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第146話冒険へ05

ミノタウロス討伐という方針が決まり、そこからは作戦立案に入る。

洞窟の中にエサとおぼしきものを運び込んでいたからには、もしかしたら数は2よりも多いかもしれなという予測のもとに作戦を立てていった。

話し合いの結果、まずは私とナツメが洞窟の中を進めるだけ進み、接敵したらとりあえず牽制の魔法を放って逃げ、相手を洞窟の中から引っ張り出してくるという作戦に落ち着く。

奇襲や奇策も考えなかったわけではないが、外れた時は逆にこちらが不利になってしまうという理由で正攻法に近い作戦をとることになった。

私がおびき出してきたらベル先生が魔法を放ち、それで決着がつくならそれでよし、そうでなければいつものようにジェイさんンとナナオが前衛で私が中衛、ベル先生とナツメが後衛に陣取って戦うということになった。

「結局、いつも通りじゃの」

と少しシニカルな笑みを浮かべつつそう言うベル先生に、

「私たちらしく戦うのが一番効率的ということなんだろうな」

と苦笑いで答える。

それに、

「ふっ。まぁ、そうじゃな」

とベル先生が納得したような事を言って、その日はまた交代で見張りをしながら、緊張して夜を過ごすことになった。


翌朝早く。

まだ夜明け前からさっそく行動に移る。

まだ暗い森の中を慎重に進み、空が白み始めるころになって問題の洞窟の入り口がはっきりと見える所までたどり着いた。

「ここからは徒歩で行こう。ハンス、ミーニャ頼んだぞ」

と馬たちのことを二人に頼む。

そして二人から気合のこもった返事をもうと、私はライカのもとに近寄り、

「よろしく頼むな」

と微笑みながら後のことを頼んだ。

「ひひん!」(任せて!)

と頼もしい返事がくる。

私がそれに応えてさらにライカを撫でてやると、

「きゃん!」(私も頑張るもん!)

とコユキから抗議の声が上がった。

「ははは。ああ。お姉ちゃんたちの言うことをよく聞いていい子にしてるんだぞ」

と言いながら、コユキのことも優しく撫でてやる。

するとコユキは、

「きゃん!」(うん!)

と嬉しそうに言って気持ちよさそうな顔になった。

そんなやり取りで場の空気が少し和むとさっそく洞窟の入り口に向かって歩を進めていく。

近づくにつれてだんだんと緊張感が増し、鼓動が激しくなっていくのを感じた。

そんな私に、

「にゃぁ」(落ち着け)

とナツメが冷静な声を掛けてくる。

私はそれに苦笑いしつつ、

「ああ」

と答えると、ひとつ深呼吸をして自分の気持ちを少し落ち着けた。

やがて洞窟の入り口に着く、一応木陰から様子を見てみたが、ミノタウロスらしき気配はない。

私たちは互いに見合ってうなずき合うと、さっそくそれぞれの位置に着いた。

私はまたひとつ新呼吸をしてナツメを肩に乗せた状態で松明片手に洞窟に入っていく。

洞窟の中は思ったよりも広く、あの巨体のミノタウロスでもけっこう奥まで入って行けるだろう広い空間が続いているように思われた。

しばらく進むとなにやら黒色の水晶のような鉱物が所々から顔を出し始める。

(ほう。なにかの宝石だろうか…。無事に討伐が終わったらジェイさんに見てもらおう)

と、あえて呑気なことを考えつつ進んでいく。

すると、またしばらく進んだところで、洞窟の奥から、

「ブモオォ!」

と、まるで地面を揺らすかのように低く恐ろしい声が聞こえてきた。

その恐ろしい声が洞窟の中で反射して余計に恐ろしく聞こえる。

私は一瞬、おののきながらも「ふぅ…」と短く息を吐き、気を落ち着けてそばにあった大きな岩の陰から洞窟の奥を見つめた。

ドシンという音が響く。

続いてまたドシンという音が響いたからおそらくこちらに近づいてきているのだろう。

私はそう判断すると、ナツメに、

「いいか?」

と軽く問いかけた。

「にゃっ!」

と短く返事がくる。

私はそれにうなずくと、岩陰から出て堂々と中央に陣取った。

また、

「ブモオォ!」

と雄叫びが聞こえてくる。

(気付かれたな…。さぁ。どんな攻撃を仕掛けてくる?)

と集中しながら構えていると、驚いたことに人の上半身ほどの大きさの岩がいきなりこちらに飛んできた。

「なっ!?」

と思わず声を出して転がるようにそれを避ける。

私は内心、

(おいおい…)

と思いながらも、

「ナツメ!」

と叫んで、ナツメに魔法を撃ってくれるよう頼んだ。

「にゃっ!」

と返事が来て、ナツメが炎の魔法を放つ。

(いや、密閉空間んでそれは…)

と思ったが、その炎の魔法は人の頭ほどの大きさで空中でふよふよと浮いているだけのものだった。

(なるほど。明り取りか…)

と思いつつ、その炎に照らされた洞窟の奥を見る。

するとそこには間違いなくミノタウロスの影が二つあり、またこちらに向けて岩を投げ込んでこようとしているところだった。

(させるかっ!)

と思いつつ、その岩めがけて風魔法を放つ。

すると、ナツメも同時にミノタウロスめがけて風魔法を放ち、

「ブモオォ!」

という悲鳴を上げさせた。

(効いたか?)

と思いつつミノタウロスを見る。

ミノタウロスは突然岩が砕かれ、胴体に切り傷を負ったことで、驚いた様子を見せていたが、どうみても致命傷には至っていないように思えた。

「…ちっ」

と思わず舌打ちをしてまた魔法を撃ち込む。

ナツメも続けざまに魔法を放ってまたミノタウロスに、

「ブモオォ!」

という声を上げさせた。

しかし、そんな攻撃を受けつつもミノタウロスがさらに岩を持ち上げる。

私はそれを見て、

「退却!」

と叫ぶと、飛んでくる岩から逃げるように洞窟の入り口を目指して走り始めた。

「にゃぁ」(防御は任せい)

と言ってくれるナツメを信じて駆け抜ける。

背後で時々ドン!という音がするからおそらくミノタウロスが岩を投げつけてきているのだろう。

私は、内心、

(これは、下手に突っ込んだのは失敗だったかもしれんな…)

と反省しつつも懸命に走り、ようやく洞窟の入り口にたどり着いた。

「来るぞ!出鼻をくじいてくれ!」

とベル先生に向かって叫ぶ、

ベル先生からは、

「おう!」

と力強い声が返ってきて、私は射線からずれるようにベル先生の横を走り抜けた。

その瞬間、ベル先生の魔力が高まる。

そして、ミノタウロスの影が二つ見えた時、その魔力が一気に魔法となって解き放たれた。

すさまじい勢いで飛んでいく無数の光の矢がミノタウロスに襲い掛かる。

次の瞬間、

「ブモオォ!」

とミノタウロスの叫び声が上がった。

どうやら効いたらしい。

そう思ってミノタウロスの方を見るが、そこに、

「まだだ!」

とジェイさんの声が掛かって、ジェイさんとナナオの二人がミノタウロスに向かって突っ込んでいくのが見えた。


私もベル先生の前に出て、

「援護を頼む!」

と声を掛け走り出す。

私はまず、ジェイさんが相手にしている比較的傷の少ない個体に向かって風魔法を叩き込んだ。

ミノタウロスの二の腕の辺りがパッと切り裂かれる。

しかし、どうも深手にはなっていないようだ。

(おいおい。けっこう強めにいったぞ…)

と思いつつ、ジェイさんに振り下ろされる拳に向かって今度は防御魔法を展開した。

しかし、ミノタウロスの拳はその防御魔法をやすやすと通り抜けジェイさんに襲い掛かる。

それでも、一瞬だけ攻撃を遅らせることができたからだろうか?ジェイさんはすんでのところで、拳をかわし、転がるようにしてなんとか攻撃を避けることが出来た。

(なんて力だ…)

と驚愕しつつも、牽制程度の魔法を放ち、敵の注意をこちらに向ける。

そして、その恐ろしい拳を避けながらなんとか格闘していると、その隙をついてジェイさんがミノタウロスの脛の辺りに強烈な一撃をかました。

「ブモオォ!」

と地鳴りのような声があがる。

どうやらこれは効いたらしい。

脛を押さえてうずくまるミノタウロスの首筋ががら空きになった。

そこへ躊躇なく風魔法を撃ち込む。

するとミノタウロスの首からパッとドス黒い血が吹きだした。

「後は任せろ!」

と言ってくれるジェイさんに背を向けてナナオの方に向かう。

見ればナナオはなんとか攻撃を凌ぎながらもなかなか手が出せないでいた。

後衛からの魔法で徐々に削られつつもなかなか倒れないミノタウロスに手を焼いているように見える。

私は、

「足元を狙う!」

と言うと早速ミノタウロスの膝辺りに風魔法を撃ち込んでその動きを止めにかかった。

風魔法が確実にミノタウロスの膝を捉える。

しかし、その傷はまたも浅く、ミノタウロスをうずくまらせるほどの効果は得られなかった。

(…もしかして、魔法に強いのか?)

と思いつつも今度はナナオに襲い掛かろうとしていた腕めがけて魔法を撃ち込む。

すると、今度も確実に命中したが、ミノタウロスの攻撃をやや鈍らせるほどの効果しか出せなかった。

(ちっ…。やっぱりか…)

と思いつつ、

「こいつ、魔法に強いぞ!」

と叫んでミノタウロスの懐に飛び込んでいく。

当然それに気が付いたミノタウロスは私めがけてその凶悪な拳を振り下ろしてきたが、私はそこでさっと退き、ミノタウロスに大きな隙を作ることに成功した。

その隙を逃さずナナオがミノタウロスに肉薄する。

そして次の瞬間ミノタウロスの膝がスパッと斬り落とされた。

そこで勝負はほぼ決まる。

私は続けざまに魔法を放ち、かすり傷を負わせ、ミノタウロスが嫌がって出来た隙にナナオがその首をさっと斬り裂いた。

ジェイさんの方を振り返れば、こちらも沈黙している。

私はそこでようやく刀を納め、ナナオに拳を突き出した。


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