるんだぞ」

と言ってまずはコユキに朝ごはんを差し出してやった。

「きゃん!」(いただきます!)

と言ってさっそく卵焼きにかじりつくコユキを微笑ましく眺めつつ、私もおにぎりを口に運ぶ。

そこへハンスが、

「ははは。美味そうっすね」

と笑いながらお茶を持ってきてくれて、私たちはゆっくりと朝食を食べさせてもらった。

やがて朝食を終えると、

「すまん。待たせたな」

とハンスに声を掛け、さっそく出発する。

ハンスの他に人はいない。

どうやら今回は私とハンスだけで森に入るようだ。

そのことに関して、ハンスに聞いてみると、

「ああ、大丈夫っすよ。今回は奥まではいかないっすから」

といかにも気軽な答えが返って来た。

(そんなもんなんだろうか…)

と多少は不安に思いつつも、

(まぁ、危ないと思ったら逃げればいいだろう)

と私も気楽に考えて、森への道をややのんびりとした気持ちで進んで行った。

やがて、森に入りある程度進んだところで昼にする。

今回はあまり料理が得意じゃないというハンスの申し出を受けて私が作ることにした。

とはいえ、私もさほど料理が得意というわけではないからベーコンを炙ってパンに挟んだだけの簡単なサンドイッチで昼を済ませる。

そんな昼食にやや不満そうな顔を見せたコユキを、

「帰ったら美味しいご飯が待ってるからな。しばらくは辛抱してくれ」

と言って宥めつつ私たちは森の奥を目指して進んでいった。


やがて、日が暮れかかったところで野営の準備に取り掛かる。

夕食は少し頑張ってポトフらしきものを作った。

自分で作ったスープを飲み、

(ミーニャの足元にも及ばんな…)

と当たり前の感想を持ちつつ、その普通のスープを腹に詰め込む。

それでもハンスは、

「野営中にこれだけのものが食えれば十分っすよ」

と言って美味しそうに食べてくれた。

(そのうち美味しい行動食を開発したら衛兵隊に喜ばれるかもな…)

というようなことを考えつつ、その日は交代で体を休める。

そして翌日。

昨日の残りのスープとパンで朝食を済ませると、私たちはこの時期イノシシがよく現れるという狩場を目指して森の中を進んで行った。


しばらく進み、小さな水場に出る。

「ここから2時間くらいで狩場に着くんで、ちょっと早いですけど昼にしちゃいましょう」

と言うハンスの意見に従って、簡単に行動食で昼を済ませる。

またしてもコユキは不満そうな顔を見せたが、今度は私に加えてライカも、

「ひひん」(お仕事中なんだから今は我慢だよ。帰ったらエリーに美味しいご飯作ってもらおうね)

と言ってコユキを宥めるのに協力してくれた。

そんなライカに礼を言い、軽く撫でてやってからその場を発つ。

すると、しばらくしてハンスが足を止め、

「あそこっす」

と言って、前方に広がるこんもりとした森を指さした。

私は少しきょとんとしつつも、

「あの森に何かあるのか?」

と聞く。

するとハンスはうなずいて、

「あの森の中にちょっとした池があるんすよ。そこにイノシシが水を飲んだり泥浴びをしにきたりするんで、そこを待ち伏せて狩る感じっすね」

とこれからの作戦を教えてくれた。

「なるほどな…」

と、うなずいてハンスの後に続く。

そして、そのこんもりとした森の中に入ると、

「ここからは気取られないように慎重に行くっすよ」

と言うハンスの指示にしたがって、慎重に歩を進めていった。

やがて、ほんの少し小高くなった斜面から問題の池を見下ろす。

しかし、そこにイノシシの姿は無かった。

「ちょっと様子見っすね。夕方まで待って出てこなかったらちょっと場所を移して野営にしましょう」

と言うハンスの指示にうなずき、そっと身を潜める。

そして、そろそろ午後の日が傾き始めようかという頃。

その池のほとりに姿を現したのはイノシシではなく、5匹ほどのトカゲの怪物だった。


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