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第147話冒険へ06

私の出した拳に少し照れたような苦笑いでナナオが拳を合わせる。

そこへジェイさんもやって来て同じように拳を合わせた。

三人でベル先生とナツメのもとに向かう。

こちらでは軽くハイタッチを交わしてお互いの健闘を称え合った。

「やれやれ。どんだけ強いんじゃ…」

とため息交じりに言うベル先生に、

「魔法にはやたらと耐性があるようだな」

と自分が感じたことを伝えると、ベル先生の足元から、

「にゃぁ」(ああ。そのようじゃのう…)

とナツメが返事を寄こしてきた。

「魔法に強い魔獣がいるってことは、逆に物理攻撃に強い魔獣もいるってことだろうか?」

と率直な疑問を述べる。

するとベル先生は驚いたような顔をして、

「…なるほど。そういう考えもあるのう…」

と目から鱗というような感じで言葉を発した。

ナツメも、

「にゃぁ」(魔獣というのはほんに不思議な存在じゃのう…)

と、どこか他人事のような感じでつぶやく。

私はなんとなく、

(ゲームだとそういう設定はよくある話だよな…)

と妙な前世の記憶を思い出しつつ、

「これから奥に行くときは魔法組と剣術組の両方を揃えてから向かうようしなければいかんな」

と、つぶやいた。

それを聞いてナナオが、

「我が国は魔法使いが少ない。いないわけではないが、強力な使い手は限られるから、かなり注意が必要だな…」

とこちらは思案顔でつぶやく。

私も、

(うちも私を含めて魔法組の強化を急がんとな…。いつまでもベル先生やナツメに頼りっぱなしという訳にもいかんだろう…)

と領主らしいことを考えながら、

「とりあえず、馬たちの所まで戻ってお茶にしよう」

と、あえて気楽な感じでみんなにそんな言葉を掛けた。


そんな私たちが来た道を戻っていると途中で、

「きゃん!」

「ひひん!」

と鳴き声がして、コユキとライカがこちらに駆け寄って来る。

私はそれを嬉しく思いながら、

「ただいま!」

と声を掛け、甘えたように頬ずりをしてくるライカを受け止めた。

その背中から、

「きゃん!」

とコユキの鳴く声がする。

私はいったんライカから手を放しコユキを抱きかかえると、

「いい子に出来て偉かったぞ」

と言いながら思う存分撫でてやった。

その後から馬たちを連れたハンスとミーニャもやって来る。

私は、

「落ち着ける場所を見つけてとりあえずお茶にしよう」

と声を掛けると、またミノタウロスと戦った方向に向けて少し戻っていった。


結局、ミノタウロスと戦った場所まで戻ってそこでお茶にする。

私たちは倒したばかりのミノタウロスの巨体を見ながら、

「まったく。よくこんなのと戦ったものだな…」

「ふっ。そうじゃな」

「ああ。今思えば肝が冷えるどころの騒ぎじゃねぇ」

「にゃぁ」(ははは。面白い経験をさせてもらったわい)

「ああ。いい勉強になった。…もう懲り懲りだがな」

と、それぞれに苦笑いを浮かべながらそんな感想を口にした。

「そんなに手ごわかったんですか?」

と聞いてくるミーニャに、

「ああ。何発魔法を撃ち込んでもかすり傷程度しかつけられなかった」

と簡単に状況を説明する。

すると、ハンスが、

「じゃぁ、もし衛兵隊で相手をすることになったら、後衛の弓隊は人数を揃えた方がいいっすね。遠目からじゃんじゃん弓を射こんでその隙に盾と剣が攻撃するって感じっすかね」

と、もし衛兵隊が相手をすることになったらという想定でさっそく作戦を立て始めた。

私はその姿勢を頼もしく思いつつ、

「ああ。その作戦がいいだろう。こいつは魔法にめっぽう強かった。しかしその逆。つまり物理攻撃にめっぽう強い魔獣が出てこんとも限らん。うちも魔法組の強化が必要だな。その辺りを今後の訓練の参考にしてくれ」

とハンスのちょっとした注文を出した。

「了解っす!」

とハンスがいつものニカッとした笑顔で応える。

私もその笑顔に笑顔で応えると、

「頼んだぞ」

と言って、軽く拳を突き合わせた。


その後、さっそくミノタウロスの解体に取り掛かる。

といっても、使える素材は角くらいだろうということだったので、私とナナオが刀で角を落としてその作業は簡単に終わった。

そして、角を馬に積み、そろそろ引き返そうかという所で、

「ああ。そう言えば…」

と洞窟の中で見た黒色の水晶のような結晶のことを思い出す。

そして、そのことをジェイさんに話すと、ジェイさんはまさしく「くわっ!」と目を見開いて、

「採取させてくれ!」

と、かなり勢い込んだ様子でそう言ってきた。

「あ、ああ。もちろんだ」

と、ジェイさんの勢いに気圧されつつ、了承する。

すると、ベル先生が、

「野営の準備と警戒はしておくから、ゆっくり行ってくるといい」

と言ってくれたので、私とジェイさんは二人して松明を持ち洞窟の中へと入っていった。

ほどなくして、私が見た黒い結晶がある場所に着く。

落ち着いてみると、その結晶は洞窟のいたるところから顔を出していた。

「…こ、これは…」

とジェイさんが驚きの表情を浮かべる。

私は、

(ほう。珍しい鉱物だったようだな)

と思いつつ、

「珍しいものだったのか?」

と何気ない感じで気楽に訊ねた。

そんな私にジェイさんが興奮したような顔で、

「珍しいなんてもんじゃねぇ!こいつは大発見だ!」

と鼻息荒く言ってくる。

私はまたその勢いに気圧されつつ、

「お、おお…」

とだけ答えた。

そんな私にジェイさんが、いつになく真剣な顔で、

「いいか。こいつはジュール鉱つって、オリハルコンの原料の一つだ…」

と言ってくる。

私は一瞬「?」と思ってしまったが、すぐにピンときて、

「なにっ!?」

と驚きの声を上げた。

「大発見じゃないか…」

「ああ。大発見だ…」

とお互いにどこか間抜けな感想を言い合う。

そして、ハッとして気を取り直すと、

「とれるだけ取っていこう。どのくらい必要な物なんだ?」

と聞く。

そんな質問にジェイさんは、

「普通の剣に使うのは握りこぶし一つ分もあれば十分だが、こんな機会は滅多にあるもんじゃねぇ。今回は取れるだけ取っていくぞ」

と言ってさっそくハルバードの石突の部分でそのジュール鉱を慎重に叩き始めた。

音から察して相当硬いものらしい。

私はジェイさんが砕いたジュール鉱を取りこぼしが無いように慎重に袋に入れていく。

そうやって作業すること一時間ほどが経っただろうか?持って来た袋いっぱいにジュール鉱が取れたところで、私たちはいったん洞窟の入り口へと戻っていくことにした。

やがて、入り口に戻りみんなにもそのジュール鉱を見せる。

ナナオやミーニャ、ハンスはピンときていなかったようだが、ベル先生とナツメはそれこそ目が飛び出そうなほど驚き、唖然としてその黒々とした石を見つめた。

「そんなにすごいものなんですか?」

というミーニャに、

「この一袋で御殿、そうだな、役場くらいの建物が2、3軒建つぞ」

とその価値を教える。

すると、ミーニャは驚いたような顔をして、

「こんな石ころが…」

と驚いたような感心したような顔で掌に乗せたジュール鉱をまじまじと見つめ始めた。

「加工は?」

と聞くベル先生にジェイさんが、

「ノバエフなら問題ねぇ」

と答える。

私は、

(何気にノバエフさんってすごい人なんだな…)

と思いつつ、我が領に新しい産物が生まれたことを領主として喜びながら、ミーニャの手に乗った小さくて黒い石ころを見つめた。

やがて、一同が落ち着きを取り戻し、とりあえず食事にする。

私はまたしても、

(このミノタウロスが食えればなぁ…)

と思いながら、ミーニャが作ってくれた干し肉入りのスープをゆっくりと味わった。

気が付けば空は群青色に染まっている。

私はその鮮やかな色の空を見上げながら、

(一応、終わったな…)

と、なんとも言えない感慨にふけった。


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