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第144話冒険へ03

十分に、とはいかないがある程度英気を養った翌朝。

また奥地を目指して進んで行く。

私たちはとうに未知の領域に足を踏み込んでいる。

残りの食料のことも考えるとこの領域での行動はあと4日ほどが限界だろう。

ジェイさん曰く、

「なに。困ったら狩ればよい」

という事だったが、私はなるべくそうならないことを祈りつつ歩を進めていった。

しばらく歩き、草原に出る。

すると異変は突然やって来た。

「ひひん!」(来るよ!早い!)

とライカが叫ぶ。

すると次の瞬間、遠くから、

「グギャァ!」

というけたたましい声が聞こえて何か大きな影がこちらに向かってくるのが見えた。

「コカトリスじゃ!」

と叫んでベル先生の魔力が上がる。

それを聞いて私も慌てて戦闘態勢をとると、

「防御は私がやる。ジェイさん、ナナオ、突っ込むぞ!」

と指示を出し、徐々に魔力を急いで魔力を全身に纏わせつつ走り出した。

「おう!」

と後ろから声がしてジェイさんとナナオが私についてくる。

そんな私たちを追い越すかのようにベル先生かナツメの魔法がコカトリスに向けて飛んでいった。

「グギャァ!」

と声を上げて、コカトリスが羽で自らの体を覆うようにして魔法を防ぐ。

私はそれに構わず突っ込むとさらに風の魔法を放ってコカトリスに追い打ちをかけた。

そこへジェイさんが突っ込んでいく。

私はまた間髪入れず魔法を叩き込み、一気に勝負を決めにいった。

しかし、そこへ、

「二匹だ!」

とナナオの声が掛かる。

すると、私の後方からまた魔法が飛んできて、今いるコカトリスのさらに後ろのほうへと着弾した。

「グギャァ!」

と、またけたたましい声が上がる。

私は、

(ちっ…!)

と心の中で舌打ちをしつつ、

「ジェイさん!」

と叫びながら、まずは目の前の一匹の足を止めるべく力を込めた風魔法を放った。

その一撃がコカトリスの羽を大きく傷つける。

また、

「グギャァ!」

と汚らしい声が上がったが、私はそれを無視して、下がって来るジェイさんの前に立ち防御魔法を展開した。

予想通り羽が襲い掛かってくる。

私はそれをなんとかはじくと、今度は思いっきり速度を上げてコカトリスに突っ込んでいき、渾身の力を込めた一刀でその足を両断した。

「グギャァ!」

と声を上げて倒れるコカトリスを横目に、

「後始末は頼む!」

と叫んで次に向かう。

後衛からの魔法が飛び交う中、私はもう一匹のコカトリスに近づくとまた思いっきり力を込めて風魔法を放った。

その魔法が二匹目のコカトリスの足元を削る。

しかし、そのコカトリスはやはり汚い声を上げて痛がったものの、そこで怯まず、私に向かって無数の羽を飛ばして来た。

「なっ!」

と思わず声を出しつつもなんとかそれを防ぐ。

しかし、その隙にそのコカトリスは私の方へと突っ込んできて、その凶悪な嘴を突き立てて来た。

「うおっ!」

と、また思わず声を出しながらなんとかそれを避ける。

しかし、私はその攻撃で体勢を崩し、体を投げ出すように地面に転がってしまった。

そこへコカトリスの尻尾が迫って来る。

私は慌てて防御魔法を使いなんとかそれを防いだが、さらに体勢を崩してしまった。

転がるように移動してなんとか体勢を立て直す。

しかし、そこへまた尻尾の攻撃が飛んできた。

それをまた転げるようにして交わす。

(このままでは埒が明かん…)

と思ったが、かといって有効な手段がなく防御と回避を続けていると、そこへナナオが飛び込んできてくれた。

「任せろ!」

と叫んでナナオがコカトリスに突っ込んでいく。

そして、ナナオは振り回されるコカトリスの尻尾をギリギリでかわすと一刀のもとにそれを両断してみせた。

その剣の凄まじさに一瞬驚きつつも、この機を逃してはいけないと思い、慌てて風魔法を叩き込む。

するとその風魔法はまたコカトリスの足元を削り、大きな隙を生むことに成功した。

そこへ今度はジェイさんが突っ込んできてハルバードをその足に叩き込む。

その攻撃を受けてコカトリスは明らかに痛がったあと、地面に倒れ伏してしまった。

私はすかさず突っ込んで行き、コカトリスの首元めがけて思いっきり刀を振り下ろす。

すると、魔力の乗った刀は青白い光を放ちながらコカトリスの首を刎ね、そこでなんとかその戦いが終わった。

残身を取りつつも、

「ふぅ…」

とひとつ息を吐く。

突然のことに少し興奮しているのだろうか、私はいつもより息が上がっているのを自覚すると、それを鎮めるように、もう一度、

「ふぅ…」

と深呼吸をした。


そこへジェイさんとナナオがやって来る。

二人とも冷静なように見えるが、

「まったく。この森は飽きねぇな」

「ああ。うちの国の森も同じようなものだ」

と言って苦笑いをしているから、多少は動揺していたのだろう。

私はそんな二人に苦笑いを返しつつ、

「とりあえず、解体はどうする?」

と声を掛けた。

やがてやって来たベル先生に相談すると、前回の分がまだ在庫としてあるが、貴重な品であることに変わりはないので、一匹分は採取させてくれと言われたので、解体はベル先生とミーニャ、そしてハンスに任せて私たちはもう一匹のコカトリスを焼きに行く。

苦労して倒したコカトリスはその巨体にふさわしく盛大に燃え、しだいに灰になって消えていった。

コカトリスが灰になったのを確認してベル先生たちのもとに向かう。

すると、そこへナツメがトコトコとやって来て、

「にゃぁ」(もう少々かかる。すまんが、お茶にしてくれんかのう)

と若干呑気なことを言ってきた。

その言葉に苦笑いしつつ、お茶の準備を始める。

そして、私たち前衛組は先に休息を取らせてもらいながら、ベル先生の指示のもと慎重に解体を進めていくミーニャとハンスの姿を見守った。

やがて、解体が終わり全員でお茶にする。

時間は午後を少し回ったところで、午後のお茶にはもってこいの時間ではあった。

「これで魔獣がいなければ絶好のピクニック日和なんじゃがのう」

とベル先生が美味そうに緑茶を飲みつつ苦笑いでそんな冗談を言う。

私もそれに苦笑いしながら同調し、

「いつかこの森が平和になったら家族にもこんな景色を見せてやりたいものだな」

と、目の前に広がる雄大な草原を眺めながら目を細め、そんな冗談を言った。


お茶を飲み終え、また奥を目指して進んでいく。

その日は、

「ぶるる」(この辺にはいないっぽいよ)

と言ってくれるライカの言葉や、

「そうじゃな。コカトリスの縄張りだったところにそうそう魔獣は出て来んじゃろうて」

と言ってくれるベル先生の言葉に安心してゆっくりと体を休めることができた。


翌日も変わらず奥を目指す。

一応、今回の予定は明日で引き返すことにしていた。

ここまでくれば、後は何事もなく終わってくれることを願うだけだが、その一方で、原因があるのであれば早めに突き止めておきたい、という気持ちもあった。

(さて、今度は何が出てくるのやら…)

と、なんとも複雑な気持ちで歩を進める。

すると、最近ではすっかりお馴染みになってしまったゴブリンの痕跡に突き当たった。

(はぁ…)

と心の中でため息を吐きつつその痕跡を追っていく。

しかし、追っているうちに、

(おいおい。けっこうな集団なんじゃないか?)

と思える節が出て来た。

「これは結構な大きさじゃな…」

とベル先生がため息交じりにそう言って、ジェイさんやナナオも肩をすくめる。

しかし、ライカは、

「ぶるる…」(気配はないよ?)

と、おかしなことを言った。

コユキも、

「きゃん!」(あんまり臭くない。ちょっと臭い)

と言う。

その言葉を聞いて私たちはなんとも不思議に思いつつ、慎重にその痕跡を追っていった。

やがて、開けた場所に出る。

そこは小さな洞窟の前に広場があるような場所で、よく見ると確かにゴブリンの集団がいたような痕跡があった。

しかし、そこに動く影はない。

私たちは、いったいどういうことなんだろうか?と疑問に思いつつ、遠めに見ていたのではわからないだろうという結論にたっし、その広場に近づいて詳しく様子を見てみることにした。


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