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第143話冒険へ02

「お疲れ」

と、どちらへとでもなく声を掛ける。

その声にまずはジェイさんが、

「おう!」

と、いつものニカッとした顔で応え右手の拳を突き出してきた。

そこ拳に私も拳を合わせる。

そして、ナナオの方を振り向くと、ナナオは静かに、しかし、しっかりとうなずいてくれた。

「さすがだな」

と、にこやかに声を掛ける。

そんな言葉にナナオは苦笑いをして、

「この程度ならいつものことだ」

と、どこか余裕のある感じでそう返事をしてきた。

その言葉に私もうなずき、とりあえずオークを焼いて回る。

なんとなく数えてみたが、オークは全部で二十ほどいたようだ。

(やはり奥地は何があるかわからんな…)

という緊張感を持ちつつも、適当に拾えるだけの魔石を拾い、私たちはその場を後にした。

みんなのもとに戻り、また奥を目指す。

そして昼を取り、そろそろ野営場所を見つけなければという時間になってライカが、

「ぶるる!」

と鳴いた。

「きゃぅ…」(すっごくくちゃい…)

と言ってコユキが顔をしかめる。

その言葉を聞いて、私は、

(またゴブリンか…)

と思いつつ、みんなの方に目を向けた。

ベル先生が、「やれやれ」といった感じで肩をすくめる。

ジェイさんもナナオも苦笑いを浮かべていた。

私はそんなみんなの表情に苦笑いを浮かべつつ、

「夜戦は避けたい。早めに勝負をつけよう」

と提案してライカとコユキに、

「いる方に案内してくれるか?」

と頼んだ。

「きゃん!」(わかった!)

「ひひん!」(任せて!)

と明るい声が返ってくる。

私たちは気を抜いているわけでは無かったのだろうが、どこか余裕のある感じで魔獣、おそらくは、ゴブリンがいる方へ向かって歩を進めていった。

やがて、わかりやすい痕跡を見つける。

しかし、それを見てベル先生が、

「おい。これは…」

と言って、いったん馬を止め、痕跡が残る地面をつぶさに観察し始めた。

その様子を見て心配になりながら、

「どうした?」

と訊ねる。

すると、答えはベル先生からではなくナナオから返ってきた。

「おそらくホブゴブリンだろう」

と言うナナオに目で、「それは?」と問いかける。

その視線にナナオは軽くうなずいて、

「端的に言えば大きなゴブリンだ。ヒトの背丈よりも少し大きいくらいだろう。粗末ながら武器を使うし集団戦のようなこともしてくる。多少ではあるが、普通のゴブリンよりも厄介だ」

と、その正体を教えてくれた。

それを聞いたベル先生が、

「そのホブゴブリンとやらはこの程度の深さの場所に出るものなのか?」

とナナオに問いかける。

その問いにナナオは首を横に振り、

「この森のことはわからんが、我が国ではもう少し奥で出てくるという印象がある。その痕跡からして大きな集団ではなさそうだが、油断していい相手ではないだろう」

と答えた。

私はなんとも複雑な気持ちでその会話を聞く。

そして、

「…相手がただのゴブリンだと思ってこちらから仕掛けたのは間違っていたのかもしれん…」

と素直に反省の言葉を述べた。

ここから引き返すという手はない。

おそらく相手にも気づかれてしまっているだろう。

ここでこちらが引けば余計状況を悪くしてしまう。

私たちは私の軽率な判断で、未知の相手と暗くなりつつある時間という不利な条件で戦うことになってしまった。

そんな私に、

「安心しろ。大きいとは言え、所詮ゴブリンだ」

とナナオが慰めるような言葉を掛けてきてくれる。

私はその言葉を苦笑いで受け止めつつ、

「そのホブゴブリンと戦ったことがあるのはナナオだけだ。すまんが、軽く戦い方を教えてくれ」

と素直に頭を下げた。

それに対してナナオは少し苦笑いを浮かべつつ、

「このメンツなら問題は無かろうが、普通のゴブリンと違うのは集団戦を仕掛けてくることがあるという点だ。必ず二人以上が一組になって戦う方がいい。囲まれてしまえば厄介さが増すからな」

と要点を教えてくれる。

私はそれにうなずくと、

「私とミーニャ、それにハンスが一組になろう。ジェイさんはナナオと組んで前線に出てくれ。ベル先生はナツメと組んで後衛と馬たちの護衛を頼む」

と、すぐに布陣を考えてみんなに伝えた。

「おう!」

と言ってみんながその提案を受け入れてくれる。

そこから私たちは油断なく進んで行くと、やがてそのホブゴブリンがたむろしている場所へと出た。


ホブゴブリンの第一印象はやはり大きなゴブリン。

しかし、その手には石斧のような物を持っている。

それにおそらくこちらにも気が付いているのだろう。

戦闘態勢というほどではないが、固まって辺りを警戒しているような様子が見て取れた。

「うっすらと気付かれているな…」

と、つぶやくベル先生に、

「ああ。だったら突っ込むまでよ!」

とジェイさんが答えて、ハルバードを構える。

皆もそれぞれに武器を構え、

「いつでも大丈夫です!」

とミーニャが言ったのをきっかけに、私が、

「よし、突っ込むぞ!」

と言うと、

「おう!」

と声を揃えて、私たちはホブゴブリンの群れに向かって突っ込んでいった。

まずはベル先生とナツメの魔法が先陣を切る。

突っ込んで行く私たちの後からいくつもの魔法が飛び、ホブゴブリン達を次々と倒していった。

しかし、普通のゴブリンとは違い、何匹かは盾のつもりらしい粗末な木の板を持っている。

それを上手く利用して一回魔法を交わすと今度は石斧を振りかざして私たちの方へ突進してきた。

ジェイさんとナナオがそれを迎え撃つ。

ジェイさんのハルバードはホブゴブリンの石斧をもろともせずはじき返し、確実に相手を屠っていった。

ナナオも素早い動きで攻撃をかわし相手を確実に斬っていく。

私たちの組は、私が魔法で援護しつつ、ミーニャとハンスに攻撃の隙を作って応戦した。

ナナオはそれほど大きな集団ではないと言ったが、それでも軽く2、30はいそうなホブゴブリンをなんとか蹴散らしていく。

そして、やがて日が暮れようかという時間になってようやく最後の一匹がナナオの手によって斬られ、戦いが終結した。

ほんの一瞬ほっとした気持ちになったが、すぐに辺りを警戒しつつ、ホブゴブリンの後始末を始める。

倒れたホブゴブリンを数か所に集め、火を着けると、その他の魔獣同様勢いよく燃え、それはあっと言う間に灰になっていった。

そこでようやく一息吐く。

私が、

「今日はここで野営にするか…」

と苦笑いで言うと、コユキから、

「きゃぅ…」

という不満の声が上がった。

仕方なく少し移動してから野営にする。

暗い森の中を長時間移動するのは危険だと判断して、コユキがギリギリ我慢できる程度の匂いになったところで、手早く野営の準備を始めた。


緊張の夜を過ごした翌朝。

少しの疲れを残しつつも再び奥を目指す。

その日は普通のゴブリンの集団に遭遇したが、それ以外に目立ったことはなく、順調に行程を重ねることができた。

昨日のこともあり、ここは少しゆっくりと体を休めておいた方がいいだろうという私の判断でその日は少し早めに野営の準備に取り掛かる。

私たちはハンスとミーニャに調理を任せて、さっさと寝床の設営を始めた。

簡単に準備を終え、軽くお茶を飲みながら、

「一応、順調だな」

と言ってくるナナオに、

「ああ。このまま順調に進んで欲しいよ…」

と肩をすくめつつ苦笑いで答える。

その言葉にジェイさんが、

「ふっ」

と小さく笑って、ベル先生が、

「本当に何事もなければよいがのう…」

と、どこか遠くを見やるような目でそう言った。

「にゃぁ」(今から心配してもしかたのないことじゃ。とりあえず目の前の敵を全力で倒しにかかる以外できることはないわい)

とナツメがどこか達観したようなことを言う。

私はそれにうなずきつつも、また苦笑いで、

「いったい何がでてくるのやら…」

と少しおどけたような態度でそう言ってみせた。

「ふっ。もしかしたら邪竜でも出てくるかもしれんぞ?」

とナナオが冗談を言う。

私はそれに、

「ははは。それはおおごとだ」

と冗談で返すと、その場に束の間の笑顔がこぼれた。

やがて、

「スープができましたよ!」

というミーニャの声が掛かる。

私たちは、ベル先生の、

「お。待ってました!」

という嬉しそうな声に続いて、いつも美味しいミーニャのスープをもらいに行こうと腰を上げた。


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