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第117話長閑な秋の一コマ01

グレートリザードの討伐を終えて、帰路に就く。

討伐に参加したみんなの表情は明るく、オークやゴブリンといったいつもの魔獣と軽く遭遇した以外は何事も無く無事村に辿り着くことが出来た。

「お疲れ様っした!」

と、いつもの明るい調子で言ってくれるハンスに、

「ああ。宴会の準備が出来たら声を掛けるからな」

と声を掛け返し村の入り口で別れる。

そして、長閑なあぜ道を屋敷に向かって歩いていると、途中でジェイさんたちに出会った。

「おう。トカゲはどうだった?」

と気軽に聞いてくるジェイさんに苦笑いで、

「ああ。無事に討伐できたよ」

と答える。

そんな私にジェイさんが、

「そろそろ新酒が出来る。まだ若いからそこまで期待はしないで欲しいが、それでもかなり美味いぞ。どうだ?今回の討伐に参加したやつらに一足先に振舞ってやらねぇか?」

と、かなり魅力的な提案をしてきてくれた。

「おお。それはいいな。よし、じゃぁ一樽頼む」

と即答する。

するとジェイさんはニカッと笑って、

「ああ。わかった。明日にでも屋敷に届けに行くぜ」

と言うと、

「ああ。そのついでに飯を食わせてくれねぇか?久しぶりにカツが食いてぇ」

と、いかにも今思いついたかのようにそう言ってきた。

私はもちろん、

「ああ。わかった。伝えておこう」

と言ってその場は別れる。

そして、屋敷の門をくぐると急いで屋敷の中に入っていくバティスの姿を確認して、まずは厩に向かった。

「今回もありがとうな」

と言ってライカを撫でてやり荷物を下ろしてやる。

すると、そこへバティスが小走りにやって来て、

「今、お風呂を準備させております。荷物は私がやっておきますので、どうぞおくつろぎになってください」

と言ってきてくれた。

「そうか?すまんな」

とバティスに軽く礼の言葉を述べ、ミーニャと一緒に手に持てるだけの荷物を持って屋敷の中へと入っていく。

そしてまずはリビングに向かい、そこでお茶を飲んでいた父に、

「無事、帰りました」

と帰還の挨拶をした。

「ああ。無事で何よりだ」

と言って微笑む父の正面に座りさっそく自分の仕事を始めたミーニャからお茶をもらう。

そんなミーニャに私は、

「すまんな。疲れているだろう。後のことはエマに任せて部屋で休んでいてくれ」

と伝える。

しかしミーニャは、

「じゃぁ、お風呂の準備のお手伝いをしてきますね!」

と元気な感じでそう言うとさっそくリビングを出て家事を手伝いにいってしまった。

そんなミーニャを苦笑いで見送り、父に今回の討伐の詳細を話す。

父は衛兵隊が十分に活躍してくれたことを満足に思ってくれたらしく、

「よかった。これで、やつらも自信がついただろう」

と言ってニッコリと笑ってくれた。

私も任務を終えた後の衛兵隊の面々の笑顔を思い出しつつ、

「ええ。これからはもっときちんと頼りにして頑張ってもらうことにします」

と苦笑いで答える。

そんな私に父は、

「ゆっくりで構わん。きちんと信頼関係を築いていけ」

と、ひと言ありがたい忠告をしてくれた。

そんな父に頭を下げたところで、リビングの扉が軽く叩かれる。

すると真っ先にコユキが反応して、

「きゃん!」(エリー!)

と喜びの声を上げて扉の方へとトテトテ駆け出していった。

エリーが扉を開け、

「うふふ。おかえりなさい」

と微笑みながら腰をかがめてコユキを迎え入れる。

そんなエリーに向かってコユキは勢いよく飛び込んで行くと、エリーの胸に頭をぐりぐりと擦り付けて、

「きゃうーん」

と甘えたような声を出した。

「うふふ。お疲れ様」

と声を掛けてエリーがコユキを撫でる。

そして、エリーは私の方にも視線を向けると、ニッコリと微笑みながら、

「おかえりなさいませ」

と優しい口調でそう言ってくれた。

「ああ。ただいま」

と返して目を細める。

その光景を見てマーサも目を細め、

「まずはお茶をお淹れしますね。あと、昨日お嬢様がお作りになったリンゴのパイがまだありますから、そちらもお持ちいたしましょう」

と言ってさっそくエリーの分のお茶を淹れてくれた。

そして、そのリンゴのパイを取りに奥に下がっていく。

私はそんなマーサを見送ると、改めて、

「お疲れ様でした」

と言ってきてくれるエリーに、

「ああ。これのおかげで無事だったよ」

と言って左腕につけてある腕輪を掲げて見せた。

「よかったですわ…」

と言ってエリーが目を細める。

その表情はどこまでも優しく、慈愛に満ちていた。

そんなエリーの表情を嬉しく思いつつ、

「これは家宝にせねばな」

と半分冗談でそんなことを言う。

するとエリーは一瞬驚いたような顔を見せつつも、すぐに「うふふ」と笑って、

「大事にしてくださいましね」

と言い、私にいたずらっぽい視線を送って来た。

「はっはっは。末代までの家宝にしよう」

と言って少し大げさに笑う。

すると、エリーもさもおかしそうに、

「うふふ…」

と笑って、その場が明るい空気に包まれた。

そこへマーサがリンゴのパイを持ってきてくれる。

それを見たコユキがさっそく、

「きゃん!」(美味しそう!)

と言ってパイに食いつこうとしたが、そこへマーサが、

「食べる前に『いただきます』をしましょうね。あと、食べる時はこぼさないようにお上品にですよ」

と注意を与えた。

「きゃう…」

と鳴いてコユキは少ししょげつつも、すぐに、

「きゃん!」(いただきます!)

と、いつもの元気を取り戻して、リンゴのパイにかじりつく。

するとそれを見たマーサが、

「あらあら。お口の周りが汚れてしまいますからね。もう少しゆっくりお上がりなさい」

と言って苦笑いをしながら、コユキの口元をハンカチで優しく拭き始めた。

そんなほのぼのとした光景に私もエリーも、父も目を細め、その場がより一層明るい空気に包まれる。

私はその空気を感じて、今回の討伐が無事に終わったということを改めて実感した。


翌日。

さっそく役場に出向き、たまった仕事を片付ける。

するとそこへベル先生がナツメを抱いてやって来た。

「お疲れじゃったのう」

と言うベル先生に、

「ああ。留守中は何事も無かったか?」

と何気なく訊ねる。

当然何も無かったことはわかっていたが、ベル先生は少し冗談っぽい感じで、

「ああ。『旋風』の連中がまたジェイたちと飲んでつぶれた以外には何もなかったわい」

と笑いながら、私の留守中の些細な出来事を教えてくれた。

「ははは。あいつらも懲りないな」

と笑いながらいったん書類を閉じる。

すると、そんな私に向かってベル先生が、

「そう言えばグレートリザードの鱗はとってきたか?」

と意外なことを聞いてきた。

「ん?ああ。一応剥ぎ取って来て衛兵隊の拠点に置いてきたが…。何かに使えるのか?」

と聞く。

すると、ベル先生は、

「ああ。一応薬になるからの。…と言ってもこの領には必要ないものじゃがな」

と苦笑いでそう言ってきた。

「?」と頭に疑問符を浮かべながらベル先生を見つめる。

するとベル先生はまた苦笑いをして、

「そのうちまた侯爵領に行くことがあったらそこで卸してくるといい。けっこうな値になるからのう。まぁ、しばらく世話になる礼だと思って受け取っておいてくれ」

と言い、その薬の代金を私にくれると言ってきた。

その言葉を聞いた私は少し慌て、

「いやいや。それはいかん。ベル先生の生活費は侯爵様からきちんといただいているし、村のためにもいろいろと頑張ってくれているんだ。本当ならこちらがさらに報酬を渡さなければならんくらいなのに、これ以上貰っては私が困ってしまう」

と言ってその申し出を固辞する。

そんな私にベル先生は苦笑いを返してくると、

「相変わらずまじめじゃなぁ」

とつぶやき、続けて、

「まぁ、薬院を建ててもらった礼もあるし、なんならナツメのこともある。そうじゃな。ナツメの当面の生活費だと思って取っておいてくれ」

と言うと、私が、

「いや、しかし…」

と言うのを手で制し、

「じゃぁ、そういうことじゃからそのうち持ってきてくれよ」

と言い残しさっさと執務室から出ていってしまった。

私はそんなベル先生の後姿を呆気にとられつつ見送る。

すると、そんなベル先生と入れ違いに、

「お茶。お持ちしたんですけどね…」

と苦笑いをしながらミーニャが執務室に茶器が乗ったカートを押して入って来た。

「ははは。なんとも忙しない人だな…」

と苦笑いしつつ、せっかくなのでお茶の時間にする。

そして、その場でミーニャに先ほどのグレートリザードの鱗の件を話すと、

「じゃぁ、私が運んでおきます」

と言ってくれたので、そちらの件は任せて、私は再び仕事に戻っていった。


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