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第138話手紙02

緑茶で軽く口を湿らせた私は、次に干し柿を口にする。

そして、

(こちらはどうだろうか?)

と思いつつ、ナナオに、

「昨年の秋は柿が豊作だったようで、なかなかの出来だ。ぜひそちらも味わってみて欲しい」

と言って干し柿を勧めた。

またナナオが、

「かたじけない」

と武士のようなひと言を発してから、干し柿を口にする。

するとナナオは驚いたような顔を見せ、

「ほう…これは…」

と感嘆の声を漏らした。

私は心の中でそっとほくそ笑みつつ、

「どうやらこの辺の森でとれる柿はかなり渋みが強い分、干すと甘味が強くなるらしい」

とこの辺りの柿の特徴を教える。

その話を聞いて、ナナオは、

「なるほど。それは羨ましいことだ」

というともう一口、干し柿をかじり、

「うん。実に美味でござる」

と本当に武士のような言葉遣いで我が領の干し柿を褒めてくれた。

その言葉になんとも言えない嬉しさを感じ、私ももう一口干し柿をかじる。

私はその濃厚な甘みを感じつつ、

(では、晩餐は米だな…)

と密かに思い、苦笑いを浮かべた。

そこへバティスが刀を持ってきてくれる。

私は、

「すまんな」

と短く礼を言って刀を受け取ると、

「どうか存分に確かめてみて欲しい」

と言ってそれをそのままナナオに手渡した。

「失礼つかまつる」

と頭を下げてナナオが恭しく刀を受け取る。

そして素早く懐から紙を取り出すとそれを口にくわえ、ゆっくりと刀を抜いた。

ナナオの目が一瞬見開かれ、次に鋭く細められる。

私はその様子を緊張しながら見守った。

やがてどのくらい時間が経っただろうか? 私には相当長い時間に思えたが、ナナオが刀を納め、紙を懐にしまい、

「ふぅ…」

と息を吐いた。

「よいものを見せていただいた」

と言ってまた恭しく刀を返してくるナナオから刀を受け取る。

そして、私は、「で。どうだった?」と言うような感じの視線をナナオに送ると、ナナオはコクンとうなずいて、

「我が一族に伝わる刀に間違いござらん。…しかも私がこれまで見たことも無いような名刀でござった」

と少し苦いようなそれでいてどこか嬉しそうな感じで刀を鑑定してみた結果を教えてくれた。

それを聞いた私は、

「そうか…」

と私も自分の持っているものが良い物でよかったいう思いを持ちつつも、

(ではやはりこれは返却すべきなのだろうか…)

という考えも浮かび、少し複雑な表情でナナオを見る。

そんな私の視線の先ではナナオもどこか複雑な表情をしてなにやら考え込むような仕草を見せていた。

(きっとお互いにどうしたものかと悩んでいるんだろうな…)

と思いつつ、しばらくお互いに考え込む。

すると、ナナオがおもむろに口を開き、

「良ければ実際に使っているところを見せてもらえないだろうか?」

と言ってきた。

「ん?ああ、それは…」

と了承しかけて一瞬言い淀む。

(実際に使っているところを正直に告げるとすると、オーガの魂とも言われる刀を伐採にも使っているということを教えなければならん…。隠すか?…いや、それは得策じゃないな。となると、正直に話したうえで怒られた方がいいか…。いや、しかし、そうなるとこれからオーガとの交流に影響がでるかもしれん…)

と自分の中で迷いながらナナオを見ると、ナナオはしっかりとこちらを見据えてなにやら覚悟を問うているような感じがした。

そこで私もひとつ深呼吸をし、

「わかった。だがその前にひとつ謝っておかねばらんことがある。…なんとも申し上げにくいが、私はこの刀を伐採にも使っていてな…。もちろん稽古の一環としてだが…」

と実際の使用用途を正直に告げた。

「…は?」

とナナオがきょとんとした顔を見せる。

その顔に私はなんともおかしさを感じてしまい、苦笑いで、

「その様子も見てみるか?」

と少し気さくにそう問いかけた。

「…なんと…」

と、ようやく私の言っていることの意味を飲み込んだらしいナナオが言葉を発する。

私はおそらく激怒されるであろうと思ったが、どこかぽかんとしたような感じで、怒っているというよりも驚いているという印象だった。

私は少し居住まいを正して、

「申し訳ないと思いつつも、便利なのでそんな使い方もさせてもらった。もし、気になるようだったらどんな風に使っているかお見せするが…」

と相手を窺うように問いかける。

すると、ナナオはどうしたものかという表情から、ひとつ深呼吸をして、

「かしこまった。ではその技見せていただこう」

と言って、私にやや厳しい目を向けてきた。

「わかった。これも無知ゆえのこととご理解いただきたい」

と言いつつ立ち上がり、

「さっそくだが、現場に移動しよう。ああ、エマ。帰って来るのはおそらく夕方になると思う。すまんが晩餐の献立は米を中心に考えてくれ」

と言うと、

「それでよろしいかな?」

と、また米という単語に驚くナナオとシュメに目をやった。


まずはナナオとシュメを客室に案内して軽く旅装を解いてもらう。

私はその間に作業用の服に着替え、裏庭にコユキとライカを訪ねていった。

エリーと一緒にくつろいでいる様子のコユキとライカに、

「コユキ、ライカ。すまんが、急に伐採の現場に行くことになった。お客人への紹介もあるから、二人とも一緒にきてくれないか?」

と声を掛ける。

するとコユキもライカも、

「きゃん!」(いいよ!)

「ぶるる」(私もいいよ)

と、それぞれ了承してくれた。

「ありがとう。じゃぁ、さっそくだが、行こうか」

と声を掛け、エリーにちょっと目配せをしてから玄関の方へと向かう。

玄関に着くと、すでにナナオとシュメが乗って来た馬は玄関先にいた。

馬を連れてきてくれたバティスに軽く礼を言い、私もライカに鞍をつけながらナナオとシュメがやって来るのを待つ。

そして、しばらくしてからやってきたナナオとシュメにまずは、

「来て早々に申し訳ない。ついでと言ってはなんだがうちのペットを紹介しておこう。こっちがフェンリルの子でコユキ、こっちのユニコーンの子はライカだ」

とうちの子達を紹介すると、まずはコユキが、

「きゃん!」(私、コユキ!)

と元気に自己紹介をし、続いてライカが、

「ぶるる…」(ライカです…)

と少し遠慮がちに自己紹介をした。

「な…!?」

と驚くナナオとシュメをコユキとライカがきょとんとした表情で見つめる。

その表情を見てナナオがハッとし、

「あ。いや、失礼つかまつった。私はナナオ。こちらが女中のシュメと申す」

と言ってコユキとライカに深々と頭を下げた。

「きゃん!」(ナナオとシュメ、覚えた!)

と嬉しそうに言うコユキに続いて、ライカが、

「ぶるる…」(よろしく…)

と少し照れたような感じで返事をする。

そんな様子に私はまた少しのおかしさを覚えつつ苦笑いを浮かべ、

「じゃぁ、紹介も終わったところでさっそく現場にまいろうか」

と二人に声を掛け、さっそくライカに跨らせてもらった。

私の先導で田舎道を進み、やがて開墾の現場に着く。

そこにはジェイさんやドワイトさんがいて、いつも通り、

「おう。ルーク。どうした?」

と声を掛けてきた。

「ああ。客人が来たんだ。それで、私の伐採の様子を見てもらうことになってな」

と事情をかいつまんで説明する。

すると、ジェイさんとドワイトさんは私の後にいるナナオとシュメにチラリと視線を向けて、ジェイさんが、

「ほう。オーガか。目にするのは何十年ぶりじゃろうな…」

と少し感慨深げにそう言い、懐かしそうに目を細めた。

私がライカから降りると、ナナオとシュメもそれぞれ馬から下りてジェイさんに、

「お初にお目にかかる。私がナナオでこちらの女中がシュメと申す」

と言って頭を下げる。

それにジェイさんは、

「ああ。俺はジェイコブス。東の賢者なんて呼ばれてるが、あまり気にしないでくれ。ただの飲んだくれのおっさんだ」

と言ってニカッと笑ってみせた。

「なんと。西の賢者殿だけでなくあの東の賢者殿までいらっしゃるのか…」

と驚くナナオに、今度はドワイトさんが、

「俺はドワイト。ただのドワーフのおっさんだ」

と冗談っぽく自己紹介をする。

そんなドワイトさんにも、ナナオは、

「今日は急に邪魔をして申し訳ない。少し見学させていただく」

と言って深々と頭を下げた。

そんな三人の様子を見て、

「それじゃぁ、さっそくだが見てもらおうか」

と言って私は村人たちが一生懸命作業をしている方に近づいていく。

そして、

「おーい。いつものように木を斬るから少し離れていてくれ!」

と声を掛けると、悪い足場を慣れた様子で進んでいき、これから斬ることになる大木の前に立った。


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