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第114話初めてのリザード03

それから10日ほど経った頃。

役場でエバンスからの報告を受ける。

報告では、やはりリザードの数が増えているらしい。

ただし、エバンス曰く、オークやゴブリン、その他の魔物に異常は無いから、おそらく異変があるとすれば奥地の方だろうという事だった。

その報告を聞いた私が、

「では近いうちに奥の様子を見に行って来よう」

と言うと、エバンスが、

「僭越ながら…」

と前置きをしたうえで、

「今回の討伐には衛兵隊を加えていただきたく存じます。いつもルーカス様たちに頼りっぱなしでは衛兵隊の面目も立ちませんし、なにより衛兵隊の実力の向上につながりませんので」

と真剣な目でそう言ってきた。

その言葉を聞いて、少し迷う。

(果たして、みんなを危険な目に合わせていいんだろうか…)

という考えが先に立った。

しかし、すぐに、

(みんなを危険な目に合わせるわけにはいかんと思って行動してきたが、たしかにこのやり方だと衛兵隊のみんなからすれば信頼されていないように感じるのかもしれん。だとすればそれは衛兵隊の士気にも関わってくるな…。それに、エバンスの言う通り衛兵隊の実力の向上も図ってやらねばならん…)

と考えなおして、エバンスを見る。

するとエバンスはなにやら真剣な目を私に向けたまま、

「お願いいたします」

と言って頭を下げてきた。

その言葉に、

「わかった。私こそすまない。どうやら私はまだ指揮官として未熟だったようだ」

と答えて苦笑いを浮かべる。

そんな私にエバンスは、

「ありがとうございます」

というと、また深々と頭を下げてきた。


そんなやり取りの後、さらなる情報収集を指示してベル先生のもとに向かう。

薬院に着くと、玄関で掃き掃除をしていたセリカがすぐに気が付いて私を応接室に通してくれた。

しばらくするとナツメを抱いたベル先生とお茶を持ったセリカが応接室に入ってくる。

そして、ベル先生は応接室に入って来るなり、

「どうだった?」

と状況を聞いてきた。

私はエバンスから聞いたことをそのまま伝える。

すると、ベル先生は、難しい顔をしながら、

「グレートリザード辺りがいるかもしれんな。ああ、グレートというのはロードみたいに他の個体より大きなリザードのことじゃが、そこまで統率力がある訳じゃない。ただの群れの長という感じじゃな」

と言って私に今回の敵がグレートリザードという存在である可能性を教えてくれた。

「どんな特徴があるのか教えてもらってもいいか?」

という質問すると、今度はナツメが、

「にゃぁ」(ほんのちょっとじゃが、魔法が効きにくい。魔力でごり押しすればいけんことも無いが、組織で戦うなら盾と連携して剣で斬るのが良いじゃろうな)

とグレートリザードの特徴を教えてくれた。

「ありがとう」

と言って軽く頭を下げる。

そして、

「いつにする?」

と当然自分たちも行くと言ってくれるベル先生とナツメに、

「いや。今回は私と衛兵隊に任せてくれないか?」

と今回は自分たちの力だけでなんとかしたいということを伝えた。

その言葉を聞いてベル先生は少し驚いた顔をしたが、

「まぁ、そうじゃな。グレートリザ―ドなら問題あるまい。しかし、オークの時と同じようにかなりの数がおるから人数はそれなりに用意していくんじゃぞ?」

とひと言忠告してくれた。

また、

「ありがとう」

と言って頭を下げる。

すると、ベル先生は、少し照れたような苦笑いを浮かべ、

「なに。極力、自分たちの力でなんとかしようとすることは悪いことじゃなかろう。まぁ、留守の間のことは任せておくがよい」

と言ってくれた。

そんなベル先生とナツメにもう一度礼を言い、薬院を後にする。

そして、私はいったんキリのいい所まで仕事を片付けると、その日は早めに屋敷へと戻って行った。


それからさらに10日ほど。

徐々に情報が集まって来る。

それらの報告によると、どうやら森の奥を西に向かうにしたがってリザードの数が増える傾向があるのだとか。

その報告を聞きながら、エバンスに、

「怪しい場所は?」

と聞くと、エバンスは地図の一点を指し、

「この辺りに池がいくつか点在している箇所があります。おそらくは…」

と言って私に視線を送って来た。

その視線にうなずき、

「行くか?」

と訊ねる。

その問いにエバンスは、少し考え込むような素振りを見せ、

「もう少し、敵の情報をしっかり入れたいところです。斥候をやって詳細を把握させましょう」

と言った。

私はそんなエバンスにうなずき返しつつも、

「そうだな。こちらの戦力を整えるにしても、相手の状況を把握する必要はあるし、集団での戦いとなると、それなりの陣形も必要だ。よし、もう少し情報が集まるまで待とう。しかし、わかっていると思うが…」

と言ってエバンスに少し真剣な目を向ける。

その視線を受けてエバンスは、

「はい。のんびりするつもりはありません。早急に状況を探らせるのと同時にある程度の準備は整えておこうと思っております。斥候が帰ってきたらすぐにでも行動を起こせるようにしておきます」

と重々しくうなずきながらそう言ってくれた。

その後も軽く打ち合わせをしてエバンスが執務室を辞していく。

私はそれを見送り、

「ふぅ…」

と軽く気合を入れるように息を吐き、まずは目の前にある書類を片付け始めた。


その日の夜。

食後のリビングで父に状況を報告する。

父は色々と言いたそうな顔をしていたが、結局はそれらの言葉を飲み込んで、

「留守中のことは心配いらん。任せたぞ?」

とだけ言ってくれた。

そんな父の言葉に私は重い責任を感じつつも、同時に、信じて任されたという嬉しさを感じ、

「はい」

と短く、しかし、力強くそう返事をした。

それからまた10日ほどが過ぎる。

季節はそろそろ夏から秋へと移り変わろうとしていた。

ここ数日、私は、

(そろそろだろうか…)

と思いながらもとりあえず目の前の仕事をこなしていく日々を送っている。

その日も、そんなそわそわとした気持ちを抑えるかのように目の前の申請書を片付けていると、エバンスがハンスを伴って役場にやって来た。

「斥候が帰ってまいりましたので状況をご報告いたします」

といつになく真面目な口調でそう言うハンスから話を聞く。

どうやら斥候隊を率いたのはハンスらしく、リザードたちが群れている地域やその数を詳しく教えてもらった。

その報告によると、一番大きなリザードの群れはやはり当初睨んでいた通り、いくつかの池が点在する地点の中央付近だったと言う。

数は正確にはわからないが、一番大きな群れでは50近くいるだろうとのことだった。

その他にも小さな群れがいくつかあるようで、その数は合わせると100近い数になるのではないかという報告を受ける。

私はその数を聞いて、少し慄きながらも、

(ゴブリンロードの時よりは少ないな…。それにグレートリザードは群れを作るだけで、統率はしないという話だったから、それぞれの隊がその小さな群れの相手をして各個撃破していけば切り抜けられるだろう…。ということは、その一番大きな群に主力をぶつけても問題あるまい)

と落ち着いて考え、

「わかった。各組5人程度で小隊を編成してくれ。周りの雑魚どもはその小隊が討伐に当たって各個撃破してくれれば問題無いだろう。ハンスはその陣頭指揮だ。グレートリザードは私とミーニャが相手をしよう。すまんが、盾役を何人かつけてもらえると助かる」

とエバンスに作戦を提案した。

「かしこまりました。それで問題無いかと思います。では急ぎ部隊を編成して準備を整えます。出発はいつになさいますか?」

と聞いてくるエバンスに、

「そうだな。早ければ早いほどいい。3日くらいあれば準備出来そうか?」

と逆に聞き返す。

すると、エバンスは一瞬だけ考えるような素振りを見せたが、

「大丈夫です。では3日後に出発いたしましょう」

と言って、うなずいてくれた。

作戦が決まり、エバンスとハンスが執務室を辞する。

私は、それを見送り、また、

「ふぅ…」

と短く気合を入れるように息を吐くと、

(まずは目の前の書類からだな)

と心の中でつぶやいて、目の前の書類を片っ端から片付けていった。


やがて、日が暮れたのを合図に屋敷に戻っていく。

その日の夕食の席で出発が3日後になったことをみんなに伝えると、それぞれの顔に、はっきりと緊張の色が浮かんだ。

「大丈夫だ。さっさと終わらせて帰って来るさ」

と、あえて軽く言う私に、

「あの…」

と遠慮がちにエリーが話しかけてくる。

「ん?なんだ?」

と、また軽い感じで答えると、エリーは、少し照れたような感じで、

「また、お守りを作りましたの。持って行ってくださいますか?」

と言ってきた。

「おお。それはありがたい。是非持って行かせてくれ」

と少し大げさに喜んで見せる。

そんな私にエリーは少しはにかんだような笑顔を見せると、

「では明日お持ちいたします。今回はけっこう良く出来たんですよ」

と言ってくれた。

そんな会話でほんの少し場の空気が和む。

私はそんなエリーの優しさをありがたく思いながら、いつものように美味しく夕食をいただいた。


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