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第151話収穫祭01

初秋ののんびりした空気は秋が深まるにつれて慌ただしいものに変わっていく。

私も各地の手伝いに駆けまわり、書類の整理に追われた。

私が見る限り収穫は順調に行われている。

その中でリンゴの実が生るのが少し遅くなったようだという報告があり少し心配になったが、最終的には順調に実をつけているというのでほっと胸をなでおろした。

そんな忙しい合間にジェイさんがドワイトさんを伴って役場にやって来る。

執務室に入って来るなりジェイさんはどっかりとソファに座って、

「茶はちょいと渋めにしてくれ」

と遠慮なくミーニャに注文を出した。

私も仕事の手を止めてソファに腰掛ける。

そして、

「どうした?」

と聞くとジェイさんが、

「ああ。そろそろ収穫祭の準備を始めようと思ってな」

と、なんとも魅力的な話を切り出してきた。

「いいな!」

と前のめりで返事をする。

すると、ジェイさんとドワイトさんは二人ともニカッと笑って、

「へへっ。今年は豪勢にいくぜ!」

「ああ。屋台の設えは任せとけ!」

と嬉しそうにそう言ってくれた。

そんな二人とがっちり握手を交わしてから、あれやこれやと計画を練っていく。

こういう仕事はなんとも楽しいもので、気が付けばすっかり夕方になっていた。

(…ああ、今日の仕事は明日に持ち越しか…)

と思いつつ苦笑いで執務机の上に置かれた書類の束を見る。

そんな私にジェイさんが、

「ははは。ご領主様ってのは大変だな」

と他人事のような言葉を掛けてきた。

「ははは…」

と肩をすくめながら苦笑いを返す。

しかし、嫌な気持ちはいっさい湧いてこなかった。

翌日からはみんなして準備に奔走することになることが決まり、その日の話し合いが終わる。

私は屋敷に戻り夕飯の席でみんなにさっそく今年の収穫祭はいつもより豪勢にやることになったという話をした。

「まぁ!楽しみですわ!」

と嬉しそうな声を上げるエリーに、

「ああ。うちの村だけじゃなく、他の村にもたんまりと酒や食材を持って行って豪勢にやってもらうつもりだ。ドワイトさんたちも全面協力してくれることになったから、領内のみんなが盛り上がるぞ」

と微笑みながら答える。

するとエリーが、

「うふふ。私は何をお手伝いしましょうか?やっぱりカレーですか?」

と嬉しそうな顔で聞いてきた。

「ああ。そうだな。あ、でもそれ以外にも子供が喜びそうなものが欲しい…。なにかいいものを思いつかないか?」

と訊ねる私に、エリーが少し考え、

「女の子向けだったらリボンやお手玉でしょうか…?」

と答えてくる。

その案に私は、

「いいな!よし、織物工場にも手伝ってもらって端切れをもらってこよう。ああ、色付けはエチカやシリウスにも手伝ってもらえばいいし、人手が足りなければリリアーヌ達にも手伝いを頼んでくれ」

と答えてすぐ実行に移してくれと頼む。

そして、今度は父に、

「男の子向けには何か思いつきませんか?」

と訊ねてみた。

そこで、父が、

「うーん…」

と唸る。

どうやら、子供が喜びそうなものを考えるというのは父とってはかなりの難題だったようで、パッとは思いつかないというような様子を見せた。

そんな様子を見て、私も、

(うーん。子供が喜びそうなものと言えばなんかしらのおもちゃの類だろうとは思うが、手作りで出来る物というとなにがあるだろうか…)

と考えを巡らせ、父と一緒に唸る。

そんな私たちにエリーが、

「男の子向けだったら、風車なんていかがですか?あれなら簡単に作れますわよ?」

と提案してくれた。

その提案に私は、

「おお。それはいいな」

と言うが、父は、

「…私にできるだろうか?」

と心配そうな顔で訊ねてくる。

そんな父にエリーが、

「うふふ。大丈夫ですわ。型紙さえあればいろんな形のものが作れますし、材料もあり余りの紙や木でできますから、たくさん作れますわよ」

と気軽に声を掛け、私も、

「ええ。あれならそう難しくもないでしょう。ああ、ついでに竹とんぼなんかも作ったらどうです?あれなら男の子は大はしゃぎすると思いますよ」

と気軽に挑戦してみてくれというような言葉を掛けた。

そんな励ましのような言葉に、父が、

「おお。竹とんぼか。あれは小さい頃よく作ったな。よし。あれなら大丈夫だろう。それに風車というのも面白そうじゃ。ぜひ挑戦してみよう。なぁ、バティス?」

とバティスも巻き込みながら、楽しそうに応える。

そして、バティスが、

「かしこまりました。一緒にお作りしましょう」

と言って快く了承すると、父とバティスのおもちゃ作りが決まった。

私は他にも、なにかないかと思って、色々と考える。

(子供も大人も喜ぶとなればやはり食べ物か…。肉や酒は衛兵隊やジェイさんたちが用意するだろうから、カレー以外となると、やはり甘味だな。お祭りで気軽に食べ歩きが出来るようなものというと…)

と考えを巡らせていると、私の頭の中にはまず団子が浮かんできた。

(ああ、そう言えば餡子が無い。しかし、醤油があるならみたらし団子はできるだろう。となると、そちらは村のご婦人方に任せてやってもらっても良さそうだな。あとは…)

と考える。

そして、

(たしか、今年の秋は最初の蜂蜜を採取する予定になっていなかったか?だとすればそれを使ったお菓子が出来る…。ああ、でもそんなに大量には無いから、少量でいいものとなると…)

と考えていると、

(ドーナツ!そうだ、揚げたお菓子は珍しいし、子供も大人も喜んでくれるはずだ。蜂蜜を使ってハニーディップにしてやればみんな喜んでくれるぞ!)

とドーナツの存在を思い出した。

そんな私にエリーが、

「なにか思い付かれたみたいですわね?」

と微笑みながら問いかけてくる。

私はそれに、

「ああ。いいのを思いついた。さっそく時間を見つけて試作に入ろう。米の粉はあったか?」

と、こちらも微笑みながら問い返すと、エリーが、

「お米を粉にするのであれば、石臼を借りてこないといけませんわね」

と嬉しそうに答えて、明日からさっそく各所で材料の調達やらの準備に入ることが決定した。


翌日からバタバタとした日々が始まる。

私は米の粉、つまり上新粉を作ってくれるように農家に頼みに行ったり、とれたばかりの蜂蜜を分けてもらいに行ったりと方々を駆け回り、材料が集まるとそれをもとにエリーとみたらし団子やドーナツの試作を重ねていった。

父やバティス、その二人を手伝うジャック、エマやマーサも楽しそうに準備に追われている。

そんな光景を見ながら、私は、

(今年の祭りは楽しくなるぞ…)

という手ごたえをつかみながら、日々の仕事をこなしつつ忙しくも楽しい時間を過ごした。


やがて、収穫が最盛期を迎えると今度は本格的に各地の手伝いに奔走する日々が始まる。

収穫祭の話は領内全体に行き渡っているらしく、どこへ行っても、

「楽しみです!」

という明るい声が聞こえてきた。

私は領主としてというよりもこの領に住む住民の一人としてそんな活気に溢れた様子を嬉しく思い、日々の収穫作業や書類仕事に益々精を出す。

そして、収穫作業が一段落すると、いよいよ祭りの準備は最終段階を迎えた。

会場の設営はドワイトさんたちを中心に大工の連中がやる気を見せてくれたおかげで各村になかなか立派な会場が出来上がっている。

私はそれを見て回るついでにドーナツや団子のレシピを配り作り方の指導をして回った。

そして、家族が丹精してくれたおもちゃも出来上がると、今度はそれを馬車に積んで各村に配って回り、祭りの準備は着々と進んでいった。


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